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U-24日本代表が進む道は天国か地獄か メキシコとの第2戦が命運を左右する理由

元川悦子スポーツジャーナリスト
22日の南アフリカ戦で先制弾を決める久保建英(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

混乱続きの初戦・南ア戦を白星発進

 対戦相手・南アフリカのコロナ陽性者発生で試合開催が直前まで流動的だったうえ、前日に守備の要・冨安健洋(ボローニャ)が負傷離脱するというアクシデントに襲われたU-24日本代表。22日の東京五輪1次リーグ初戦は予想外の困難がのしかかる中、東京スタジアムでキックオフされた。

 南アは思うような調整ができなかったこともあり、5-4-1の超守備的戦術で挑んできた。割り切った戦い方は日本がしばしば直面するワールドカップ(W杯)アジア予選を彷彿させたが、南アの選手は身体能力が高く、個々のレベルは決して低くなかった。堂安律(PSV)や三好康児(アントワープ)らが思い切った仕掛けを見せようとしても、脚がスッと出てきたり、体を寄せられたりして思うようにゴール前へ侵入できない。「押しているのに点が取れない」という「嫌なムードが漂う中、試合が進んでいった。

最後まで体を張り続けたキャプテン・吉田麻也
最後まで体を張り続けたキャプテン・吉田麻也写真:YUTAKA/アフロスポーツ

 後半になって、キャプテン・吉田麻也(サンプドリア)が最前線の林大地(鳥栖)目がけてロングパスを配球するなど、攻撃の変化をつけ始め、堂安や林が立て続けにチャンスを迎えるも、決め切れない。そんな苦境を救ったのが、最年少・20歳の久保建英(レアル・マドリード)。ペナルティエリア左外でボールを受けた田中碧(デュッセルドルフ)の浮き球の展開を受け、DFマビリソを1対1ではがした背番号7は狙いすましたかのように左足を一閃。堅守のGKウィリアムスもさすがに弾けず、日本に待望の先制点が転がり込んだ。

 結局、試合は1-0で終了。森保監督が「サッカーは何が起きるか分からない。難しい初戦で勝ち点3を取れたことはよかった」と安堵感を吐露したというが、初戦を勝つか負けるかではその後の展開が大きく違うのは間違いない。

第1戦勝利は上位躍進に直結

 96年アトランタ以降の過去6回の五輪を振り返ってみても、1次リーグを突破した2度はいずれも初戦で勝っている。2000年シドニーは同じ南アに高原直泰(沖縄SV)のゴールで2-1の逆転勝利。2012年ロンドンは大津祐樹(磐田)の一撃で強豪・スペインを1-0で撃破。そこから一気に波に乗っているからだ。

 逆に、1次リーグ敗退の憂き目に遭った大会を見てみると、2004年アテネはパラグアイとの初戦で壮絶な打ち合いを演じた末に3-4で敗れた。2008年北京も本田圭佑、香川真司らのちの日本代表主力を数多く揃えながら、アメリカに0-1で苦杯。2016年リオデジャネイロもナイジェリア相手に4-5という大味な試合をして負けてしまった。W杯にしてもそうだが、短期決戦の国際大会は入りが極めて重要。日本のように優勝経験のない中堅国はよりその傾向が強い。そういう意味で、どんな形であれ、第1戦を白星で飾れたのは重要な点なのだ。

実は2戦目がより重要という過去の教訓も

 しかしながら、同じ1点差勝利を手にしても、1次リーグを突破できなかった苦い経験もある。それは川口能活・現U-24GKコーチがゴールマウスを守っていたアトランタだ。ご存じの通り、四半世紀前の五輪では、初戦で優勝候補筆頭の王国・ブラジルを1-0で破るという「マイアミの奇跡」を起こしているが、続くナイジェリア戦を0-2で落としたのが大きく響いた。第3戦のハンガリー戦で日本は3-2の勝ち星を手に入れたものの、得失点差でグループ3位となり、決勝トーナメントに進めなかった。

 だからこそ、25日のメキシコ戦(埼玉)で慎重な試合運びを見せなければいけない。メキシコは百戦錬磨のベテラン守護神、ギジェルモ・オチョア(クラブ・アメリカ)を擁する技術・戦術眼に秀でた集団。フランスがキリアン・エムパペ(PSG)らU-24世代の主要選手を何人も呼べなかったとしても、4-1という結果を残しただけでも強いのはよく分かる。

メキシコを大の苦手とする日本

 しかも、日本はメキシコが大の苦手。A代表が最近勝利したのは96年5月の親善試合で、その後の対戦はいずれも敗戦。2013年コンフェデレーションズカップ(ブラジル)ではハビエル・エルナンデス(ロサンゼルス・ギャラクシー)にやられた印象しかない。直近の2020年11月のテストマッチ(グラーツ)も試合巧者の相手に後半2失点して0-2で黒星。原口元気(ウニオン・ベルリン)が「(2018年ロシアW杯・ベルギー戦の)ロストフの悲劇がフラッシュバックしましたね。実力がすごくある相手に対して、終わった後に『なんで毎回、こうなるんだ』という感情にはなりました」と悔しさを爆発させていた。

 五輪でも苦い思いをしている。2012年ロンドン大会準決勝でもメキシコに1-3で敗戦。しかも、大津祐樹が幸先のいい先制ゴールを奪っていたにもかかわらず、徐々に寄り切られ、3失点するという手痛い結末を強いられた。

「あの敗戦のショックが大きくて、韓国との3位決定戦まで引きずってしまった」と吉田も述懐していたが、そういう意味でも因縁の相手なのは間違いない。「W杯で8強入りしたいと思うなら、メキシコのような相手を叩かないといけない」ともコメントしているだけに、若き日本のポテンシャルが問われる一戦になるだろう。

次こそはゴールが求められる堂安律
次こそはゴールが求められる堂安律写真:森田直樹/アフロスポーツ

2連勝できれば3戦目で主力休養も

 ここで2連勝できれば、他チームの勝ち点にもよるが、フランス戦はメンバーを大幅に入れ替えられる可能性も出てくる。酷暑かつ超過密日程の五輪では1試合でも主力に休養を与えられることは先々を考えると重要だ。初戦で遠藤航(シュツットガルト)、堂安、中山雄太(ズウォレ)という主力3人がイエローカードをもらっている現状を踏まえても、そうなるのが理想的だ。負傷の冨安、三笘薫(川崎)も決勝トーナメントからは復帰できるだろう。その段階で十分な戦力を揃えておくことが、悲願の金メダルに近づく絶対条件と言っていい。

 同じ初戦1点差勝利でも、シドニー・ロンドンの2連勝パターンと、2戦目を落とす形とでは天と地ほどの差があるということ。そこを肝に銘じながら、森保監督にはメキシコ戦に向けての調整を進めてほしい。

 欲を言えば、次はエースナンバー10の堂安にゴールを決めてもらいたい。久保との攻撃2枚看板が輝けば、チーム全体が活性化し、大いに勢いに乗れる。もちろん林や上田綺世(鹿島)、前田大然(横浜)のFW陣もブレイクしてほしいところだが、果たして彼らはオチョアの壁をこじ開けられるのか……。

 日本の命運を左右するメキシコとの決戦から目が離せない。

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】

スポーツジャーナリスト

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から7回連続で現地へ赴いた。近年は他の競技や環境・インフラなどの取材も手掛ける。

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