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レアルが強さを維持している理由。バルサを撃破したアンチェロッティが探す「11人目」の選手。

森田泰史スポーツライター
勝利を喜ぶレアル・マドリーの選手たち(写真:なかしまだいすけ/アフロ)

サウジアラビアでのクラシコを制したのは、レアル・マドリーだった。

スペイン・スーパーカップの準決勝で、マドリーとバルセロナが激突した。一進一退の攻防となったゲームは、フェデリコ・バルベルデの決勝点でマドリーに軍配が上がった。決勝では、アスレティック・ビルバオがマドリーと対戦する。

リーガエスパニョーラでは、首位マドリー(勝ち点49)を追走できているのは2位セビージャ(勝ち点44)のみだ。3位ベティス(勝ち点34)、4位アトレティコ・マドリー(勝ち点33)、5位レアル・ソシエダ(勝ち点33)、6位バルセロナ(勝点32)と消化試合数1試合多いとはいえマドリー が独走状態に入ったと言える。

■新たなチームビルディング

今季、カルロ・アンチェロッティ監督は新たなチーム作りに腐心してきた。

マドリーはこの夏にセルヒオ・ラモスとラファエル・ヴァランを放出。キリアン・エムバペの獲得も叶わなかった。マドリーで2度目の挑戦となったアンチェロッティ監督としては、決して良い状況ではなかった。

そういった背景を踏まえ、イタリア人指揮官は早い段階でメンバーを固定した。ティボ・クルトゥワ、ダニ・カルバハル、エデル・ミリトン、ダビド・アラバ、フェルラン・メンディ、カゼミーロ、トニ・クロース、ルカ・モドリッチ、カリム・ベンゼマ、ヴィニシウス・ジュニオール。彼らの名前が基本的にスタメン表を飾るようになった。

アンチェロッティ監督は、ジネディーヌ・ジダン前監督の遺産を引き継いだ。チャンピオンズリーグ3連覇という偉業を成し遂げたチームで、カゼミーロ、クロース、モドリッチの3人が中盤に君臨していた。そこは弄(いじ)らず、少しのリタッチで好循環を生み出す。それがアンチェロッティ監督の発想だった。

バルベルデの決勝ゴール
バルベルデの決勝ゴール写真:ロイター/アフロ

巧みな選手マネジメントで成功を収めたジダンが去り、現実主義者のアンチェロッティ監督が就任した。そこで萌芽の時を迎えたのがヴィニシウスだ。ひとつ、きっかけとなったのは、リーガ第2節レバンテ戦だろう。この試合、ヴィニシウスはベンゼマのアシストで得点を記録している。ヴィニシウス がベンゼマとマドリーで一緒にプレーを始めてから、初のアシストだった。それまでに103試合、時間にして5200分が必要だった。

そのレバンテ戦以降、ベンゼマとヴィニシウスのコンビネーションは日に日に向上していく。ベンゼマ(公式戦23得点)とヴィニシウス (15得点)、欧州5大リーグで彼らに匹敵するのはリヴァプールのモハメド・サラー(23得点)とディオゴ・ジョッタ(12得点)くらいだ。ベンゼマとヴィニシウス は欧州で最高峰のデュオになっている。

かつて、「ヴィニシウスにパスするな」とメンディに対して言い放っていたところをカメラにすっぱ抜かれていたベンゼマは、今季に入り「ヴィニシウスはトッププレーヤーだ」と語るに至っている。現金だといえばそれまでだが、結果の蓄積が2人の関係性を良好にしたのは確かだろう。

■11人目の選手

マドリーの攻撃を牽引しているのはヴィニシウスとベンゼマだ。そして試合をコントロールしているのは中盤の3選手である。その中で、アンチェロッティ監督が起用を迷っているポジションがある。右ウィングだ。

「ローテーションのためのローテーションは行わない」と明言していたアンチェロッティ監督だが、右ウィングに関してはガレス・ベイル、ルーカス・バスケス、エデン・アザール、ロドリゴ・ゴエス、マルコ・アセンシオといった選手が試されてきた。

現時点、ポジション争いでリードしているのはロドリゴとアセンシオだろう。

ロドリゴに関しては“CLの男”と呼ばれるように、ビッグマッチで強さを発揮する。右利きのアタッカーとして右サイドに置かれ、ハードワークを厭わない。

アセンシオについては、東京五輪に参加した影響もあり序盤戦で出番が少なかった。当初はインサイドハーフでも起用され、アンチェロッティ監督自身、コンバートを示唆していた。だがリーガ第6節のマジョルカ戦で、今季初スタメンでハットトリック。その時はインサイドハーフだったが、得点力を上げ、なおかつインサイドハーフでのプレーを経験して、立ち位置が良くなった。

ポジション争いに挑んでいるアセンシオ
ポジション争いに挑んでいるアセンシオ写真:ムツ・カワモリ/アフロ

一方、メンバー決めと密接にリンクするのが、チームのプレースタイルだ。

「我々が自陣に構えるのは、カウンターを仕掛けるためだ。そのようにして、我々はクオリティの高いプレーができる」とはアンチェロッティ監督の言葉である。

「カウンターが我々の最大の武器だ。現在の中盤の選手たちの特徴に顧みて、前線からプレッシングを行うというのは難しい。自陣に構えるとはいえ、それはスタティックになるという意味ではない。早い攻撃を仕掛けるという点で、我々のクオリティは非常に高い。それを生かさない手はない」

クロースに指示するアンチェロッティ監督
クロースに指示するアンチェロッティ監督写真:ムツ・カワモリ/アフロ

メンバーの固定やカウンター頼りというのは、今後のマドリーの課題になるだろう。

第一次政権(2013年−2015年)では、就任2年目に22連勝を達成しながら、無冠に終わりクラブを追われた。「新たな推進力を必要としている」というフロレンティーノ・ペレス会長の言葉は、デシマ(クラブ史上10度目のCL制覇)を成し遂げたアンチェロッティに深く刺さった。

カウンターは我々の最大の武器だーー。そう言い切るアンチェロッティには、力強さと頼もしささえ感じられる。続投にはタイトルが必要。それを知るアンチェロッティは、メンバーの選定とリーガのタイトルだけを考えている。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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