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いつか「航」の時代に――ブンデス1部挑戦の日本代表MF遠藤航が誓う夢

元川悦子スポーツジャーナリスト
笑顔でオンライン取材に答える遠藤航(筆者撮影)

「遠藤っていえば、今はヤットさんですけど、これからは『航』も知ってもらえれば嬉しいですね」

 20-21シーズンからドイツ・ブンデスリーガ1部に挑戦する遠藤航は、遠藤保仁(G大阪)への敬意を払いつつ、大先輩超えへの思いを口にする。

 昨季はブンデス2部で21試合出場1ゴールという実績を残し、2シーズンぶりのシュツットガルト1部復帰の立役者となった。シーズン序盤は出番を得られなかったが、昨年11月以降はその苦境を跳ね返し、最終的には評価を爆上げ。「チームの大黒柱」と言っていい絶対的地位を勝ち得ることに成功した。

 

 ピッチを離れたら、頼れる父親の一面もある。コロナ禍でリーグが中断した3~5月は慣れない異国で妻と4人の子供を守った。4児の父で日本屈指の優れたボランチという点は、日本代表最多キャップ記録を誇る遠藤保仁と重なる部分も多い。「いつかは『遠藤=航』がついてくる」と飛躍を誓う27歳の等身大のフットボーラーに迫った。

「ワタルを見習え」100%で勝ち取った信頼

――昨シーズンの大活躍を自分なりに振り返ると?

「意識したのは、どんな時でも自分のパフォーマンスを落とさないようにすること。そして、練習から常に100%でやっている姿勢を見せることでした。そんな自分を見て、昨年12月末に就任したマタラッツォ監督がチーム全員の前で『ワタルのことを見習え』と言ってくれたんです。ドイツ語で褒められたので、キョトンとしていたら、『練習も試合も結果に関わらず常に100%でやってくれるのは本当にありがたい』と英語で軽く訳してくれた。うれしかったですね」

――監督に信頼されるのは重要ですね。

「(昨年8月末に)移籍した当時の前監督は僕の合流が遅れたことでどんな選手なのかもよく理解していなかったと思います。でも『試合に出られないから、もういいや』と投げやりになるのではなく、チャンスが来た時のために準備を怠らずにやり続けることが大事。『どうしたら試合に出られるのか』『自分に足りないものは何か』を真剣に考えた最初の3カ月間は決して無駄ではなかったですね。その後、親日家の今の監督が来たのはラッキーではありましたけど、サッカーに対する自分自身のスタンスは変わりませんでした」

――新天地での最初のつらい3カ月間を経て、スタメンの座をつかんだわけですね。

「『チーム内の序列の一番下から、どうやってスタメンまではい上がっていくか』を考えるのは嫌いではないです。試合でメンバー外になることもありましたけど、サッカーを忘れられる家族との時間があったことが僕にとってはありがたかったですね」

ブンデスリーガ2部で勇敢に戦う遠藤航(写真:アフロ)
ブンデスリーガ2部で勇敢に戦う遠藤航(写真:アフロ)

4児の父として、子育てのポリシーとは

 監督からの信頼を勝ち取り、チームの成績も上向いていた矢先に欧州全体で新型コロナウイルスが蔓延した。妻と4人の子供がいる遠藤航は、自宅待機が続く状況を「家族との時間が増える」と前向きに受け取ったという。

 

――外出禁止期間はどうしていたんですか?

「自分はシーズンオフ並みに頭を切り替えてスイッチオフにしていましたね。家族と過ごす時間が増えたので良かったと僕は思っていましたが、外で遊べなくなった子供たちの方が大変でした。学校や幼稚園も約2カ月休校になっちゃって、毎日オンライン授業に出ないといけないし、特に長男は宿題の量も多かったんです。9~15時頃まで勉強するように指示が出ていたんですけど、やりませんよね(苦笑)。だから、好きなものを途中で見せたりして、気分転換させながら、何とか乗り切りました」

――料理や家事は?

「買い物は妻に任せていました。マメに消毒したりして、かなり大変だったと思います。でも夏のオフに入ってからは妻と末っ子が日本に戻ったんで、僕が7、4、3歳の3人の面倒を見ていました。19歳で結婚してから家事はほとんどやらなかったけど、料理もできるようになったんですよ。今はパスタを作るとか肉を焼くとかは普通にできますけど、栄養バランスを考えたところで子供は全然食べないですけどね(苦笑)。まあそんなもんです」

――子育てのポリシーはあるんですか?

「基本的には自由にさせています。長男がものすごくゲームが好きで、1日5~6時間とか平気でやるんで、制限をどうしようか悩みますけど、自分で考えて判断してほしいんですよ。もう7歳ですから、子供として見るのもよくないし、考え方も意外としっかりしてきているので、大人として接することを意識しています。それが自然と下の子たちにも伝わると思うんで。僕の親父もあんまり言ってこないタイプで『自分で決めろ』という感じだった。それが自主性や自立を促すと思う。結果的に親父の教育方針を引き継いでる気がします(笑)」

ドイツで4人の子供を育てる(Instagram @endowataru より)
ドイツで4人の子供を育てる(Instagram @endowataru より)

「遠藤保仁・長谷部誠コンビ」超えの決意

 4児の父という部分は、同じ遠藤姓の大先輩・遠藤保仁と共通する。日本代表最多キャップ数に加え、楢崎正剛が持っていたJ1最多出場記録の631試合を7月4日のヴィッセル神戸戦で更新。今も記録を伸ばしている40歳のベテランはやはり気になる存在なのだろうか。

――遠藤保仁選手も4人子供がいて、長男はガンバのジュニアユースにいるんですよ。

「ヤットさんも息子と一緒にプロでやりたいと言っているのを聞きましたけど、個人的には実現しないでほしいんですよ。僕が実現させたいから(笑)。仮にヤットさんが先に親子Jリーガーになったとしたら、僕はシュツットガルトとか海外で親子プロ選手になりたい。息子と一緒にプレーするのが僕の大きな夢なんです」

――それまでに「サッカー界の遠藤=航」という時代を作りたいですね。

「Jリーグには遠藤がいっぱいいます。その中で、もちろん今は『遠藤といえばヤットさん』だと思います。自分が結果を残せば、いつか『遠藤=航』というのがついてくると思う。今はあまり気にしてません」

――遠藤保仁選手は2015年まで10年近く日本代表のボランチに君臨していました。

「普通にすごいです。動きに飛び抜けた緩急があるわけじゃないけど、常に動いているから自分のペースにできる。攻撃センスは圧倒的だし、10年間代表にいること自体が簡単じゃないと思いますね」

――彼もワールドカップメンバーに初めて選ばれた2006年ドイツ大会では出番なし。そこからレギュラーをつかんだ流れは航選手と似ていますね。

「ヤットさんは当時26歳ですか。僕も2018年のロシア大会の時は25歳だった。そう考えると、10年間代表に居続けるというのは僕にも目指せること。ヤットさんという成功例がいるのは、僕にとってありがたいことです」

日本代表ボランチのリーダーへ(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)
日本代表ボランチのリーダーへ(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

――2008年から2015年まで続いた遠藤・長谷部の「鉄板ボランチ」をどう見ていました?

「ボランチはチームの肝。あのコンビはバランスがよかったですよね。長谷部さんはヤットさんの攻撃力をうまく使いつつ、ヤットさんはラストパスやゲームメーク力が非凡だった。本当にリスペクトされるべき存在です。だけど、今の時代は役割分担をあまりしなくなっているし、攻守両面に貢献できないと通用しない。2人を真似るんじゃなくて、今のサッカーに必要なものは何かを考えてゲームに落とし込むだけだと思っています」

――航・柴崎(岳=ラコルーニャ)コンビが2人の進化形では?

「岳が素晴らしい攻撃センスを持っているのはみんな分かっているけど、周りが考える以上に守備意識も高いですよ。一方の僕はもともと守備的な選手ですけど、攻撃面で違いを出せるようにしなきゃいけない。昨季はお互いクラブで試合に出ていましたし、2人で代表を引っ張っていけるようになれればいいですね。

 リスペクトした上で言いますけど、日本代表がワールドカップで優勝やベスト8を超える結果を残すためには、ヤットさんと長谷部さんは超えなきゃいけない存在です。その基準が何なのかはよく分かんないけど、ブンデス1部でボランチとして出続ければ、周りの評価は勝手についてくると思っています」

プロデビュー10年で新たなる目標、最終的な夢

 9月18日開幕の新シーズンに向け、8月3日から練習をスタートして、調整を続けている遠藤航。「今はまだキャリアの60%」と言うように、現在は急成長の真っ只中にいる。欧州5大リーグに本格挑戦するここからが本当の勝負。真価が問われるのだ。

――残りの40%にはどんな目標が?

「直近の目標はシュツットガルトでブンデス優勝したいし、欧州チャンピオンズリーグに出たいです。いずれはプレミアリーグにステップアップして、代表の8強超えも達成したい。最終的には息子と一緒にプロでサッカーをするという夢も持っています。湘南ベルマーレでプロデビューして、10年かけてここまでたどり着いたけど、僕にとっては一番の近道だったのかな。この先の10年でさらに高いところまで上

り詰めたいですね」

――「ヤット」のように親しまれる遠藤航選手の呼び名はありますか?

「個人的には『わっさん』と呼ばれたいですね(笑)。年代別代表でも結構、そう呼ばれていたんで。ここからは『わっさん』が定着するように頑張ります」

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■遠藤航(えんどう・わたる)

1993年2月9日生まれ(27歳)。神奈川県横浜市出身。2010年、湘南ベルマーレの2種登録選手としてJリーグデビュー。2015年8月の東アジア杯の北朝鮮戦でA代表初出場。12月には浦和レッズへ完全移籍。2016年リオデジャネイロ五輪ではU-23日本代表の主将として全3試合にフル出場するも、チームはグループリーグ敗退。2018年ロシアワールドカップでメンバー入りしたが、出場機会を得られず大会を終えた。ワールドカップ終了後、ベルギー1部のシント=トロイデンVVに完全移籍。2019年8月にブンデス2部のシュツットガルトに期限付き移籍。2020年4月、完全移籍が発表され、5月のハンブルガーSV戦で初ゴールを挙げた。ボランチのポジションをつかみ、チームの2シーズンぶりの1部復帰の立役者となった。

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スポーツジャーナリスト

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から7回連続で現地へ赴いた。近年は他の競技や環境・インフラなどの取材も手掛ける。

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