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森保ジャパンの攻撃陣に足りない「修羅場経験」。絶対的ストライカーはいつ現れる?

元川悦子スポーツジャーナリスト
メキシコに完敗し、うなだれる吉田麻也ら(写真:JFA/アフロ)

「ロストフの悲劇」を彷彿させる負け方

「(2018年ロシアワールドカップ・ベルギー戦が)まさにフラッシュバックしましたね。こういう実力のすごくある相手に対して、終わった時に『なんで毎回こうなるんだろう』『勝てたんじゃないか』という感情がやはり来ますし。今日がワールドカップじゃなくてよかったというか、この2年間をムダにせず、同じ思いをしないようにしたいですね」

試合後、悔しさを爆発させた原口元気(日本サッカー協会提供)
試合後、悔しさを爆発させた原口元気(日本サッカー協会提供)

 原口元気(ハノーファー)が悔しさを爆発させた通り、2020年日本代表ラストマッチとなった18日早朝のメキシコ戦(グラーツ)で、日本は0-2の完敗を喫した。前半11分の原口のミドルシュートを皮切りに、鈴木武蔵(ベールスホット)がGKオチョア(クラブ・アメリカ)と1対1になった15分の決定機、遠藤航(シュツットガルト)のタテパスから鈴木、鎌田大地(フランクフルト)を経由し伊東純也(ゲンク)が入れたクロスに原口がファーサイドから反応した28分の連動性ある崩しなど、得点につながりそうなシーンは何度もあった。実際、シュート数でも大きく上回った。が、それを決め切れなかったのが、最後の最後まで響いた。

前半はシュート数で上回るも鈴木武蔵らが決定機を逃す

 後半に入って4-3-3から4-2-3-1へ布陣変更したメキシコが強度を上げ、鎌田にマンマークをつけるなどの対応を取ってくると、日本はボールを保持できなくなった。テレビ画面上では選手とボールが確認できないほどの深い霧に覆われる中、森保一監督は鈴木武蔵と柴崎岳を下げて南野拓実(リバプール)と橋本拳人(ロストフ)を投入。これで混乱が生じたところを見逃さなかったのが、相手エースのラウル・ヒメネス(ヴォルバーハンプトン)だ。今季プレミアリーグ8試合4得点をマークする男はワンチャンスを確実にモノにし、高度な決定力を示したのである。

「前半のメキシコはそんなにチャンスがなかったのに、後半に一気に1つのチャンスを決め切るっていうのは、やっぱりプレミアでやってるだけあって勝負強いところはホントだなと。僕もその勝負強さが出てこないと上では戦っていけないと思います」と得点機を逃した鈴木武蔵も神妙な面持ちで語っていた。

「したたかさ」を示したヒメネスとロサノ

 ヒメネスだけではない。2点目を奪ったイルビング・ロサノ(ナポリ)も鋭い動き出しで吉田麻也(サンプドリア)の背後を取って日本守備陣を置き去りにし、右足を振り抜いた。

 まさにしたたかで豪快なゴールシーンだったが、森保ジャパンではこういった一撃をほとんど見たことがない。久保建英(ビジャレアル)が2019年6月のエルサルバドル戦(宮城)で初キャップを飾った頃は、ロサノのように圧倒的な個の力を示してゴールを切り裂くことを指揮官も期待したのだろうが、現実は期待通りには運んでいない。原口と代わってラスト20分弱からピッチに立った彼は、後半39分に大胆な仕掛けからファウルは奪ったものの、抜き切ってシュートまでは持っていけなかった。やはり当たりや球際の部分を含めて改善が必要と言えそうだ。

久保にはロサノのような豪快なゴールが期待されたが…(日本サッカー協会提供)
久保にはロサノのような豪快なゴールが期待されたが…(日本サッカー協会提供)

 もう1人のエース候補・南野も後半の悪環境下ではボールが収まらず、周囲との連携プレーも出せなかった。濃霧でピッチ状態の悪い中では彼のようなテクニカルな選手より、鈴木武蔵のように高さと強さがあって、フィジカルで戦えるタイプの方がまだよかったかもしれない。南野には酷だったが、13日のパナマ戦(グラーツ)のPK1点のみでは攻撃陣の大黒柱には遠いというしかない。

途中交代の南野、久保も不発

 このように、2020年4試合を通して、日本はわずか2点しか取れなかった。1点は前述の通り、南野のPKで、もう1点はコートジボワール戦(ユトレヒト)の植田直通(セルクル・ブルージュ)だ。つまり、アタッカー陣が流れの中から奪ったゴールはゼロ。森保監督も「流れの中からの攻撃のギアを上げられるようにと交代カードを切りましたが、得点を奪うことができなかった」とうなだれた。巧みな修正力を見せた敵将、ヘラルド・マルチィーノ監督とは対照的だった森保采配の是非は検証されるべきだが、アタッカー陣にも問題がある。いい形を作ってもフィニッシュのところでミスをしていたら、いつまでたってもゴールは入らないからだ。

「問題は前の選手が仕留められなかったという部分なので、チームどうこうじゃないですね。僕ら前の選手のクオリティの部分ですね」と原口も反省しきりだったが、質を上げるのは個人個人に課せられた命題なのだ。

「フィニッシュはチームどうのこうのじゃない」

 フィニッシュに関して、鈴木武蔵に試合後のオンライン取材で問題点と改善策を尋ねると、こんな答えが返ってきた。

「(オチョアに止められたシーンも)そこまで余裕がなかったわけじゃなかった。ニアは厳しいかなと一瞬思って、ファーに流し込むイメージだったんですけど、僕自身が未熟だったかなと。結果論ですけど、浮かせて打つのがベストな選択だった。もう少し自信を持って打ってもよかったかなと。ただ、これからもやることはそんなに変わらない。練習からシュートコースやタイミングを意識して取り組んでいくしかないですね」

 本人は「余裕のなさ」ではなく「判断ミス」だと考えている様子だったが、それは技術とメンタルの両方に起因しているのではないか。相手のプレッシャーが強くなればなるほど冷静な判断力を失い、シュートミスを犯すという流れは大いに考えられる。名手・オチョアと対峙しても平常心でいられなければ「浮かせて打つ」という発想の転換はできない。そういう高度な対応力と強靭な精神力を身につけるためにも、やはり恒常的に高いレベルでプレーし、ゴールを奪い続け、自信を積み重ねることが肝要だ。

決め切る余裕と冷静さをもたらす修羅場経験

 本田圭佑(ボタフォゴ)が2010年南アフリカ・2014年ブラジル・2018年ロシアの3つのワールドカップで通算4ゴールを奪えたのも、「確固たる自信」による部分が大だったのだろう。何度も大舞台に立ち、修羅場をくぐり抜けてきた男は「死ぬか生きるか」という場面で冷静にシュートを枠に流し込める。それは代表通算50得点という数字を残した岡崎慎司(ウエスカ)も同様だ。香川真司もロシアのコロンビア戦でその領域に達したと言ってもいいかもしれない。彼らのような頼れる点取り屋が出現しなければ、森保ジャパンはカタールでの8強どころか、アジア予選敗退という最悪の事態も覚悟しなければならなくなる可能性も否定できない。この問題は本当に待ったなしなのだ。

南野には本田、岡崎らの領域に到達してほしい(日本サッカー協会提供)
南野には本田、岡崎らの領域に到達してほしい(日本サッカー協会提供)

 絶対的ストライカーというのは、世界的に見てもそう簡単に出てくるものではないが、やはり強豪国には傑出した存在がいる。ロシアで優勝したフランスにはキリアン・ムバッペ(PSG)とアントワーヌ・グリーズマン(バルセロナ)がいたし、準優勝のクロアチアにもイバン・ペリシッチ(バイエルン・ミュンヘン)とマリオ・マンジュキッチ(アルドゥハイル)がいた。あと2年で日本にもW杯で複数ゴールを取れるアタッカーが出てこなければ、大目標の達成はない。

 厳しい現実をしっかりと再認識しつつ、南野や鈴木武蔵、原口や久保ら候補者にはクラブでの結果を泥臭く貪欲に追い求め、苦境から這い上がってきてくれることを強く願う。

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スポーツジャーナリスト

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から7回連続で現地へ赴いた。近年は他の競技や環境・インフラなどの取材も手掛ける。

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