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W杯は情報戦でもある。組み合わせ抽選結果からスペイン4大スポーツ紙が挙げる優勝候補

森田泰史スポーツライター
8グループに分けられたドローの結果(写真:ロイター/アフロ)

ロシア・ワールドカップ本大会の抽選が終わった。ヨーロッパでその結果がどう伝えられているか、気になる方もいるかもしれない。

正直、今のところ、筆者の住むスペインではW杯への関心はそれほど強まっていない。スポーツ紙で特集が組まれたのは抽選の翌日だけで、翌々日からは週末のリーグ戦(リーガエスパニョーラ)に関する記事が大半を占めた。

それでも、前々回優勝国スペインの狙いは、はっきりとしている。それは「W杯を獲ること」であり、抽選直後には『マルカ』Web版などで早々と決勝への道筋がシミュレートされたほどだ。

■優勝候補はスペイン、アルゼンチン、ブラジル、ドイツ、ポルトガル

スペインのスポーツ新聞4大紙『マルカ』『アス』『ムンド・デポルティボ』『スポルト』の扱いからすれば、ロシアW杯優勝候補はスペイン、アルゼンチン、ブラジル、ドイツ、ポルトガルといったところだろう。

今回のW杯を前に、知っておくべきことがある。それはリオネル・メッシ(バルセロナ/アルゼンチン代表)対クリスティアーノ・ロナウド(レアル・マドリー/ポルトガル代表)という図式が近年のフットボールシーンを象徴してきたという事実である。

30歳のメッシ、32歳のC・ロナウドは円熟期を迎えている。2008年から9年にわたりバロンドール・FIFAバロンドール賞を争ってきた両者にとって、これまでのキャリアで唯一欠けているビッグタイトル、それがW杯制覇だ。今大会で、メッシ・クリスティアーノ論争に決着がつく可能性があるのだ。

その「規格外」の2選手に挑戦しようとするプレーヤーが、いる。それはネイマール(パリ・サンジェルマン/ブラジル代表)である。母国開催となった前回W杯では、準々決勝の負傷で大会を棒に振った。悔しさを糧に、男はその2年後にリオデジャネイロ五輪で母国に初の金メダルをもたらす。ブラジルで正真正銘のエースとなり、メッシ・クリスティアーノに対抗する「新興勢力」としてロシアに参陣する。

前回大会でネイマールを失ったブラジルを準決勝で7-1と打ち破り、決勝でアルゼンチンを下して王者となったのがドイツだ。11年間指揮を執るヨアヒム・レーブ監督の下、勝者のチームにとって最難関とされる「新陳代謝」を、彼らはスムーズに進行してきた。欧州予選では10試合で全勝して43得点を挙げ、欧州予選の得点数新記録を樹立するなど圧倒的な強さを示している。

ページ右が『マルカ』紙のグループH展望。前回優勝国ドイツのグループFと比べて扱いは小さい。
ページ右が『マルカ』紙のグループH展望。前回優勝国ドイツのグループFと比べて扱いは小さい。

■日本が属するグループHは...

スペインでスポーツ紙として最大売上数を誇る『マルカ』は、抽選結果をもっとも詳細に報じた。そのなかで日本が入ったグループH、開催国ロシアが属するグループAは扱いが小さい。つまり、注目度が低いということだ。

グループHの予想はポーランド、コロンビアがグループ突破するというものだ。ただ、最も拮抗しているグループのひとつ、とも記されている。日本については、以下のように記載されている。

「日本は1998年以降W杯に連続出場している。ハリルホジッチ監督率いるアジア最終予選でグループBを難なく切り抜けた。注目は、最高の状態に戻った香川真司である」

『アス』も『マルカ』と同様の線を辿っている。ポーランドとコロンビアにとって、グループ突破は義務である、とまで書き立て、日本については次のように記した。

「ハリルホジッチ監督は日本に実践的なフットボールを植え付けた。だが33歳の長谷部誠、31歳の長友佑都と、中心選手は世代交代の瀬戸際にいる」

『ムンド・デポルティボ』『スポルト』では、日本に関する記載はほとんどなかった。

こちらは『アス』紙面。やはりグループH(写真一番右)の扱いは小さい
こちらは『アス』紙面。やはりグループH(写真一番右)の扱いは小さい

■日本の現在地

現実的に言えば、日本がグループを突破する可能性は低い。少なくとも、スペインをはじめ欧州ではそう見られている。

「日本が一番格下だと思う」。2010年南アフリカW杯を前に、本田圭佑はそう話していた。だが、この大会で本田は輝きを放ち、若きエースに引っ張られた日本はオランダ、デンマーク、カメルーンと強豪がひしめくグループを突破した。

フットボールでは、何が起こるか分からない。それが、このスポーツが世界中の人間を虜にする最大の理由である。

戦いの火蓋は切って落とされた。本番の半年前に、状況を俯瞰するのは決して悪くないはずだ。

W杯は情報戦でもある。欧州で日本がナメられているなら、それはそれで大いに結構だ。彼らが慢心して日本の情報を満足に得ず、こちらがしっかりと情報を管理して戦えば、それだけ勝機は膨らむ。

悲観するでもなく、楽観するでもなく。改めて日本の現在地を知り、勝つための方策を練り、世界に再び驚きを与えたい。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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