3バックに、アンカーシステム。バルサとアトレティコの布陣変更が意味するものとは?

シュートを打つメッシ(写真:ロイター/アフロ)

ヨーロッパのシーズンは、佳境を迎えている。

過去にない盛り上がりを見せているのが、リーガエスパニョーラだ。第34節終了時点で首位アトレティコ・マドリー(勝ち点76)、2位レアル・マドリー(勝ち点74)、3位バルセロナ(勝ち点74)、4位セビージャ(勝ち点70)と4チームが優勝の可能性を残している。

第35節でバルセロナとアトレティコが、マドリーとセビージャが直接対決で激突する。この結果がタイトルの行方を左右するのは火を見るよりも明らかだ。

シーズン前半戦の試合ではアトレティコが勝利
シーズン前半戦の試合ではアトレティコが勝利写真:ロイター/アフロ

「大きなニュースだ。こういった出来事は、スペインのフットボールを発展させるために役立つだろう。4チームが優勝を争うという状況で、そのタイトルの重要性は増す。我々と、バルセロナ、マドリー、セビージャがひとつの可能性を追及しているので、これまで以上に『試合から試合へ』の考えが大事になる」とはディエゴ・シメオネ監督の言葉である。

「私はポジティブな人間だ。ネガティブな考えはないよ。私の頭の中にあるのは、次の試合だけだ。言葉は意味を持たない。大事なのは行動だ。4チームが争っているのだから、1試合1試合が決勝になる。私は素晴らしいシーズンを送ってきた選手たちを信頼している」

話し合うブスケッツ、ピケ、メッシ
話し合うブスケッツ、ピケ、メッシ写真:なかしまだいすけ/アフロ

アトレティコと対峙するバルセロナは、今季、多くの問題を抱えてきた。

指揮官交代とロナルド・クーマン監督の就任、リオネル・メッシの退団騒動、ジョゼップ・マリア・バルトメウ前会長の辞任、会長選挙、ジョアン・ラポルタ新会長の就任...。まさに激動のシーズンを送っていると言える。

チャンピオンズリーグにおいてはパリ・サンジェルマンに屈してベスト16敗退が決定した。しかし、コパ・デル・レイでは決勝でアスレティック・ビルバオを撃破して優勝を飾った。そして、残り4試合となったリーガで王者になる可能性を残している。クーマン監督自身が先日、「我々は首位のチームに勝ち点差で大きく離されていた。それを考慮すれば、リーガで優勝を争っていること自体が大きな達成だ」と認めていた。

メッシとグリーズマン
メッシとグリーズマン写真:ムツ・カワモリ/アフロ

■布陣変更とメッシ

バルセロナが”V字回復”してきた背景には、システムチェンジがある。

就任当初、「4-2-3-1がこのメンバーには適している」と語っていたクーマン監督だが、その後、【4-3-3】への変更を経て、【3-1-4-2】に辿り着いた。リーガ第25節セビージャ戦(○2-0)で勝利して、クーマン監督の心が決まった。このシステムで行く。大きな決断だった。

リオネル・メッシが2トップの一角に入る。実質、彼にはフリーロールが与えられた。リーガの得点王ランクで首位を走るメッシ(28得点)の守備負担を軽減するため、アントワーヌ・グリーズマンがハードワークを行う。明確な役割を得たグリーズマン(12得点)の決定力も回復してきており、相乗効果が生まれている。

そして、中盤ではペドリ・ゴンサレス、フレンキー・デ・ヨングが躍動している。

ペドリ(リーガ34試合出場/パス本数1591本/パス成功本数1399本/ボール奪取数132回)とデ・ヨング(リーガ34試合出場/パス本数2577本/パス成功本数2367本/ボール奪取数199回)の貢献は計り知れない。

アンカーにセルヒオ・ブスケッツを据えた中盤のトライアングルはバルセロナの生命線になっている。

シュートを止めるテア・シュテーゲン
シュートを止めるテア・シュテーゲン写真:ロイター/アフロ

ただ、守備面では課題がある。

GKマルク=アンドレ・テア・シュテーゲンの被シュート本数は226本だ。1試合平均8本である。GKヤン・オブラク(316本/1試合平均9.4本)、GKティボ・クルトゥワ(323本/1試合平均9.7本)、GKヤシン・ブヌ(217本/1試合平均7.9本)と比較して、特別に多いわけではない。

だがバルセロナ(33失点)、アトレティコ(22失点)、マドリー(24失点)、セビージャ(27失点)とリーガのトップ4の中ではバルセロナが最も失点数が多い。第33節でグラナダに敗れた後に「ポジショニングのミスがあった。それを修正するためにチームに話をした」と述べていたクーマン監督であるが、それは一つの懸念材料になっている。

アトレティコのシメオネ監督
アトレティコのシメオネ監督写真:ムツ・カワモリ/アフロ

■シメオネの野望

一方、アトレティコは今季序盤から好調を維持してきた。

シーズン前半戦、勝ち点41を獲得したアトレティコは”冬の王者”に輝いた。およそ25年ぶりの快挙だった。その称号を手にした1995-96シーズン、アトレティコはリーガとコパを制して2冠を達成している。

今季、調子が上向きだった理由として、3バックの使用が挙げられる。

アトレティコは2011年12月にシメオネ監督が就任してから【4-4-2】を基本布陣としてきた。堅守速攻のスタイルで、彼らはスペインと欧州で地位を確立した。

そのシステムを放棄して、シメオネ監督は【3-1-4-2】を採用した。

ジョレンテとエルモソ
ジョレンテとエルモソ写真:ロイター/アフロ

鍵を握る存在となったのはマリオ・エルモソだ。

アトレティコは2019年夏にエスパニョールから移籍金2500万ユーロ(約32億円)でエルモソを獲得した。2019-20シーズン、シメオネ監督はエルモソを組み込んで3バックで戦おうとしていたものの、シーズン前半戦で結果が出ず、スペイン・スーパーカップを契機に【4-4-2】へと布陣は戻されていた。

だが今季3バックに再び着手したシメオネ監督にとって、エルモソは外せない選手になった。

エルモソを起用しての3バックは嵌まった。【3-1-4-2】でコケがアンカーに入り、加えて今夏バルセロナから移籍金固定額ゼロで加入したルイス・スアレスの存在で、攻撃に深みがもたらされるようになった。

ただ、スアレス(リーガ19得点)だけには頼らず、マルコス・ジョレンテ(12得点)、アンヘル・コレア(7得点)、ジョアン・フェリックス(7得点)とアタッカー陣の得点は分配されている。

「選手たちは忍耐を持ち働き続けている。フットボールと人生は、そういった努力に必ず報いてくれる」

シメオネ監督は語る。アトレティコにとっては、2013-14シーズン以来の優勝が懸かっている。そのシーズンの最終節、敵地カンプ・ノウで引き分け、勝ち点1を奪取してタイトルを攫(さら)った。アトレティコとバルセロナの両者は決戦に全力で挑み、そしてマドリー対セビージャの結果を待つ。

フットボールライター/戦術分析家 東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。カンプ・ノウでメッシの5人抜きを目の当たりにして衝撃を受ける。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。『Foot! MARTES』出演中。

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