東京五輪まであと1年。メダルへのラストイヤーに突入したママさん選手・荒木絵里香

(写真:田村翔/アフロスポーツ)

チャイニーズタイペイ戦で2019年の国際試合に復帰

 猛暑の10日、埼玉・深谷ビッグタートルで行われたバレーボール女子国際親善試合のチャイニーズタイペイ戦。中田久美監督率いる全日本女子(火の鳥ニッポン)に34歳のミドルブロッカー・荒木絵里香(トヨタ車体)が戻ってきた。

 5~6月にかけて行われたネーションズリーグを免除された彼女にとって、今回の試合は2019年シーズン最初の代表戦。2008年北京、2012年ロンドン、2016年リオデジャネイロという3度の五輪を経験しているベテランは2020年東京大会まで1年を切った今の重要性を誰よりもよく分かっている。国歌斉唱時からコートを睨みつけるような厳しい表情を見せていたのも、ラストイヤー突入を真剣に受け止めていたからに違いない。

試合開始前の国歌斉唱(筆者撮影)
試合開始前の国歌斉唱(筆者撮影)

 スターティング6に名を連ねた背番号5は第1セットから圧倒的な存在感を発揮する。立ち上がりこそ点の取り合いになったが、芥川愛加(JT)のサーブで7点連取した中盤には荒木のブロックとクイック、移動攻撃がさく裂。日本が25-10で先行する。

 第2セットは荒木の対角を務める芥川のブロックやクイックが序盤から活躍。刺激を受けた荒木も途中からブロックや中央からのスパイクでポイントに貢献する。日本はこのセットも25-13で取った。

 ここでお役御免となった荒木は第3セットを外から見守った。粘る相手にやや苦しみながらも25-17と突き放した仲間たちの一挙手一投足に温かくも厳しい視線を送り続けた。

「ネーションズリーグは入りがよくなかったみたいですけど、今日はしっかり入れたのかな。個人としては1ミドルブロッカーとして得点源になること、存在感を出していくことが大事だと思うので、そこを全うしていきたいです。自分のチームでの役割は、ホントに苦しい時にしっかり踏ん張れる存在でいること。そうなるように頑張りたいと思います」と荒木は柔らかな笑みを浮かべた。

荒木の存在感を絶賛した中田久美監督(筆者撮影)
荒木の存在感を絶賛した中田久美監督(筆者撮影)

 経験豊富な彼女のもたらす安心感と安定感の大きさはチーム全体が認めるところだ。中田監督は「本物のプロのアスリートとしてお手本になる選手。自分で体を整えることが確実にできるんで、私も含めて見習わなきゃいけない」と絶賛。エースの石井優希(久光製薬)も「エリカさんが相手を引き付けてくれるので、サイドのスパイカーにしてみれば本当に有難いです。安心感もすごくありますし、私たちから見ても『お母さんだな』と思うような包容力がありますね」と目を細めていた。

 こうした母親的な器の大きさを醸し出せるのも、荒木が本物の母親だからこそ。全日本女子唯一のママさんプレーヤーは今、確実にパワーアップし、1年後に迫ってきた4度目の世界舞台に向かいつつある。

 2012年ロンドン五輪で銅メダルを獲得した後、ラグビー元日本代表の四宮洋平氏と結婚し、2014年1月に長女を出産してから5年半。彼女は母、妻、バレー選手の3つのわらじを履き続けている。トヨタ車体所属で自身の拠点は愛知県だが、夫も東京でビジネスを営んでいるため、子育には専念できない。そこで力強い援軍になってくれているのが、荒木の母・和子さん。「絵里香のやりたいことをサポートしたい」と申し出てくれた母親の協力があってこそ、全日本女子での活動をここまで継続できているのだ。

母・妻・バレーボール選手の三足のわらじを履く

 今年の場合も6月末から全日本女子に合流。7月はオランダ遠征などに赴き、8月も今回のチャイニーズタイペイとの親善試合や合宿に継続的に参加している。そして9月には今年最大のビッグイベントであるワールドカップ2019が開幕する。2018年世界選手権優勝で世界ランキング1位のセルビアを筆頭に中国、アメリカ、ブラジル、ロシアなど世界ランク上位国が一堂に会する同大会は「2020年東京大会の前哨戦」と位置付けられる。ここで躍進できれば、8年ぶりのメダル奪回への道筋も見えてくる。それだけ重要度が高いワールドカップが1カ月後に迫っているだけに、幼い娘を抱えるママさんといえども、休む暇はないのだ。

「たまのオフの日には帰ってますけど、なかなか難しいですね。今は娘の幼稚園が夏休みなんで、先週まではサマースクールに入れて預かってもらっていました。お盆の時期はパパがお休みなのかな。でも私は帰れません(苦笑)。ホントに家族みんなを巻き込んで頑張らせてもらってるんで、しっかり頑張らないといけないですね」と荒木は愛する家族と離れる辛さを振り切って、夢への挑戦を続けている。

愛する娘、家族のためにも東京で成功を

 テレビ電話で話す娘にソッポを向かれたり、逆に家に帰ると「ママ、ママ」とまとわりついてくる娘のことを考えると、「こんなことをしていていいのだろうか」と迷うこともあるという。それでも、バレーボールが好きだという純粋な気持ちは今も変わらない。より高いものを目指す飽くなき向上心も失われることはない。そんな強靭なメンタリティを持ち合わせているアスリートはそうそういないだろう。

「東京五輪では納得できる戦いをしてメダルという結果を残す」という覚悟を決めた荒木絵里香。彼女は本番までのラストイヤーでできる限りのことをして、中田監督率いる全日本女子に貢献しようとしている。このチームがいかにして完成度の高い、勝てる集団へと飛躍していくのか。その成否を左右するベテラン・ミドルブロッカーの今後の動向が非常に楽しみだ。