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新型コロナ直撃で苦境の日本サッカー界 東京五輪へ森保監督がいまこそ生かすべき2年前の経験

元川悦子スポーツジャーナリスト
2018年ロシアワールドカップの成功体験を生かせるか?(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

Jリーグは再延期が決定

 新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない。スポーツ界への影響は日に日に深刻度を増しており、日本サッカー界も大きな打撃を受けている。

 Jリーグは当初予定していた18日の公式戦再開の延期を決定。次なる目標を4月3日に設定したが、状況によってはさらなる延期の可能性もある。再開が現実になったとしても、試合を平日に組み込まなければならず、クラブの入場者減や収益減少が見込まれる。座席の間隔を空けたり、バンダナやタオルマフラーで口を覆うといった感染防止対策も講じなければならず、クラブやサポーターにも痛みが伴うだろう。どう転んでも苦難が伴うのは間違いなさそうだ。

日本代表も3月活動休止

 一方、日本代表も3月のA代表2連戦(26日=ミャンマー戦、31日=モンゴル戦)の延期とU-23代表2連戦(27日=U-23南アフリカ戦、30日=U-23コートジボワール戦)の中止が正式決定した。

 A代表に関しては、ご存じの通り、昨年9月から始まった2022年ワールドカップアジア2次予選の真っ只中。ここまで4連勝の日本はF組首位に立っており、早ければ3月シリーズで最終予選進出が決まる予定だった。しかし、コロナ感染拡大を踏まえて、アジアサッカー連盟(AFC)は国際サッカー連盟(FIFA)と協議。3月のみならず、6月の2次予選も原則延期を決定した。

2022年カタール大会2次は9~10月に開催へ

 となれば、今後のスケジュールは大きく後倒しになる。仮に9月シリーズから2次予選を再開できたとして、4試合が終わるのは10月。おそらく11月シリーズは国際親善試合を入れることになり、最終予選スタートは2021年3月になるだろう。2022年カタールワールドカップ本大会は11~12月開催であるため、同年3月に最終予選の決着がつき、6・9月に大陸間プレーオフが行われても時間的には十分間に合う。カタールの冬開催が功を奏した形となったのだ。

森保監督は夏まで五輪専念へ

 これによって、森保一監督は逆に東京五輪強化に専念できる状況になった。5月17~19日のJヴィレッジキャンプはJリーグ延期の余波で実現しない可能性は高いが、6月はA代表と日程がバッティングしない。欧州の現状を踏まえるとトゥーロン国際トーナメント(1~15日、フランス)開催は未知数で、そこに参加できる確証はなく、18人の絞り込み作業の難航が予想されるが、少なくとも強化合宿の実施は可能ではないか。欧州組はすでにリーグを終えているから、久保建英(マジョルカ)や堂安律(PSV)、冨安健洋(ボローニャ)ら主力級を呼んでも差し支えないはず。国内組もJクラブの理解を取りつけることができれば、最低限の人数は確保できると見られる。

 大会直前の7月も、計画している6~17日の淡路島での事前合宿期間にJの日程が入る可能性が高くなり、国内組をどこまで呼べるかが今後の議論になりそうだ。ただ、Jリーグ側の「今年は東京五輪に協力する」という基本姿勢は大きく崩れないはず。FC東京の大金直樹社長も「やはり一番心配なのは東京五輪を予定通り、開催できるか。これだけお金と時間をかけて準備してきたのだから、絶対に実施してもらいたい」と語気を強めていたが、それは日本サッカー界に関わる全ての人に共通する思い。だからこそ、日程がタイトになっても、Jクラブは五輪代表選手の派遣に合意するだろう。

勝負は大会直前。短期間で最強チームを作るしかない

 つまり、森保監督に課せられた命題は、6月と7月の限られた期間に金メダルを取れる最強チームを構築することだ。強化期間を何日確保できるかも分からないし、オーバーエージを含めて誰を呼べるかもハッキリしない中、1月のAFC・U-23選手権(タイ)で1次リーグ敗退の憂き目に遭ったチームを一気に引き上げるのは、極めて難しい命題に違いない。それでも、自国開催の代表チームを率いる人間として、困難に立ち向かうしかないのだ。

 振り返ってみると、2017年11月に東京五輪に向けたU-21日本代表を立ち上げてから、森保監督はここまで選手の見極めに多くの時間を費やしてきた。「最終的なチーム作りは2020年に入ってからやれば間に合う」という目算があったから、あえてサバイバルを前面に押し出してきたのだ。結果的にこのような予期せぬアクシデントが起こり、ラストの仕上げの時間がほとんどなくなったが、チームマネージメントというのはつねに誤算が起こり得る。今回は1カ月足らずの準備期間という苦境を余儀なくされるだろうが、それを最大限有効活用して「勝てる集団」を作り上げるしかない。

突貫工事で結果を出した2010・2018年W杯の経験をどう生かす?

 幸いにも、日本サッカー界には、ビッグトーナメント直前に空中分解寸前のチームを立て直してワールドカップで16強入りした過去が2度もある。1度目は岡田武史監督(現FC今治代表)が率いた2010年南アフリカ大会、2度目は西野朗監督(現タイ代表監督)が指揮した2018年ロシア大会だ。森保監督がその2人から学べることは少なくない。しかもロシアの時は西野監督の下でコーチを務めていて、指揮官のアプローチや選手たちの一挙手一投足を間近で見ていた。今こそ、その貴重な経験を生かすべきだ。

 しかも、森保監督はA代表とU-23を兼務しているから、オーバーエージ候補と目される柴崎岳(ラコルーニャ)や大迫勇也(ブレーメン)らとの信頼関係も構築できている。昨年のコパアメリカ(ブラジル)で下地作りもしているため、融合はスムーズに行くだろう。そういった兼任監督のメリットも生かしながら、時間との闘いを制するしかない。どんな状況でも勝負の世界は言い訳は通用しないのだから。

スポーツジャーナリスト

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から7回連続で現地へ赴いた。近年は他の競技や環境・インフラなどの取材も手掛ける。

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