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西野ジャパンの快進撃から3年 ロシアW杯日本代表メンバーの明暗分かれる去就

元川悦子スポーツジャーナリスト
2018年ロシアW杯の熱狂から3年。選手たちを取り巻く環境はさまざまだ。(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

6月代表シリーズで圧倒的な影響力を示した34歳・長友 

 5月28日の2022年カタールワールドカップ(W杯)アジア2次予選・ミャンマー戦(千葉)からスタートした約3週間の日本代表シリーズが、6月15日のキルギス戦(吹田)で終了した。A代表が5試合、U-24代表も急きょA代表とのゲームが札幌で組まれるなど、合計3試合を消化することになったが、これだけ長期間にわたって活動ができる機会は滅多にない。森保一・横内昭展両監督、選手たちにとっても、信頼関係構築や戦術浸透、新戦力発掘や底上げという意味で貴重な場となったはずだ。

 A代表の方は大迫勇也(ブレーメン)のバックアップ役にオナイウ阿道(横浜)が浮上したり、ボランチ争いが激化するなど、前向きな点がいくつかあった。そんな中でも傑出した存在感を示したのが長友佑都(マルセイユ)だった。

 2010年南アフリカW杯から3大会を主力として経験した唯一のフィールドプレーヤーは「どうしたら日本がベスト8の壁を超えられるか日々、研究している」と強調。自身の経験値を若手に伝えようとアクションを起こし続けた。「長友塾長」の示す世界基準は国内組の面々にとって大きな刺激になった。長友自身も欧州に残って最先端の現代フットボールの中に身を投じ、高みを目指し続ける覚悟のようだ。

長友、川島は現役代表として海外にこだわる

 ロシアW杯から丸3年が経過したが、当時の主力で海外にこだわり続ける選手は少なくない。長友に加え、ストラスブールから2年の契約延長オファーを受託した川島永嗣、コロンビア戦(サランスク)で決勝点を叩き出した大迫、ベルギー戦(ロストフ)で先制点を挙げた原口元気(ウニオン・ベルリン)、長谷部誠(フランクフルト)からキャプテンを引き継いだ吉田麻也(サンプドリア)ら現役日本代表組は揃ってそういう志向を持っている。

 38歳にしてフランス1部で挑戦を続ける権利を得た川島は「自分自身、まだまだ最高峰へ向かってチャレンジしていきたい」と意欲満々だ。長友に「しぶとい」といじられていたが、そのしぶとさと粘り強さがなければ、日本人GKが欧州5大リーグで試合に出続けることは叶わない。そういう人材がいなければ、日本代表がW杯ベスト8進出を果たすのは難しい。森保監督もそれを理解しているからこそ、川島を招集し続けている。

大迫・原口・吉田らはさらなる高みを追求

 大迫が欧州残留にこだわるのも、2人の存在が大きい。ご存じの通り、昨季まで3シーズン在籍したブレーメンのドイツ・ブンデスリーガ2部降格が決定。このまま行くと来季は2部でのプレーを余儀なくされる。だが、本人は「しっかりFWとして1年間試合に出たい。欧州でFWで使ってくれるチームを探すのが第一」と新天地に赴く意向だ。

 とはいえ、コロナ禍で無観客試合が続き、欧州クラブの経営環境が悪化しているため、昨季リーグ無得点の31歳の日本人FWに理想的な行き先が見つかるかはかなり微妙。今回左内転筋を痛めて代表を途中離脱したのも、移籍先探しに支障が起きないようにという森保監督らの配慮があったのではないか。絶対的1トップの去就問題は日本代表の今後を左右する一大事。ここはしっかりと動向を見極めるしかない。

 その他のロシア経験者の現役代表を見ると、遠藤航(シュツットガルト)は残留濃厚。植田直道(ニーム)は完全移籍が決定。今季から本格的に5大リーグの一員として自己研鑽を図れる環境が整った。今年1月にポルトガル1部・ポルティモネンセに赴いた中村航輔も残留すると見られるため、来季は試合出場機会を手にすることが肝要だ。GKはJリーグにも大迫敬介(広島)、谷晃正(湘南)、鈴木彩艶(浦和)ら将来を嘱望される面々が揃っているため、現状のままだといつ代表から外されるか分からない。そこは肝に銘じた方がいい。

柴崎の代表復帰は今後のクラブでの状況次第

 もう1人、気になるのが柴崎岳(レガネス)。2016年1月にスペインにわたって5年半が経過したが、2019年から2シーズンは2部でプレー。昨季在籍したデポルティボ・ラコルーニャはかつてUEFAチャンピオンズリーグ(CL)にも参戦するような名門だったが、まさかの19位で2部B降格が決定。今季赴いたレガネスでも1部昇格プレーオフ挑戦権を手にしながら、最高峰リーグ行きは叶わなかった。

 森保監督もロシアでフル稼働した柴崎には特別な思い入れがあるようで、「1部に昇格できるかもしれないという戦いをしていたので、今年3・6月の代表招集は配慮して選考外にした」と話した。ただ、その間に守田英正(サンタクララ)や川辺駿(広島)が台頭。U-24日本代表の田中碧(川崎)も大きな存在感を示すようになっている。柴崎が来季もスペイン2部にとどまり、試合に出られないような状況になれば、さらに苦境に追い込まれるだろう。新たなクラブが見つかるのであれば、その選択をした方がベターではないか。

ロシア後に代表から遠ざかった本田はどこへ

 彼らのような現役代表組はまだ「日本代表」の肩書を持って欧州でプレー環境を探すことが可能だが、アゼルバイジャンのネフチ・バクーを正式退団した本田圭佑、ウエスカを離れた岡崎慎司、昨季スペイン2部降格を強いられた乾貴士(エイバル)・武藤嘉紀(ニューカッスル)らはよりハードルが上がる。92年生まれの武藤はまだ30歳に達していないため、年俸などの条件面を下げれば行き先が見つかる可能性は高いが、大台をオーバーしている面々は厳しい。

「欧州では30歳を過ぎると『やる気のない選手』と見られがち」と川島もかつて話していたが、その壁は我々が想像するよりはるかに高いようだ。ボルシア・ドルトムントやマンチェスター・ユナイテッドでハイレベルのキャリアを築いた香川真司(PAOK)が約半年間の浪人生活を強いられたのを見ても、外国人枠を1つ使うEC外のベテラン選手のクラブ探しの難しさがうかがえる。

岡崎、乾も欧州にこだわり続ける意向だが…

 それでも岡崎、乾は欧州残留を第一に考えているという。特に岡崎は「やり残したことがある」という意識が強いようだ。シュツットガルト、マインツ、レスターと着実にステップアップし、レスター時代にはプレミアリーグ制覇の偉業を達成。その後、憧れのスペインで2部から1部に昇格するという経験も積めた。さらに言うと、マインツ時代には2年連続2ケタ得点をマーク。ウエスカでも2部で2ケタを取っている。そのキャリアは傍目から見れば「成功」に映るが、本人の中では納得いかない部分が多々あるのだろう。

 乾にしても2016年1月にスペインに赴いてから5年半も1部で戦い抜いてきた。今季は27試合出場1ゴールとやや出番が減ったものの、「スペインは日本人選手にとって鬼門」と言われるリーグで過去最高の実績を残した選手になったと言っていい。古巣のセレッソ大阪は復帰オファーを出し続けているというが、「もっとスペインで勝負したい」という思いが強いと見られる。

長谷部の領域到達は至難の業

 彼らの願望が叶い、長谷部のように30代後半になっても毎年のように結果を出し、契約延長オファーをもらえるような立場になれば、日本人ベテラン選手の評価も上がる。それは13日に35歳になり、現役続行か否かで揺れる本田にしても同様だ。

 この面々が再び代表のユニフォームを着る可能性は限りなく低いが、日本サッカーのレベルアップや地位向上のためにも高みを追い求めてくれる方が有難い。その姿勢は現役代表や次の日本を担う若者たちの模範になる。現実は厳しいし、そう簡単に行き先も見つからないだろうが、川島のような「しぶとさ」と「粘り強さ」を持ち続け、諦めずに前へ進み続けてほしい。

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スポーツジャーナリスト

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から7回連続で現地へ赴いた。近年は他の競技や環境・インフラなどの取材も手掛ける。

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