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「今はみんな似た選手ばっかり…」大久保嘉人が語る日本サッカーへの違和感

元川悦子スポーツジャーナリスト
ピッチでつねに闘争心を押し出す大久保嘉人(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

 2022年カタールワールドカップ(W杯)での8強入りの目標を掲げながら、アジア最終予選で大苦戦を強いられている日本代表。傑出した点取り屋の不在は深刻な問題だ。

 絶対的エース・大迫勇也(神戸)は近年、相次ぐケガに苦しんでいる。古橋亨梧(セルティック)や前田大然(横浜FM)のように結果を出しているFWはいるものの、世界に通じるストライカーが出現したとは言い切れないのが実情である。

 史上初の3年連続J1得点王(2013~15年)、J1歴代最多191ゴールの偉大な記録を持つ大久保嘉人(C大阪)は「今はみんな似た選手ばっかり」と苦言を呈する。   

 野性味あふれる39歳の大ベテランが日本サッカーの課題をストレートに語ってくれた。

レナトにブチ切れたフロンターレ時代

――大久保選手は最近の日本代表の戦いぶりをどう見ていますか?

「自分たちのチームの選手を見ながらのサッカーしかしていない印象です。相手DFを見ながらのサッカーができていないのかなと」

――それはどういうことなのでしょう?

「本来、FWはディフェンスの動きを見ながら駆け引きしなきゃいけないのに、『ここが空くから立ちなさい』と言われたところにしか立てない。その先は自分でターンやドリブルなどの判断をして、駆け引きしていかないといけないのに、その違いを作れない。みんな似た選手ばっかりだし、『俺がもっと若かったらガンガン行けたやろうな』って正直、思います」

――相手との駆け引きでゴールを奪える選手は確かに減りました。大久保選手は川崎フロンターレ時代にその才能が開花した印象です。

「そうですね。でも最初は前線でコンビを組んでいたレナト(現ポンチ・プレッタ)がニアサイドばっかりにぶち込むから、俺は点を取れなかった。一度ブチ切れて『逆サイドに打て』と言ったら、全部そっちにシュートを打つようになったんで、俺が触って押し込めたんです。だけど日本人はレナトみたいには打てない。彼は打つのかパスするのかを感覚で判断してるけど、日本人はパスを出す時に顔を上げてしまうんです。それで相手DFにバレて防がれる。『目が合ってからパスするんじゃ遅いよ』とつねに周りには言い続けていましたね」

小林悠やレナトらとしのぎを削った川崎時代の大久保(写真:日刊スポーツ・アフロ)
小林悠やレナトらとしのぎを削った川崎時代の大久保(写真:日刊スポーツ・アフロ)

――中村憲剛さんという素晴らしいパッサーが川崎フロンターレにいたことも大きかったですね。

「憲剛さんは自分のキャリアの中でダントツのパッサー。代表ではヤット(遠藤保仁=磐田)さんとかもいましたけど、一緒にやった時間も長かったですからね。憲剛さんがすごいのは、足元か裏なのかという判断をギリギリまで待ってパス出しができること。そういう選手はなかなかいない。それに遊び玉をポンポン当ててくれる。自分もリズムができるし、相手DFはどこで取りに行っていいのか分かんなくなる。簡単なプレーですけど、ほとんどの選手はそれができないんです」

――川崎がここまで強くなるとは想像できましたか?

「はい。風間(八宏=現セレッソ大阪スポーツクラブアカデミー技術委員長)さんが土台を作って、攻撃面で魅力あるサッカーをやってきたし、ああいうサッカーをすれば、いい選手も来る。そのうえで鬼木(達=現監督)さんが守備の整備をして、バランスのとれたチームになった。ホントに見てて面白い。今はほとんどがポジショナルプレーで選手個人の判断が全くないサッカーが主流なので魅力がないですし、『サッカーをやってる』と思えるのはフロンターレくらいですよ」

日本のサッカーは怖くないんです

――冒頭の日本代表の話にも通じる問題点です。

「ポジショナルプレー自体はいいんですけど、怖くないプレーばっかりというのが気になります。プレミアリーグを見ると、前へのスイッチが入った時はぶわっと速いのに、日本はずっとボールを外で回してサイドからクロスを入れて取られたら、みんながばーっと帰るみたいな忙しい展開。それじゃあ怖くないんです。言われたことばっかりやるっていうのはもったいないかなと感じます」

――リバプールの試合を見ていても、FWモハメド・サラーは1人で当たり前のように3~4人はがして行きますよね。

「そう。ああいうのはクロップ(監督)に言われてやってることじゃない。個や特徴のある選手がいるとホントにワクワクしますよね。日本でもそういうのを見たい。もちろん外国人との差はあるかもしれないけど、日本人のよさであるスピーディーなパス回しや裏への抜け出しはもっとあっていいと思います」

――今のセレッソは清武弘嗣選手、乾貴士選手といった海外クラブ経験者に坂元達裕選手のような成長株もいて、タレントは揃っています。川崎より上と言っても過言ではないかもしれません。

「まあ、ネームで言えばね。でもネームだけじゃなくて、やっぱり質。フロンターレのサッカーをやれば、間違いなくセレッソの方が今は強いかもしれない。でもそういうわけにいかないのが現実なんです。セレッソは可能性のある選手が多いから、練習からいかにブレずにやるかが大事だと思います。フロンターレでさえ、優勝するまでに5年くらいかかっていますから。セレッソも『こういうサッカーをする』という確固たるものを持たないといけない。時間はかかるけど、ホントに魅力あるチームにこれからなると思います」

セレッソを川崎のようにすべく若手にハッパをかけ続ける大久保(写真:西村尚己/アフロスポーツ)
セレッソを川崎のようにすべく若手にハッパをかけ続ける大久保(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

今の若手に、そして息子たちに伝えたいこと

――FW陣は成長株の加藤陸次樹選手、アカデミー育ちの山田寛人選手らがしのぎを削っていますが、彼らへの注文は?

「俺が彼らの年齢だった時と比べると『それでよく試合に出てるな』という感じは正直、あります(苦笑)。もちろん成長曲線は人それぞれだし、まだ伸びしろはあると思うけど、もっともっとやれるはずです。

 一番気になるのは、ワンプレーが終わるたびに止まってしまうこと。ボールが違うところに行けば止まるし、動き続けてない。そこが自分のやってきたこととは違いますね。もう1つはコーナーフラッグのところにFWが行ってしまうこと。あんなふうに外に開いたら点は取れない。怖さも生まれない。それが今の若いFWなんです」

――得点を取りたければゴール前に行けと。

「まあそうですね。フロンターレだったら、サイドバックが飛び出て、インサイドハーフがそこに絡んで、相手DFを引き付けて、空いたスペースにFWが入っていく。俺がいた時はそうでした。たまには外に開くこともあったけど、中央のスペースには絶対に誰かしら入って厚みある攻めを演出していた。点を取りたければもっと前へ出て行かないとダメだと思います」

――大久保選手もその領域に到達するまではいろんな役割で使われましたね。ヴィッセル神戸や岡田武史監督時代の日本代表では守備ばかりしていた印象が強いです。

「大半は苦労です(苦笑)。だから若い選手に言うんですけど、『チーム選びは大事だぞ』と。チーム方針や監督のビジョンは自分の今後に大きく影響します。芯がないところにいくと、いい選手でもつぶれてしまう。日本って才能があって、チーム次第で生きる選手はメチャクチャおる。うまい選手ばっかなんです。だけど自分に合うチームに巡り合えていない。俺の場合もそうやったから」

――確かにその通りですね。4人いる息子さんがプロサッカー選手を目指すなら、そうしたことは伝えるんですか?

「息子たちには『どこでどんな人が見てるか分かんないから、試合に出ても出なくても、つねに全力でプロになりたいという思いを強く持ってやりなさい』って言ってます」

 このインタビューからも分かるように、大久保嘉人は歯に衣着せぬ物言いを繰り返す。それもセレッソ大阪や日本サッカーを強くしたいから。この情熱を若い世代がしっかりと受け止め、ピッチ上で試行錯誤を繰り返し、駆け引きのできる選手に育ってほしい。そこにこそセレッソや日本サッカーの飛躍が懸かっている。そう痛感させられる貴重な取材だった。

いくつになっても笑顔の大久保嘉人は少年のようだ(筆者撮影)
いくつになっても笑顔の大久保嘉人は少年のようだ(筆者撮影)

■大久保嘉人(おおくぼ・よしと)

1982年6月9日生まれ。福岡県出身。2001年に長崎・国見高校を経てセレッソ大阪に加入。スペイン1部のマジョルカなどの海外移籍を経験、その後も国内クラブを渡り歩き、2021年に15年ぶりに古巣のセレッソ大阪に復帰。川崎フロンターレ所属時代の2013~15年に史上初の3年連続J1得点王に輝く。日本代表としては、2004年アテネオリンピック、2010年ワールドカップ南アフリカ大会、2014年ブラジル大会でメンバーに選ばれた。国際Aマッチ通算60試合出場6得点。

*11月5日にオンラインでインタビューを実施。

スポーツジャーナリスト

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から7回連続で現地へ赴いた。近年は他の競技や環境・インフラなどの取材も手掛ける。

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