「ユウキ、あのステップを教えてよ」永里優季がシカゴで築くサマンサ・カーとの信頼関係。
アメリカでの2年目は、実のあるシーズンになっているようだ。
永里優季がシカゴ・レッドスターズに移籍して、およそ1年が経過した。昨季は途中加入だった永里だが、今季に入って定位置を確保。多くの役割をこなしながら、女子サッカーのトップリーグであるNWSL (ナショナル・ウーマンズ・サッカーリーグ)で試行錯誤を続けている。
「プレシーズンの時にはマンチェスター・シティのビデオをよく見せられていました」と永里が振り返るように、シカゴを率いるロリー・デイムス監督はポゼッションを嗜好する。だが、このチームにはある矛盾が生じている。それはサマンサ・カー(オーストラリア代表)という絶対的なストライカーがいることである。
カーは典型的なCFタイプで、万能型ではあるものの、スペースがある中で活きる選手だ。ポゼッションスタイルでは、時に彼女の良さを殺しかねない。ボールを保持しながら前進していく戦い方においては、攻撃が遅くなる傾向があるからだ。
カーを中心にチームを作るのであれば、カウンターを採り入れた方がいい。彼女のゴール前での強さは世界トップクラスだ。しかし、指揮官の好みはチームに反映するもの。シカゴは二律背反のなかに身を置いていた。
その打開策となったのが、永里だった。もっと言えば、永里とカーの関係性だったのである。
プレシーズン時からスタッフ内で高い評価を得ていたという2人の関係性は、第11節オーランド戦で実を結ぶ。この試合でカーは2得点を挙げた。いずれも永里のアシストによるもので、デイムス監督が手応えを得るには十分だった。
■カーに対する5アシスト
そこからカーは調子を上げ、18試合を消化した時点で9得点をマーク。そのうち5得点は、永里のアシストから生まれている。
「サム(カーの愛称)は相手のディフェンスライン上で『待つ』ことができる選手です。彼女は、私がボールを受ける前に、私の方をチラっと見るんです。その瞬間に、走り始める。だから私はサムが走ったスペースにボールを出す。それしか選択肢がないです。彼女はそれだけ私を信頼してくれているみたいです」
「サムのプレーはシンプルなんです。ただ、彼女とロッカールームで話すかと言ったら、それほど話すわけではないんですけどね」
ただ、アジアカップ後、カーからすぐに連絡があったという。永里が復帰明けの試合でポスト直撃のシュートを放った後のことだった。「ユウキ、あのステップを教えてよ」と記されたメールが届いた。
マニアックな会話である。だが、カーは早い段階で永里から何か共鳴する部分を感じ取っていたのかもしれない。今季の2人の関係が、それを証明している。
■姿勢で掴んだ信頼
夏の期間のトレードで、ソフィア・フエルタ、サマンサ・ジョンソン、テイラー・コモウがチームを去った。また、アメリカ代表のクリスティアン・プレスも移籍した。個人の能力が高い選手がいなくなったのは痛手だったが、それにより逆にチームが結束するというメリットもあった。
加えて、ポジションの変更がチームに恩恵をもたらす。昨季は主にボランチに起用されていたジュリー・アーツがCBに入った。「ジュリーがセンターバックにいるのは大きいです」と永里が語るように、選手たちもその変化を実感している。アーツとGKアリッシャ・ネアーのアメリカ代表コンビがシカゴを後方から支えている。
トレードの前には、苦しい時期もあった。第10節シアトル戦で、突如ベンチ行きを命じられた。だが永里は腐らずにトレーニングを続けた。その姿を、監督、コーチ陣、チームメート、みんなが見ていた。
「姿勢が大事だと思うんです。姿勢を示し続けることで得られる信頼というのは本当に大きくて」
「シアトル戦でスタメンから外されたんです。でも、そういう時の振る舞いを、監督やチームメートは見ているんですよね。次の試合の前に、あるミーティングで監督が『ユウキはいつも同じ姿勢で取り組んでいる。だから、みんなはそれを見習わないといけない』と言ってくれたんです」
■アメリカでの評価は急上昇
永里はここまで16試合に出場して、出場時間1146分を記録している。4得点5アシストという成績だ。
第12節ワシントン戦では直接FKからカーのゴールを引き出し、チームの追加点となるゴールを記録。右サイドからペナルティーエリア内に向け送られたクロスボールを胸トラップで落とすと、一旦味方に預ける。そこからリターンパスを受け、左足でシュートを沈めて今季初得点を記録した。この翌週、6月4日~6月10日の週間MVPに選ばれた。
第13節ポートランド戦で、2試合連続得点をマーク。第15節ワシントン戦では豪快なダイビングヘッドを決めた。その後、6月の月間ベストイレブンに選出されている。
そして、先日発表された2017-18シーズンのNWSL年間最優秀選手候補10名に、永里の名前はあった。
「好きで始めたわけじゃない」というサッカーを、永里はいま、心から受け入れている。「最近は本当に無邪気な心でプレーできている。こういうのは初めてかもしれないです」と語る永里の進化は止まりそうにない。
12歳の頃から夢見ていたというNWSLで、永里は眩いばかりの輝きを放っている。