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レアルがCL制覇に近い理由とは?ヴィニシウスの「覚醒」と中盤の構成力にジダンのプラン。

森田泰史スポーツライター
得点を喜ぶヴィニシウス(写真:ロイター/アフロ)

チャンピオンズリーグはレアル・マドリーの大会なのかもしれない。

今季のチャンピオンズリーグ準々決勝で、レアル・マドリーはリヴァプールと対戦している。ファーストレグはマドリーが3-1で勝利した。

マドリー対リヴァプールの一戦
マドリー対リヴァプールの一戦写真:ロイター/アフロ

「選手たちの努力は信じられない。我々は多くの困難に見舞われたが、状況をひっくり返した。(チャンピオンズリーグとリーガエスパニョーラの)2大会でタイトル獲得に向けて生き残っている。このチームに限界はない。経験豊富な選手たちだが、より多くの勝利を望んでいる」と試合後にジネディーヌ・ジダン監督は述べた。

「我々はディフェンス面で良い仕事をした。全員がハードワークをした。良い守備をすれば、攻撃でチャンスがあると考えていた。リヴァプールのサイドバックは攻撃的なので、そこを突こうと思った。クロースのクオリティとヴィニシウスのスピードは素晴らしかった」

■CLに強いレアル・マドリー

先日、スペイン『マルカ』のインタビューで「マドリー戦で心配していることは?」と聞かれたモハメド・サラーは「彼らはチャンピオンズリーグで優勝できるチームだ。この大会で素晴らしいプレーを見せる。この10年で4回くらいは優勝しているよね。チャンピオンズリーグという大会と相性が良いんだ」と答えた。

2015-16シーズン、2016-17シーズン、2017-18シーズンとマドリーはチャンピオンズリーグで3連覇を成し遂げた。クリスティアーノ・ロナウドを中心にしたチームを作り上げたジダン監督は、選手として、監督としてクラブの歴史に名を刻んだ。

2018年のCLを制したマドリー
2018年のCLを制したマドリー写真:Maurizio Borsari/アフロ

だが少し遡れば、マドリーはビッグイヤー獲得に苦労していた。

2008年以降、スペインと欧州を席巻していたのはバルセロナだった。ジョゼップ・グアルディオラ監督が指揮を執るバルセロナは「ペップ・チーム」と呼ばれ、リオネル・メッシ、アンドレス・イニエスタ、シャビ・エルナンデスを主軸にポゼッションスタイルで他を圧倒した。

宿敵を倒すためにフロレンティーノ・ペレス会長はある決断を下す。ジョゼ・モウリーニョ監督の招聘だ。2009-10シーズン、インテルで3冠を達成した指揮官を呼び入れた。「スペシャル・ワン」と称された男がマドリードに到着して、打倒バルセロナというミッションが掲げられた。

イケル・カシージャスとの確執、メディアとの軋轢、過熱するバルセロナとのライバル関係...。スペシャル・ワンはまた負の遺産を残してもいった。それでも、モウリーニョ監督がマドリーのメンタリティーを変えたのは確かだろう。彼の下でマドリーはCLの4強の常連になり、その後任として就任したカルロ・アンチェロッティ監督がデシマ(クラブ史上10回目のCL制覇)をもたらした。

マドリーを率いたモウリーニョ監督
マドリーを率いたモウリーニョ監督写真:なかしまだいすけ/アフロ

そのアンチェロッティ監督の下でアシスタントコーチとして経験を積んだのが、ジダン監督である。ちなみに、ジズー(ジダン監督の愛称)はモウリーニョ監督時代に補強担当として働いていた。ラファエル・ヴァランの獲得をクラブに進言したのは他ならぬジズーである。

ジダン監督のチームは不可解なチームだとも言える。バイエルン・ミュンヘン、リヴァプール、マンチェスター・シティ、パリ・サンジェルマン、近年のチャンピオンズリーグで上位に名を連ねるようなところは日常の試合ーー国内リーグ戦ーーで結果を残している。日々を大事にして、それを積み上げ、欧州の舞台でぶつけてくるのだ。だがジダン・マドリーがチャンピオンズリーグで3度優勝した中でリーガエスパニョーラのタイトルを奪取したのは2016-17シーズンのみで、ほかはバルセロナに大きく水をあけられた。

ヴァラン、イスコ、ダニ・カルバハル、マルコ・アセンシオといった若い選手たちはジダン監督の下で経験を積んだ。「犬がいなければ猫を狩りに連れていくしかない」とモウリーニョ監督に酷評されたカリム・ベンゼマは、C・ロナウドの退団後、エースに成長した。

■ジダンが大切にしているもの

その中でジダン監督が重視しているのが中盤の構成力だ。トニ・クロース、ルカ・モドリッチ、カゼミーロの3人が各々のタスクを担う。

イスコ、ハメス・ロドリゲス、ダニ・セバージョス、マルティン・ウーデゴール、フェデリコ・バルベルデ...。ジダン・マドリーで多くの中盤の選手がポジション争いに挑んできた。だがクロース、モドリッチ、カゼミーロのjerarquia(※ヘラルキーア/階級)を崩せる者はいなかった。

リヴァプール戦では、モドリッチとクロースがアシストを記録した。チーム2点目となったマルコ・アセンシオのゴールもクロースのミドルパスの流れから生まれている。そしてカゼミーロはセルヒオ・ラモスとラファエル・ヴァラン不在の試合で改めてカバーリング能力の高さを見せつけた。

ヴィニシウスとクロース
ヴィニシウスとクロース写真:ロイター/アフロ

また、ビッグマッチで輝きを放ったのがヴィニシウス・ジュニオールだ。

マドリーが2018年夏に移籍金4500万ユーロ(約57億円)で獲得したブラジルの若きアタッカーは、ドリブルと突破力において非凡な才能を有していた。しかしながら彼はフィニッシュの精度を欠く選手だった。

今季の公式戦37試合6得点6アシストという数字から分かるようにヴィニシウスの決定力には難があった。ジダン監督やアシスタントコーチのダビド・ベットーニと個人練習に励む必要があった。その成果が重要な一戦であらわれ、リヴァプール相手に2ゴールと覚醒した。「周囲の人たちは言いたいように言えばいい。僕は働き続けるだけ。チームメートは僕を信頼してくれている。結果的に必要なゴールを決めることができた」とはリヴァプール戦後のヴィニシウスのコメントである。

マドリーは直近の12試合で無敗を貫いている。CLで13度の優勝を誇るクラブが、シーズン終盤にギアを上げてきているのは明らかだ。

※iの上にアクセント

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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