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アトレティコで貫かれる「シメオネ主義」。ポゼッション率26%で1-0の勝利を得る意義。

森田泰史スポーツライター
選手に指示を送るシメオネ(写真:ムツ・カワモリ/アフロ)

ポゼッション率は勝利を確約するものではない。それを証明しているチームが、リーガエスパニョーラにいる。

ディエゴ・シメオネ監督率いるアトレティコ・マドリーと聞いて、「鉄壁」を想像する人は少なくないだろう。ただ、その戦い方を紐解けば、指揮官の執着心が驚くほどにチームに浸透しているのが分かる。

■ポゼッション率26%で1-0

昨年12月10日に行われたリーガ第15節ベティス戦は、シメオネ・アトレティコを象徴するような試合だった。

今季、ポゼッションを嗜好するキケ・セティエン監督を迎えたベティスは、このゲームにおいてアトレティコを圧倒した。ボール保持率(73,6%/26,4%)、パス本数(706本/255本)、シュート数(9本/4本)全ての面でベティスが上回った。

だが勝利を収めたのは、アトレティコだった。30分にサウール・ニゲスが先制点を挙げ、虎の子の1点を守り切って勝ち点3を獲得。枠内シュート数2本、そのうち1本を得点に結びつけ、ベティスの攻撃を無効化したのである。

■「あのシーズン」に並ぶ

アトレティコは今季、リーガの試合で、1-0で6回勝利している。前半戦を終えた時点で、これは「あのシーズン」に並ぶ数字だ。

リーガ制覇を達成した2013-14シーズン、アトレティコは1-0での勝利を6度手にした。最終節でバルセロナ相手に引き分け、18年ぶりの優勝を果たしたシーズンである。

2011年12月23日以降アトレティコで指揮を執るシメオネ監督にとって、1-0は最多のスコアだ。352試合で指揮して、そのうち61回、1-0で勝利している。また、シメオネ監督は勝ち点を獲得した(勝利あるいは引き分け)283試合のうち、約60%を無失点としている。

■ポゼッションに価値を見出さない

「私はポゼッションにまったく興味を持たない」

「監督なら誰しもボール保持を好むだろう。しかし、私はそれほどでもない。ポゼッションが対戦相手を嫌がらせる類のものなら話は別だが...」

「場合によっては、相手を快適にさせてしまう。アクション映画と恋愛映画、どちらが好みかという話だ。私はアクション映画が好きなのだよ」

シメオネ監督は以前、こう話していた。その強(したた)かなまでの試合運びには、指揮官の哲学が確かに反映されている。

■ジエゴ・コスタ仕様のチーム

だが、コパ・デル・レイ準々決勝第1戦セビージャ戦、リーガ第20節ジローナ戦では、1-0とリードしておきながら試合を閉められなかった。セビージャには逆転負けを喫し、昇格組ジローナには同点弾を許して勝ち点1を献上した。

シメオネ監督は1月にFIFAの処分が明け、ビトロとジエゴ・コスタの登録が完了すると、この2選手を積極的に起用している。昨夏新陳代謝を行えなかったアトレティコにとって嬉しい悩みではあるが、新戦力を適応させるのは簡単な作業ではない。

特に、ジエゴ・コスタはシメオネ政権で重要な役割を担う。前線で体を張り、ポストワークで起点となり、カウンター時にはスピードを生かして得点製造機の顔を覗かせる。

シメオネ戦術の大綱になるのが、ジエゴ・コスタなのだ。指揮官はスペイン人ストライカーをうまくフィットさせながら、バランスの取れた兵器体系を模索している。その微調整が行われているところで、失点を喫し、勝ち点を落としている。

これは、生みの苦しみだ。このプロセスを経て、アトレティコは必ず強くなる。そこに「シメオネ主義」が息づいているのは、言うまでもない。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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