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フランス新時代の序章。ムバッペという新たなヒーローの誕生と、確固たる組織力。

森田泰史スポーツライター
キリアン・ムバッペ(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

自慢のスピードで、アルゼンチンの守備陣を切り裂いた。

決勝トーナメント1回戦でアルゼンチンとの打ち合いを4-3で制したフランスは、準々決勝に駒を進めた。2大会連続のベスト8進出。その立役者となったのは、19歳のサイドアタッカーだった。

大会前は、アントワーヌ・グリーズマンがフランスのエースになると思っていた。だが始まってみれば、キリアン・ムバッペが4試合で3得点と攻撃を牽引している。

■アンリ超え

ムバッペは若い頃から将来を期待された選手だった。モナコでは、2015年12月2日に16歳347日の若さでトップデビューを飾り、ティエリ・アンリが保持していたクラブ記録(17歳14日)を21年ぶりに更新した。

彼の名が世界に轟いたのは、2016-17シーズンのチャンピオンズリーグだろう。初めてこの大会に臨んだムバッペは、決勝トーナメント1回戦第1戦マンチェスター・シティ戦で得点を挙げ、フランス人として史上2番目の若さでCLにおける得点を記録した選手になった。

それだけではない。モナコはそのシーズンのCLでシティ、ボルシア・ドルトムントと強豪を次々と破り、およそ13年ぶりのベスト4進出を果たした。その中心に、ムバッペがいたのだ。

ほどなく、ムバッペにはビッグクラブから熱視線が注がれる。そして、パリ・サンジェルマンが本格的に獲得に動いた。昨年夏、形式上は1年レンタル、レンタル期間終了後に移籍金1億8000万ユーロ(約234億円)を支払うという契約内容で移籍が成立した。

■新時代の象徴に

一方で、今大会のフランスを見ていて、思うところがある。それは「このチームにベンゼマがいたら...」ということだ。

カリム・ベンゼマ(レアル・マドリー)は、マテュー・ヴァルブエナ(フェネルバフチェ)の性行為を映したビデオをもとに、ヴァルブエナを恐喝した疑いをかけられた。事態を重く見たフランスサッカー連盟は2015年12月にベンゼマの無期限活動停止処分を決めた。

長くフランスのエースナンバーを背負ったベンゼマだが、彼が代表から遠ざかり、ディディエ・デシャン監督は変化を起こさざるを得なかった。ベンゼマはワールドクラスの決定力を誇るストライカーではない。しかし、テクニックやスペースメイキングに長け、知性溢れるプレーで味方を生かすことができる選手である。

ベンゼマがいたなら、デシャン監督は彼を軸にチーム作りを進めていたように思う。トップとトップ下の境、いわば1.5列目のようなポジションで動くのを好むベンゼマがいた場合、オリヴィエ・ジルー、アントワーヌ・グリーズマン、ムバッペが共存する可能性はなかったかもしれない。

つまり、ムバッペはベンゼマ不在の恩恵を受けたのである。

今大会のフランスは組織力が非常に高い。4-2-3-1でブロックを作り、高い位置でのボール奪取からショートカウンターを炸裂させる。ムバッペ優先の戦術というよりは、デシャン監督の戦術にムバッペがうまく嵌っている印象だ。

そして、ムバッペは10番を背負い、初めてのW杯に挑んだ。ムバッペがプロデビューを飾ったのは、ベンゼマが代表から実質上半永久的に追放された数日後である。そこには、なにか数奇な運命を感じさせるものがある。

だが彼はベンゼマではない。世界の頂点に立った時、新時代の象徴としてムバッペの名前がフランスの歴史に刻まれるはずだ。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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