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グアルディオラの思考実験。変わらぬ中盤の重要性と、ロドリ加入で起こる化学変化。

森田泰史スポーツライター
フェルナンジーニョとアグエロに指示するグアルディオラ監督(写真:ロイター/アフロ)

名将の思考実験は、終わりを迎えそうにない。

2019-20シーズンに向けて、プレミアリーグの優勝候補筆頭に挙げられるのは、マンチェスター・シティだろう。ジョゼップ・グアルディオラ監督が就任してから4年目を迎え、その組織は完成の域に近づいている。

■豊富な資金

マンチェスター・シティとパリ・サンジェルマン。この2クラブは、アラブ人オーナーの存在で、オイルマネーを元手に金に糸目をつけず補強を敢行できる「金満」クラブだと欧州でみられている。

だが忘れてはならないのは、チェルシーやマンチェスター・ユナイテッドといったクラブが、同様に巨額を投資して覇権を奪うためのプロジェクトを進めていた事実だ。グアルディオラ監督にとって、補強は覇権を握るための「手段」として用いられた。さらに言えば、それは彼の頭の中にあるフットボールを体現するための手段であった。そして、イルカイ・ギュンドアン、ベルナルド・シウバ、ラヒーム・スターリングらが到着した。ただ、前述したチェルシーやユナイテッドのように、覇権を握れなければ大型補強は「結果」になってしまう。それも、失敗という結果だ。

逆説的に、タイトル(とりわけリーグ戦優勝のタイトルである)を獲得できなければ、補強というのは手段ではなく結果に位置づけされる。補強を手段に昇華させたければ、結果を出すしかない。

2018-19シーズン、シティはプレミアリーグ、リーグカップ、FAカップ、コミュニティシールドと4冠を達成している。グアルディオラ監督は補強を結果ではなく手段に変えてみせた。加えて、シティに関しては、グアルディオラ監督の下でポゼッションを極め、フットボール愛好家の悪感情をうまく中和しているように思う。

■完璧主義

グアルディオラ監督は自身のメソッドを妄信している。それは故ヨハン・クライフの遺産だ。

繊細で、几帳面で、スペイン人でありながら、ドイツ人のように規律を重視する。それがグアルディオラ監督である。就任2年目でプレミアリーグにおける獲得勝ち点数で新記録を樹立。就任3年目のシーズンでは、リヴァプール(勝ち点97獲得)に競り勝って優勝を決めた。

グアルディオラ監督は理想主義者であり、完璧主義者であり、夢想家であり、ロマンチストであり、アーティストだ。夢想家というのは、滾(たぎ)る情熱を抱えている。だが彼の本質というのは、勝利した試合後に、選手にジェスチャーを交えながら厳しく指導しているシーンに現れている。また、その異常なまでのボールを握るフットボールへの拘りで、キャリアにおいて敵をつくってきた。

バルセロナで指揮を執っていた頃、ジョゼ・モウリーニョ(当時レアル・マドリー監督)と幾度となく舌戦を繰り広げた。彼の周囲にいるのは「ペップ信者」あるいは「アンチ・ペップ」のいずれかである。中間はない。グアルディオラ監督の成功には、マドリディスタ、スペイン愛国主義者、結果主義者と常に3つの敵がいるといわれている。

グアルディオラ監督はバルセロナ、バイエルン・ミュンヘン、シティで10回のリーグ戦に挑んで8回優勝している。それでも彼が批判されるのは、チャンピオンズリーグのタイトルが不足しているからだろう。バイエルンとシティでは、ビッグイヤーを掲げられていない。バルセロナでのチャンピオンズリーグ制覇に関しては、あれはリオネル・メッシのお陰だったと囁かれる始末だ。

■発展性

ただ、彼の考えは明確だ。ポゼッションで試合を支配して、勝利へと向かう。そのために、重要なのが、中盤の役割だ。

2008-09シーズンから指揮を執ったバルセロナで、アンカーのポジションはヤヤ・トゥーレからセルヒオ・ブスケッツに移行された。2013-14シーズン、バイエルンではフィリップ・ラームのアンカー起用という驚きの采配を経て、シャビ・アロンソの加入で、ペップの充足感は満たされた。

シティにおいては、フェルナンジーニョに舵を握る役割が与えられた。だが今後を見据えた場合、34歳を迎えたフェルナンジーニョの代役を見つけなければいけない。グアルディオラ監督の思考は続いていた。

そして、この夏、契約解除金7000万ユーロ(約84億円)を支払い、「ロドリ」の愛称で親しまれるロドリゴ・エルナンデス獲得を決めた。

頻繁にブスケッツと比較されるロドリだが、確かに彼らのプレースタイルは似ている。

2018-19シーズン、ロドリはリーガで34試合に出場して3得点を挙げた。パス成功本数1756本(1試合平均51本)、ボール奪取数280回(1試合平均8.24回)を記録した。

一方、ブスケッツはリーガで35試合に出場。パス成功本数2146本(1試合平均61本)、ボール奪取数194回(1試合平均5.54回)を記録している。

彼らは頭の回転が速く、予測能力が高い。時間と空間を操り、チームに均衡をもたらす。対戦相手より先に優位なポジションを取り、ボールを素早く動して、攻守において有効なスペースを陣取る。その連続性で、チームのプレー全体にダイナミズムを生み出すのである。

ロドリの獲得で、ペップ・シティがまたギアを一段解上げるのは間違いない。ただ、指揮官が目指すのはタイトルの獲得と美しいフットボールの競演であり、共存だ。グアルディオラ監督が示すような美しいフットボールは才に拠るものだと思われがちである。だが、その裏には徹底した分析があり、勤労、規律、確信、創造性と複雑な要素が絡み合う。

優秀な指揮官であれば戴冠は可能だろう。しかし困難なのは、ひとつの国のフットボール文化を発展させながらのタイトル獲得だ。グアルディオラ監督はそれを成し遂げて、さらなる追求を続けている。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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