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急成長するスペイン女子サッカー。現地で感じた「熱」と課題。

森田泰史スポーツライター
いまや女子サッカー界でも強豪クラブとなったバルセロナ(写真:なかしまだいすけ/アフロ)

ホセ・マリア・ガルシアの発言が、スペインで物議を醸している。ラジオ局『カデナ・コペ』で、彼は次のように述べた。

「女子サッカーは虚像だ。彼女たちはコーナーキックさえ、まともに蹴れないだろう」

インパクトは大きかった。おそらく、彼が思っていた以上に、だ。ある者は彼をマチスタ(男尊女卑主義者)だと批判した。また、ある者は彼が長らくスペインの女子サッカーの試合を観戦していないのだろうと推察した。

■強化に成功

スペインの女子サッカーのレベルは、年々、上がっている。

この数年、スペインは女子サッカーを強化してきた。2007年から2018年にかけて、サッカー協会が登録するスペインの女子選手の数は40%増加している。

加えて、選手の育成に着手した。この11年間で、スペインは2度のU-19欧州選手権優勝、4度のU-17欧州選手権優勝を達成している。2018年には、その2つの大会でスペインが女王となった。それはフットボール史上初の快挙だった。

2019年夏のフランス・ワールドカップに向けて、確実に力を入れていた。

そして迎えた大舞台で、ロハ・フェメニーナス(スペイン代表女子)は躍動した。ドイツ、中国、南アフリカがいるグループステージを突破。決勝トーナメント1回戦では優勝国アメリカに敗れたが、アメリカに苦戦を強いたその戦いぶりは人々に勇気を与えた。スペイン女子サッカーの成功を印象付けるに十分な大会となった。

■ストライキ決行へ

2015年時点、スペインでプレーする女子サッカープロ選手は7人のみだった。以前は仕事を掛け持ちしながらサッカーするのが当然だったのだ。現在、スペインサッカー協会は各クラブに14名のプロ選手を確保できるように動いている。

3年前、2016年に電力公益企業であるイベルドローラがスポンサーに就いた。この企業は多様なスポーツに投資している。スペイン女子リーグは「リーガ・イベルドローラ」と名称が変更され、スポンサー決定による安定した収入が約束された。そこから、状況は大きく変わった。

2019年3月17日には、アトレティコ・マドリー対バルセロナの試合で、大きな記録が達成される。アトレティコの男子チームの本拠地ワンダ・メトロポリターノで行われた一戦に、6万739人の観客が集まったのだ。

2018-19シーズンには、バルセロナがチャンピオンズリーグ決勝に勝ち進んだ。ファイナルでリヨンに敗れたものの、スペイン女子チームの決勝進出は史上初のことだった。

一方で、スペインの女子サッカーは転換期を迎えている。今季、待遇の改善を求める選手側とクラブ側の対立が表面化した。11月16日・17日のリーガ・イベルドーラ第9節で、ストライキが決行されるとみられている。

選手の入場シーン(筆者撮影)
選手の入場シーン(筆者撮影)

■人気ぶり

実際、スペインの女子サッカー人気はいかほどなものか。現地時間10月13日に行われたエスパニョール対ベティスの一戦を取材したが、エスパニョール女子の本拠地であるダニ・ハルケ練習場は満員に近かった。一角には熱狂的なエスパニョールサポーターが陣取り、大声援を送っていた。

そのエスパニョールには、野口彩佳が所属している。彼女のプレーにも触れておきたい。背番号3を着けて先発した野口は、4-4-2のトップ下に入った。1点ビハインドで迎えた後半には、3-5-2への布陣変更後に左ウィングバックに配置された。

「スペイン」といえば、ボールを保持する攻撃フットボールを想像するが、常にそれが許されるのはビッグクラブをはじめとする有能な選手を揃えられたチームのみ。今季のエスパニョールのように、残留争いをしているチームでは、空いたスペースに素早くボールを送らなければならず、縦に速いプレーが求められる。だがその点、野口はうまく適応していた。日本の選手が陥りがちな「ボールを大事にし過ぎる」という癖はなく、良い意味で無駄なパスが出せる。そして、左右の足を自在に操れるというのが、大きな武器になっている。

プレー以外の面に目を向けても、野口に適応力は十分あると言えるだろう。試合中、野口は積極的にチームメートに話し掛け、時に身振り手振りを交えてコミュニケーションを取っていた。チャンスでボールが渡るたびに観客席からは「アヤカ!」という声が飛ぶ。移籍から3カ月余り、すでにファンに愛される選手となっている。

満員に近い観客席(筆者撮影)
満員に近い観客席(筆者撮影)

■熱の維持

スペインで、女子サッカー熱は高まっている。フランスW杯で優勝国に敗れたことで、逆説的に「打倒アメリカ」という明確な目標が定まった。その熱が、世界一への原動力となるかもしれない。

そもそも、男子チームが強いわけだから、そのメソッドを女子チームに落とし込めばいい。そこに「熱」というプラスアルファが加わり、世界一奪還に向けた準備が積み上げられている。

ただ、先のエスパニョール対ベティスの試合で、チケットは不要だった。セキュリティチェックを受ければ誰でも無料で入れたのだが、10ユーロから15ユーロでチケットが買えるテルセラ・ディビジョンやセグンダBと比較して、遜色ない内容だった。裏を返せば、マネタイズに課題を残していると言える。

ストライキに踏み切ろうとしている選手たちの不満につながる原因も、そこにある。この辺りの改善が、今後のテーマになるはずだ。生まれた「熱」を維持していけるかどうか、2019-20シーズンは真価を問われる一年になりそうだ。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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