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クロップとリヴァプールは原点回帰できるのか?示された王者の威厳とタイトルレースの行方。

森田泰史スポーツライター
クロップ監督とサラー(写真:ロイター/アフロ)

リヴァプールが、王者の貫禄を示した。

リヴァプールはチャンピオンズリーグ決勝トーナメント1回戦でライプツィヒと対戦。昨季プレミアリーグを制したユルゲン・クロップ監督のチームはファーストレグを2-0で制し、威厳を見せた。

■プレミアリーグの苦戦

今季、プレミアリーグでは現在6位と苦戦を強いられている。

大きかったのはフィルジル・ファン・ダイクの離脱だ。昨年10月17日のエヴァートン戦で負傷したファン・ダイクは6カ月から8カ月戦列を離れることになった。2017年冬の移籍市場において移籍金8500万ユーロ(約102億円)で加入して以降、リヴァプールを支え続けていたファン・ダイクの不在はクロップ監督にとって打撃だった。

負の連鎖は続いた。ジョー・ゴメス、ジョエル・マティップ、ディオゴ・ジョッタ、ナビ・ケイタ、ファビーニョと主力が次々にチームから抜けていった。

「適切な対応をしたい。細かい点に拘ろうとは思わないが、適した選手を見つけなければいけない。いま起きていることは、本当に信じられないよ...。もちろん、我々のチームに選手はいる。だが正直に言えば、ディフェンスラインの選手は少ない」とはマティップが負傷した際のクロップ監督の弁である。

ライプツィヒ対リヴァプールの一戦から
ライプツィヒ対リヴァプールの一戦から写真:ロイター/アフロ

近年、リヴァプールはまさに「適切な」補強を行ってきた。

ファン・ダイクを筆頭に、GKアリソン・ベッカー(2018年夏加入/移籍金7500万ユーロ/約89億円)、ファビーニョ(2018年夏加入/移籍金5000万ユーロ/約60億円)といった選手たちが到着して守備が安定した。

この夏には、チアゴ・アルカンタラ(移籍金3000万ユーロ/約35億円)、ディオゴ・ジョッタ(移籍金3300万ユーロ/約39億円)が加入した。チアゴに関しては激しい守備とトランジションで強みを発揮するリヴァプールの中盤で創造性をもたらす存在として、ジョッタについてはサディオ・マネ、ロベルト・フィルミーノ、モハメド・サラーに次ぐ「第4のFW」としての役割が期待された。

筆者作成
筆者作成

「ゲーゲンプレッシング」と称される連動したプレス、それは指揮官の生命線だ。端的に言えば、それはボールロスト後のプレッシングである。攻守備の切り替えと守攻の切り替えで対戦相手に先んじて、混乱を生じさせる。カオスを生み出したところで素早くフィニッシュに持ち込んで試合を決めてしまう戦い方だ。

一方でゲーゲンプレッシングにおいてはチーム全体の繋がりと高いフィジカルベースが求められる。選手の入れ替えが困難で、なおかつ勤続疲労が伴うという矛盾が出てきていた。クロップ体制での難しさはそこにあった。

新加入のチアゴ
新加入のチアゴ写真:代表撮影/ロイター/アフロ

歪は生じていた。本拠地アンフィールドで68試合無敗を維持していたリヴァプールだが、プレミアリーグ第18節バーンリーに敗れ、記録が途絶えた。

その試合後にクロップ監督は「プレミアリーグのタイトルに考えを巡らせてはいけない。得点を挙げ、試合に勝つことだけに集中すべきだ。我々は状況を変えなければならない。物事が順調に進んでいない時はよりハードワークが求められる。継続的に正しい行いをしなければならない」と語っている。

「責任は私にある。監督というのは、選手たちに自分たちがやっていることを信じさせなければいけない。それが仕事だ。バーンリー戦だけではない。その前の3試合を含めて機能していなかった。チーム全体のパフォーマンスの問題ではなく、決定的な部分で仕事ができていなかった。我々自身のアイデンティティーに回帰しなければならない」

クロップ監督とグアルディオラ監督
クロップ監督とグアルディオラ監督写真:ロイター/アフロ

14年ぶりのチャンピオンズリーグ優勝、30年ぶりのプレミアリーグ制覇と2年連続でリヴァプールファンに歓喜が届けられた。クロップ監督が就任してから、リヴァプールが変わったのは間違いない。

例えばジャンピエロ・ガスペリーニ監督はアタランタを一つ上のレベルに引き上げた。魅力的な攻撃フットボールでセンセーションを巻き起こし、イタリアと欧州でアタランタの地位は高まった。クロップ監督が2007年にボルシア・ドルトムントの監督に就任した際は、それに近かった。バイエルン・ミュンヘンの一強化が進んでいた頃に、ブンデスリーガで2回(2011年/2012年)優勝している。

そして現在、世界最高の指揮官は誰かと問われれば、クロップ監督とジョゼップ・グアルディオラ監督の名前が挙がるだろう。ドイツ時代からクロップvsグアルディオラは話題を呼んだ。その構図はイングランドで繰り返されることになった。

かつて、スペインではジョゼ・モウリーニョ監督(レアル・マドリー)対グアルディオラ監督(バルセロナ)という構図だった。ウルトラディフェンシブ対ポゼッション、ゲーゲンプレッシング対ポジショナルプレー、少しずつ戦術は進化している。だが、68試合ホーム戦で無敗を誇った指揮官や8回のリーグ制覇を誇る監督でさえ、批判は避けられない。それがフットボールの世界だ。

成功は保証されない。クロップ監督やグアルディオラ監督を見ていると、それが分かる。リヴァプールの場合、クロップ監督の語るアイデンティティーへの回帰が、重要になる。先のライプツィヒ戦では、そのヒントが示されたようにみえた。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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