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「ポスト長友は誰だと思いますか?」元日本代表DF酒井高徳は何と答えたのか

元川悦子スポーツジャーナリスト
かつて自身も戦った日本代表の成長を願い続ける酒井高徳(写真提供:ヴィッセル神戸)

 古巣・FC東京に復帰した35歳の日本代表DF長友佑都が9月18日の横浜FC戦で11年ぶりのJリーグ出場を果たした。「僕は今、2022年カタールワールドカップ(W杯)を見据えてすごいモチベーションと野心で戦っている」と日本代表キャップ数歴代2位となる123試合を誇るベテランは語気を強めた。

 実績・実力含めて傑出した存在の彼に、森保一監督も絶大な信頼を寄せ続けている。ただ、日本代表の今後を考えれば、いつまでも彼1人に依存し続ける状態が好ましいとは言えない。左サイドバックの後継者問題は急務のテーマと言っていい。

 長年「長友の代役候補」と言われ続けた酒井高徳(神戸)は今、この課題をどう見ているのか。2018年ロシアW杯以降、代表を外から見る立場となった30歳の男が熱く語った。

「五輪の延長線上で中山君は使っていいと思います」

――日本代表を離れて3年が経ちますけど、試合は見ていますか?

「もちろん見てます。9月2日の最終予選初戦・オマーン戦(吹田)も90分通して見ました。0-1の敗戦という結果は選手たちが一番理解していると思います。僕も前回(ロシアW杯最終予選・UAE戦=埼玉)出て負けているし、今の選手たちにとやかく言う資格はないなという気持ちもあるんで。

 それでも、サッカーは結果の世界。2戦目の中国戦(7日=ドーハ)で苦しみながら勝ったのは非常に大きな収穫だと思います。『日本は出て当たり前』と思われる中、W杯のハードルは毎回上がっていますし、イレギュラーなことが起きるのは想定しなきゃいけない。もっともっと苦しいシチュエーションが出てくる。そこで切符をつかみ取ることが大事。1ファンとして応援したいですね」

――高徳選手から見て、長友選手に続く有望な左サイドバックは誰だと思いますか?

「中山(雄太=ズヴォレ)君ですね。彼は東京五輪でコンスタントに結果を出して、チームとしても機能した。僕の中では非常に評価できる人材でした。キャプテンシーもあるし、ポリバレントな能力もある。いいクロスを上げて、ボールを持ってゲームメークにも参加していた。『攻撃面が課題』と見られることが多いようですけど、どうしてそんなふうに言われるのか正直、不思議に感じる。五輪の延長線上で中山君は全然使っていいと思いますね。五輪の次に何があるのかって言ったら、A代表しかないわけだから」

酒井高徳が推した東京五輪世代の中山雄太(写真:守田直樹/アフロスポーツ)
酒井高徳が推した東京五輪世代の中山雄太(写真:守田直樹/アフロスポーツ)

――その通りですよね。

「僕は個人的に旗手(怜央=川崎)君も好きなんです。Jリーグの試合の後にも『すごく好きなプレースタイルだから、早く海外に行けるように頑張って』と声もかけましたよ。ちょっと上から目線だったんで、生意気かもしれないけど(苦笑)。ただ、旗手君はデビューした頃から印象に残っていた選手。頭もいいし、技術も高いし、ホントにいいですよ」

若手を起用する勇気を持つことの意味

――今の日本代表はそういう若手を積極的に起用するムードが薄いようにも映りますね。

「みなさんはなぜ『完璧な選手』を求めるのかな…。僕はいつも疑問に感じているんです。自分が代表にいた時も『僕は長友佑都じゃない。内田篤人(JFAロールモデルコーチ)でもない』とよく言ってましたけど、彼らとの比較で全てが決まるわけじゃない。サッカーって11人のピースがピッチ上でどうハマるか。それが一番なんです。

 世界的に見ても、実績・経験・能力が揃っている選手というのはそうそういない。佑都君が攻撃的で走れるのは誰もが認めるところですけど、中山君や旗手君が全く同じじゃなきゃいけないということでもない。チームとしてどう機能するかを考えたうえで、年齢関係なく、違った選手も使えばいいと僕は考えます。結局、その勇気がなかったら、いつまでも後釜探しが続くことになる。人材はいるんですよ」

――室屋成(ハノーファー)選手を左サイドバックとして使う手もありますしね。

「彼はドイツ2部にいるんで、ハノーファーの試合はよく見てるんですけど、現地の評価も非常に高いし、彼自身もすごく頼もしくなったなと感じてます。やっぱり海外は人を変える場所なんだなと改めて思いますね。

 彼らにとって、日本代表がもっと伸び伸びとパフォーマンスを発揮できる場所になったらいいなというのが、自分の願いでもあります。仮に若い選手がミスをしたとしても、それは彼らが代表を背負っていくための重要な試練。そのことを多くの人に理解して見てほしいなという気持ちはつねにありますね。

 もちろん代表は結果が大事なんで、難しいところはありますけど、選手を育てるという観点ではどうしてもミスも起こり得る。世界的に見れば、それを承知で19歳の選手を使ったり、重要な役割を果たさせているチームもある。競争がある中で、そういった方向になってほしいなと感じます」

――高徳選手は日本代表のユニフォームを着ることはもうないんですよね?

「残念ながら、ないですね(苦笑)」

つねに熱い気持ちを前面に押し出した日本代表時代の酒井高徳(写真:フォトレイド/アフロ)
つねに熱い気持ちを前面に押し出した日本代表時代の酒井高徳(写真:フォトレイド/アフロ)

 自身の代表引退決意は揺らがないという酒井高徳。2012年9月のUAE戦(新潟)での初キャップから2018年ロシアW杯・ポーランド戦(ボルゴグラード)まで42試合に出場した高度なキャリアを備えた選手だけに、早すぎる終焉はやはり残念でしかない。

 そんな中でも、本人も少しでも日本サッカーのプラスになることをしたいという意識が強い。だからこそ、長友や内田と比較され、苦悩してきた経験を踏まえて、根深いテーマに回答してくれたのだ。彼が絞りだした言葉は非常に重い、日本サッカー界はその経験値や発言をもっと生かすべきだ。

 さしあたって、10月にはカタールW杯最終予選最大の山場と位置づけられるサウジアラビア戦(7日=ジェッダ)とオーストラリア戦(12日=埼玉)の2連戦が控えている。そこで左サイドバック問題に新たな光明が見えてくるのか。あらゆるポジションで斬新な変化が生まれ、チーム全体が活性化されることを酒井高徳自身も強く願っているに違いない。

■酒井高徳(さかい・ごうとく)

1991年3月14日生まれ。アルビレックス新潟ユースから2009年にトップ昇格。2011年にドイツ1部シュツットガルト、2015年からはハンブルガーSVに移籍。2019年夏にJ1ヴィッセル神戸に完全移籍。日本代表としてはブラジルW杯、ロシアW杯など国際Aマッチ42試合出場。

スポーツジャーナリスト

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から7回連続で現地へ赴いた。近年は他の競技や環境・インフラなどの取材も手掛ける。

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