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ハリルJAPANの欧州遠征に意味はあったのか。発掘すべきポジティブな要素とは。

森田泰史スポーツライター
攻撃でアクセントとなった中島(写真:ロイター/アフロ)

日本代表は欧州遠征を未勝利で終えた。マリ戦(1-1)、ウクライナ戦(1-2)の結果は納得できるものではなかった。

仮想セネガル。仮想ポーランド。その2カ国を相手に、日本は勝利を挙げられなかった。この事実は、確かに、重い。

■「個」で奪えなければ...

マリ戦とウクライナ戦を通じて目を引いたのは、「個」でボールを奪えないことだった。局面局面で後手を踏み、終いには2人~3人がかりで蓋をしに行くが、それでも剥がされ、ピンチを迎えるシーンが幾度となくあった。

マリの選手たちは概してリーチが長く、日本の選手たちにとっては、非常に組み難い相手だったはずだ。だがしかし、90分を通じて解決策が見られなかったのは、観る者に不安を与えた。

ウクライナ戦では、「ボールの奪い所」が定まらなかった。4-2-3-1、守備時4-4-2のシステムで臨んだ日本だが、ウクライナのワンボランチに入ったラキツキーのところが浮いてしまう。そこから、いいように両サイドに振られ、ウクライナの攻撃はリズムを得ていた。

■セットプレーに光明

ロシア・ワールドカップ(W杯)開幕まで、3カ月を切った。昨年11月に行われた欧州遠征のブラジル戦(1-3)、ベルギー戦(0-1)を含めると、アウェーの試合で4戦未勝利が続いている。この状況で悲観論が充満するのは、火を見るよりも明らかだ。

ただ、あえて、収穫に目を向けるならーー。柴崎岳、中島翔哉らの台頭を挙げたい。海外や世代別代表での経験がある選手に「台頭」という言葉はふさわしくないかもしれないが、それでも、ロシアW杯前に彼らは本大会メンバーに食い込む可能性を十分に感じさせた。

柴崎はヘタフェでの日々が生きた。今季4-4-2の2トップの一角で起用されることが多い柴崎だが、ウクライナ戦で託されたタスクは、まさにそれだった。ただ、ヘタフェではプレスバックより前線からのプレッシングと運動量が重宝されていると言え、その点が前述したようにウクライナのワンボランチ(ラキツキー)を浮かせてしまう遠因となった。

だが、もとよりピッチ上でインテリジェンスを発揮する選手であるから、本番までにヴァイッド・ハリルホジッチ監督のその辺りの戦術を理解するのに問題はないはずだ。そして、柴崎効果は攻撃面でもしっかりと現れた。

ウクライナ戦の41分、劣勢のなかで槙野智章のゴールが生まれた。セットプレーから槙野の得点をアシストしたのは、柴崎だった。柴崎のプレースキックは昨季スペイン2部のテネリフェで、1部昇格プレーオフ決勝まで進む原動力となった。今季、ヘタフェではシーズン序盤戦こそキッカーを任されなかったものの、負傷明けの昨年12月以降は徐々にセットプレーで「蹴る側」になりつつある。

ベルギーの地で結果に絡み、柴崎の重要性はハリルホジッチ監督の頭にインプットされたに違いない。

■ジョーカーとしての中島

中島は「やってやる」という気概に満ちていた。今回の遠征で、一番、得点を予感させてくれる選手が彼だった。

ポルティモネンセでのリーグ戦9得点7アシストという実績を引っ提げ、日本代表に初招集された。デビュー戦となったマリ戦の交代直後こそ、ぎこちなさが覗いたが、何より欲しかったゴールという結果を手に入れた。

小柄な身体を逆利用したドリブルとターンに、マリやウクライナの選手はついていけなかった。ジョーカーとして、攻撃を活性化させる。その画が明確に描けたのは、ハリルホジッチ監督だけではないだろう。

チームが苦しい時間帯に、前へ行ってくれる。もっとフィットすれば、という期待を含蓄してはいるが、この2試合で最もアピールに成功したのは中島だったと言っていい。

消化不良の感が否めなかった欧州遠征だが、これを無駄にしてはいけない。もう、残り時間は多くない。マイナス面を挙げ連ねるだけではなく、冷静に現状を分析して解決に向け動くべきである。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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