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なでしこジャパンがアメリカ遠征で3連敗。強豪相手に浮き彫りになった戦術面の問題点。

森田泰史スポーツライター
ブラジルに完敗した日本(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

来年のフランス・ワールドカップ、再来年の東京五輪に向けて、強化を進めていかなければならない。

なでしこジャパンがアメリカの地を訪れ、トーナメント・オブ・ネーションズに臨んだ。先のアジアカップで優勝を果たした日本にとって、現在地を確かめるには十分な大会だ。

■サイドを揺さぶられると弱さを露呈

だが「アジア女王」の自信は打ち砕かれる。初戦のアメリカ戦では、序盤は日本が優勢だった。選手間の距離感が良く、アメリカのワンボランチに配置されたジュリー・アーツを「奪い所」とした。岩渕真奈、田中美南が献身的にプレスバックをして中盤の選手たちを助け、プレッシングは機能していた。

現在のアメリカのボールを繋ぐ力は弱い。日本としては、ボールを持たせて、鋭いカウンターを仕掛けたいところだった。しかし、岩渕と田中は幾度となくオフサイドに引っ掛かり、裏に出たボールに対してもアメリカの守備陣にスピード負けする。そのうちに、アメリカがロングボールを入れてくるようになる。とりわけ、横への揺さぶりが効いた。一発のサイドチェンジで揺さぶられると、逆サイドで即座に1対1ができる。

きちんと「寄せる」か、「タテを切る」かしないと、簡単にサイドを破られて質の高いクロスボールが送られてくる。アメリカ戦で起きていたのは、まさにそれだった。モーガンのようにフィジカルの強いFWに対して、ゴール前で悉く跳ね返せるような強靭なCBは日本にはいない。ましてや、今回は熊谷紗希が不在だったのだ。

■守備の連動性

ブラジル戦では、自滅した感が強かった。前半こそ主導権を握って攻撃を仕掛けたものの、決定機をモノにできず、ペースが乱れた。鮫島彩のボールロストをきっかけに失点。ただ、鮫島の個人的なミスを責める前に、チームとしてのボールの運び方、または鮫島のCB起用そのものに疑問を投げかけたくなった。

オーストラリア戦においては、良い流れのなか、後半開始早々にFKで先制点を献上した。カーに対するマークが甘くなったところで、仕留められた。ロングボール一本に対して、三宅史織、鮫島、GK平尾知佳の3選手が置き去りにされた。

全体を通じて気になったのは、なでしこの連動した守備への拘りだ。チームの態勢が整っていない、あるいは守備のブロックができていないのであれば、まずはタテを切って相手の攻撃をペースダウンさせるべきである。しかしながら、なでしこは度々プレス網を突破された。

プレスが掛かっていないのに守備陣が無暗にディフェンスラインを上げる場面にも注意を喚起された。「連動した守備」が前提にあるのは理解できる。だが、試合は生き物だ。組織としての考え方をベースにしながら、個々の判断力を磨く必要がある。

相手の攻撃のスピードを殺すには、どうすればいいか。相手選手に喰い付くのではなく、適切なポジショニングを取って待つ。中途半端に3人、4人でボールを奪いに行く。プレスが掛かっているようで、掛かっていない。アメリカの中盤に入ったアーツ、ホラン、ブライアンはパワーがあった。ここを簡単に剥がされると、CBが釣り出され、後手を踏んでしまうのだ。

■駆け引き、工夫、パススピード

攻撃面は、どうか。ゴール前では、消極性を捨てなければいけない。「エゴを出す」と言ってもいい。自ら仕掛けて、シュートを打つ。それがないと、怖さがない。

高倉ジャパンの攻撃は個に依存する傾向が強い。組織で、数人が絡んでコンビネーションで崩す場面が少ない。それは攻撃のパターンがないという裏返しだ。前体制では、ペナルティーエリア内の深い位置まで入り込み、そこからマイナスのパスを送ることが徹底されていた。何かひとつでも決まり事があれば、そこから発展させられるのだが、それがないように映る。

そして、駆け引きをしながら攻撃を組み立てるべきだ。2対1の状況をつくり、パスなのかドリブルなのかという選択肢をちらつかせながら、プレーする。体格差で優る相手に対しては、そういう積み重ねがボディーブローのように効く。

つまるところ、細かい部分での工夫が必要だ。例えば、パススピードを上げる。その努力が、各自のプレーエリアを広げることにつながるからだ。

サイドアタックも効果的になされているとは言い難い。相手ディフェンスラインとGKの間に、精度の高いクロスを入れて、ピンポイントで合わせる。この辺りを狙いとして組み込まないと、世界の強豪を相手にした時に、厳しい。

アメリカ遠征では熊谷、阪口夢穂、宇津木瑠美らが不在だった。熊谷は今大会が国際Aマッチ扱いではないために、阪口と宇津木は負傷により招集されなかった。

「代表の試合で負けていい試合なんて1試合もなく、試しているから結果がこうなりました、ということなどありません」とは、ブラジルに敗れた後の川澄奈穂美の言葉である。川澄の言うとおり、代表戦に言い訳など許されない。

個の能力を引き伸ばすと同時に、組織としてチームを作っていない限り、「世界に勝つ」という至上命題は達せられないはずだ。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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