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レアルは「蘇生」できるのか?ジダンを悩ます攻撃の「ベンゼマ依存症」と必要な得点力の分配。

森田泰史スポーツライター
ゴールを喜ぶレアル・マドリーの選手たち(写真:ロイター/アフロ)

リーガエスパニョーラ優勝に向け、可能性は残された。

リーガ第26節、レアル・マドリーは敵地ワンダ・メトロポリターノでアトレティコ・マドリーと対戦した。敗れればタイトルレースから脱落する試合で、終了間際のカリム・ベンゼマの同点弾でマドリーは勝ち点1をもぎ取っている。

アトレティコ戦で得点をマークしたベンゼマ
アトレティコ戦で得点をマークしたベンゼマ写真:ロイター/アフロ

「得点力不足? 僕には、分からない。ただ、僕たちがもっとゴールを決めていてもおかしくはないと思う。チャンスは常につくっているからだ。そして、ゴールというのは、チャンスがある時に決めなければ生まれない」

これはアトレティコ戦後のベンゼマの言葉だ。今季、マドリーのチーム内得点王は公式戦18得点を挙げているベンゼマである。次点には、カゼミーロ(6得点)がくる。

そして、アトレティコ戦でゴールをこじ開けたのも、この2選手だった。ビハインドの展開で、右のハーフスペースをベンゼマとカゼミーロのワン・ツーで攻略し、GKヤン・オブラクの牙城を崩した。

「監督に僕が求めているのは、チームにバランスをもたらすことだ。それから、ゴール前に顔を出すこと。それは明確だ。僕は自分の一番の仕事をよく理解している。チームのバランスを整えなければならない。だけど、ゴールやアシストで貢献するのも重要だ」とはカゼミーロの弁である。

一方、ベンゼマ不在の在はある。ベンゼマが出場している試合のマドリー(シュート数1試合平均13.5本/1試合平均1.9得点)、ベンゼマが欠場している試合のマドリー(14本/1得点)と得点率は明らかに落ちる。

ヨヴィッチとジダン監督
ヨヴィッチとジダン監督写真:ムツ・カワモリ/アフロ

2018年夏にクリスティアーノ・ロナウドがユヴェントスに移籍して以降、マドリーは前線の補強に3億5000万ユーロ(約448億円)以上を投じてきた。

だがエデン・アザールは度重なる負傷に苦しめられ、ルカ・ヨヴィッチは今冬の移籍市場でフランクフルト移籍を決断した。

ヨヴィッチ(9試合3得点)、ガレス・ベイル(トッテナム/リーグ戦11試合5得点)、ボルハ・マジョラル(ローマ/20試合6得点)、ブラヒム・ディアス(ミラン/17試合1得点)、ヘイニエル・ジェズス(ボルシア・ドルトムント/8試合1得点)と放出された選手たちは新天地で奮闘している。

マドリーでゴールを量産したC・ロナウド
マドリーでゴールを量産したC・ロナウド写真:ロイター/アフロ

「ポスト・クリスティアーノ時代」において、マドリーは苦しんでいる。

クリスティアーノ・ロナウドが去った後のファーストシーズン、2018-19シーズンでは、ベンゼマ(30得点)、ベイル(14得点)、セルヒオ・ラモス(11得点)、マルコ・アセンシオ(6得点)、イスコ(6得点)が得点を分け合った。

19-20シーズンには、ベンゼマ(27得点)、ラモス(13得点)、ロドリゴ・ゴエス(7得点)、トニ・(6得点)、カゼミーロ(5得点)と2番目にセンターバックの選手が位置する事態に陥った。

「大事なのは、決定機を作ることだ。我々はチャンスを作っている。選手たちはそれぞれの数字を向上させられるだろう。私は現役時代にクオリティに見合うほどのゴール数を記録していなかった。より多くのゴールを決めるのを目標にしていた」

ジネディーヌ・ジダン監督の言葉だ。

■堅固な守備

一方で、マドリーの堅固な守備は健在だ。

大きいのは、GKティボ・クルトゥワの存在だろう。2019年夏にチェルシーからマドリーに移籍したクルトゥワだが、「最初はジダン監督との間に距離があった」と語るように、移籍当初は適応に腐心した。

2019-20シーズン、チャンピオンズリーグのグループステージ第2節、クルブ・ブルージュ戦。2-2のドローに終わった試合で、本拠地サンティアゴ・ベルナベウの観衆からブーイングが浴びせられた。その矛先には、クルトゥワがいた。

のちに、ベルギー代表のGKコーチを務めるエルヴィン・ルマンスが「選手の再構築のためにハードワークする必要があった」と話したように、クルトゥワにとって決定的な出来事だった。

ジダン監督にとって、長く正守護神はケイロール・ナバスだった。K・ナバスへの信頼は厚く、アスレティック・ビルバオに在籍していたケパ・アリサバラガの獲得を見送ったほどだ。選手たちも同様で、クルトゥワによれば「セルヒオ・ラモスはナバスの友人だった」という。

実際、クルトゥワのパフォーマンスは低かった。先のブルージュ戦後、マドリーで42試合に出場して57失点を喫することになった。ゲンク時代(45試合49失点)、アトレティコ時代(154試合125失点)、チェルシー時代(154試合152失点)と比べワーストの記録だった。

順応の期間とK・ナバスを巻き込んだGK論争を経て、クルトゥワはマドリーの正GKになった。今季、リーガ第25節終了時点、クルトゥワのセーブ率(73.3%)はリーガで4位の数字だ。オブラク(アトレティコ/78.6%)、ヤシン・ブヌ(セビージャ/78.2%)、マーク=アンドレ・テア・シュテーゲン(バルセロナ/74.6%)に次ぐ守護神になっている。

今季に関していえば、ラモスやダニ・カルバハルの負傷離脱期間が長く、クルトゥワの貢献は大きい。守備と攻撃の平衡を取り戻せば、マドリーにタイトル獲得の可能性はある。しかし、そうでなければ...。再び監督解任論と大型補強の憶測が飛び交うだろう。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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