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「好きでやってるんじゃない」大久保嘉人がサッカーをやめられない理由

元川悦子スポーツジャーナリスト
充実した今季について満面の笑みで語る大久保嘉人(筆者撮影)

「帰れ、大久保」「ホンマ、いらん」

 2021年1月に行われたセレッソ大阪のチーム始動記者会見。15年ぶりに古巣復帰を果たした大久保嘉人が笑顔で挨拶した瞬間、辛辣なコメントがSNS上にあふれた。

 無理もない。東京ヴェルディに在籍した2020年はJ2で無得点。39歳の点取り屋には「もうトップレベルで活躍するのは難しいのでは」という疑問の声が多かった。

 だが、ふたを開けてみると、開幕戦から5戦5発のゴールラッシュを披露。容赦ない批判を結果で跳ね返した。

 逆襲の1年となった今シーズン、大久保はなぜ活躍できたのか。サッカーに対する貪欲な姿勢はどこからくるのか…。本音を赤裸々に吐露した。

「絶対に見返してやる」

――昨季で引退することも考えられたそうですが、やり残したことが何かあったのですか? また、なぜセレッソに戻ったのですか?

「納得してサッカーを終わることはたぶんないと思います。でも、そこがまた面白いところで、周りにパスを出してほしいと伝えていけば、まだ点が取れるんじゃないかと思ったんです。それにセレッソはプロに入って最初のチーム。もう一度、自分自身を出し切ろうと思って戻りました」

――復帰時には批判の声も上がりました。

「俺、何か言われてもあんまり気にしないんです(苦笑)。それより、絶対に見返してやろうって。その自信もあった。俺にとっての見返すっていうのは得点です。だから周りにパスを出せと要求しますし、出してくれないと、得点できない。フロンターレの時にあれだけ得点できたのは、パスを出してくれたから。その成功体験があるからこそ今、強く主張するんです」

――なるほど。そのハッキリした物言いもあって、大久保選手と接したことのない人からは勘違いもされそうですね。

「そうですね。確かに会ったことがない人は『怖い』っていうのはあるでしょうね。サッカーの時のイメージが強いでしょうし(苦笑)。でも会ったら全員分かってくれるので」

今年3月の古巣・川崎戦で見事なゴールを決めた(写真:スポニチ/アフロ)
今年3月の古巣・川崎戦で見事なゴールを決めた(写真:スポニチ/アフロ)

――チームにはすぐに溶け込んで、開幕からのゴールラッシュに持ち込みました。

「ボールが来れば点が取れるって思ってるから。(元スペイン代表FWの)フェルナンド・トーレスと何年か前に対談した時に『点が取れなかったら仕事ができない』と言ってたけど、ホントにその通り、俺たちにシュートを打たしてくれないと点が取れない。今季の序盤も毎試合シュート1~2本しか打ててなかったけど、それでもボールが来たから点が取れてたんです。

 その後、ノーゴールだったのは、全然シュートを打ててなかったから。ACL(アジアチャンピオンズリーグ)もあって試合数が多く、その影響でチームのパフォーマンスや順位もガクンと下がり、クルピ(前監督)も交代という良くない流れでした」

「200ゴールまで9点だからやってるけど…」

――8月末に小菊昭雄監督が就任してからは、ジョーカー役となり、試合終盤での活躍が増えました。

「小菊さんに『おまえ、どっちがいい?』と聞かれたんです。それまでは、前半から試合に出れていてもボールが来ず、守備に回る時間が長かった。それだったら後半途中から出て、相手が疲れてる時に巻き返した方が絶対にいいと。自分からそう言って、この役割になりました」

――10月30日のYBCルヴァンカップ決勝戦でも後半に決定機がありました。

「(松田)陸のシュートに飛び込んだ場面ですよね。決まらなかったけど、今までも一瞬のスキを突いて点を取ってきた。人間は必ず止まる時があるから、研究されても動き続けることが大事なんです。止まらないことの大事さは国見高校の頃からずっと意識してきました」

10月30日のYBCルヴァンカップ決勝で長澤和輝と競り合う大久保(写真:アフロスポーツ)
10月30日のYBCルヴァンカップ決勝で長澤和輝と競り合う大久保(写真:アフロスポーツ)

――あのゴールが入っていたらタイトルに手が届いたかもしれません。それにしても、大久保選手がこれまでのキャリアで優勝経験がないというのは意外です。

「個人のタイトルは取ってるんで、そんなに焦ってはいないです。でもセレッソで1個は取りたい。今季はまだ天皇杯が残っているし、このチャンスは逃したくない。ただ、天皇杯を取ったからといって『やり切った』という気持ちも感じないでしょうね」

――チームタイトル以上に重視しているのが、J1通算200ゴールですか?

「それはあります。あと9点ですから(笑)。191点だから現役をやってるけど、これがあと20点とかだったら、もうやめてますね。違う仕事をした方が安定する。正直、俺の中では『サッカーは仕事や』と思ってずっとやってきましたから」

プロサッカー選手を21年続けてきた理由

――『サッカーが仕事』とは胸に響く言葉です。

「俺、みんなみたいにサッカーを好きでやってるわけじゃないんです。俺の家はあんまり裕福じゃなかったし、国見高校に行くために親に苦労をかけたんです。プロサッカー選手になったら稼げるし、親孝行できると思ってやってきたので、活躍できなければやってる意味がない。つねにお金を稼ぐことを考えてました。

 ホントに一握りかもしれないけど、トップまで行けば稼げるようになるし、海外にも行けるかもしれない。そう信じて俺はやってきましたよ」

マジョルカ時代もセンセーショナルなデビューを見せた(写真:ロイター/アフロ)
マジョルカ時代もセンセーショナルなデビューを見せた(写真:ロイター/アフロ)

――そういう貪欲さがJリーグ全体に欠けている気がします。ハングリー精神で突き抜けたプロ21年間に点数をつけるとしたら?

「90点くらいかな。想像以上だったんで、満足してます。悪いことや嫌なことだらけだったけど、自分でもよくやったなと思います。

 残り10点は200ゴールとチームタイトルかな。それを取れればもう完璧です。だから、とりあえずパスをくれと言いたい。200点取ったら早くやめたいから(笑)」

――200点を取ったらやめるんですか?

「もういいです。だってもうやることないもん(笑)」

 時に表現方法がストレートすぎることもあるが、裏表のない人間性が多くの人々を魅了してやまない。だからこそ、彼は周りに慕われ、愛される。それが大久保嘉人というフットボーラーの実像だ。

 残された課題はチームでのタイトル獲得とJ1・200ゴール到達だ。今の大久保なら、残り3試合となった今季リーグ戦でも、ハットトリックの一度や二度は達成してくれそうな予感がするから不思議である。

■大久保嘉人(おおくぼ・よしと)

1982年6月9日生まれ。福岡県出身。2001年に長崎・国見高校を経てセレッソ大阪に加入。スペイン1部のマジョルカなどの海外移籍を経験、その後も国内クラブを渡り歩き、2021年に15年ぶりに古巣のセレッソ大阪に復帰。川崎フロンターレ所属時代の2013~15年に史上初の3年連続J1得点王に輝く。日本代表としては、2004年アテネオリンピック、2010年ワールドカップ南アフリカ大会、2014年ブラジル大会でメンバーに選ばれた。国際Aマッチ通算60試合出場6得点。

*11月5日にオンラインでインタビューを実施。

【この記事は、Yahoo!ニュース個人の企画支援記事です。オーサーが発案した企画について、編集部が一定の基準に基づく審査の上、取材費などを負担しているものです。この活動は個人の発信者をサポート・応援する目的で行っています。】

スポーツジャーナリスト

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から7回連続で現地へ赴いた。近年は他の競技や環境・インフラなどの取材も手掛ける。

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