連勝街道を突き進む一方で燻る想い。バルセロニスタが秘める、スペクタクルへの矜持。
スペクタクルか、有益性か――。この狭間で葛藤する者は、少なくない。
それがバルセロナというクラブであれば、なおさらだ。故ヨハン・クライフは「美しく勝利せよ」という哲学を基に、指揮官としてバルセロナを初の欧州制覇に導いた。以降、創造主の言葉は時に拠り所、時に呪縛となって、バルセロナに付いて回った。
■CLで苦戦も8連勝
チャンピオンズリーグでは、思わぬ苦戦を強いられた。グループD第2節、敵地でスポルティング・リスボンと対戦したバルセロナは、コアテスのオウンゴールというラッキーな形で、薄氷の勝利(1-0)を得た。
これで公式戦における連勝数は「8」まで伸ばされた。ネイマール(現パリ・サンジェルマン)の移籍騒動を思えば、信じられないほどの成果である。だが調子が上がれば、欲が出てくるのが人間というものだ。
バルセロニスタの期待値は俄かに上がり始めている。スポルティング戦は、確かに醜悪な試合に過ぎなかった。スポルティングにもう少し決定力があれば、あるいはGKマーク=アンドレ・テア・シュテーゲンの好セーブがなければ、勝ち点を落としていたかもしれない。
■叫ばれたポゼッションの危機
バルセロニスタに燻っている想い。それは「スペクタクルを披露しろ」というものに他ならない。
エルネスト・バルベルデ監督は4-4-2を敷いてスポルティング戦に臨んだ。バルセロナでは、選手たちはカンテラ時代から4-3-3でのプレーを叩き込まれている。この4-3-3もクライフがアヤックスから持ち込んだもので、ジョゼップ・グアルディオラ監督はこれを醸成させて2008年からの4年間で数多のタイトルを獲得した。
バルベルデ監督は今季公式戦2試合目となったスペイン・スーパーカップ第2戦レアル・マドリー戦でも、この“禁じ手”を使っている。その試合で指揮官が採用したのは3-5-2だった。中盤を厚くして挑んだ決戦で、バルセロナは儚く散った。0-2という結果以上に、屈辱だったのはポゼッション率でマドリーに劣ったことだった。
マドリーの53%に対して、バルセロナのポゼッション率は47%であった。それまでクラシコにおいては、31試合連続でポゼッション率で宿敵を上回っていたにもかかわらず、である。その中には、2010-11シーズンにペップ・チームが記録した73,4%という驚異的な数字も含まれている。
「ポゼッションの危機」が叫ばれてから、1カ月半後。マドリーに勝ち点7差をつけて首位を独走しているとは、誰も想像できなかった。一方で、観衆の要求は高まる。ボールを保持して主導権を握り、相手を甚振るように翻弄して、決定的に仕留めるフットボールを見せてくれ、というのだ。
■勝利の積み重ねで理事会解散は免れる
ただ、勝利の積み重ねがもたらした恩恵もある。
今夏の補強を終え、ソシオ(会員)は理事会への不満を募らせていた。会長選への出馬経験を持ち、ソシオの一員であるアウグスティ・ベネディト氏は、不信任動議に向けて署名運動を行った。
結果として、クラブ側が主張した9月27日(ベネディト氏側は10月2日までと主張)に集まったのは1万2504票。不信任動議への必要数は1万6570票だった。期限の認識に相違はあるが、いずれにせよ署名を集め始めた8月後半の勢いはない。ベネディト氏自身、署名集めを行っている仲間内で署名提出への反対意見があることを認めている。
結果を残したことで、ジョゼップ・マリア・バルトメウ会長の首はつながった。理事会の解散はない。加えて、クラブ規約により、今後1年ソシオからの署名提出は受け付けられない。周囲の雑音を抑えることに成功したのである。
現在のバルセロナは現実路線を進んでいる。スペクタクル以上に有益性を優先している。だが勝利が続けば、観衆は内容に拘ることになるだろう。それはクライフの遺産であり、バルセロニスモの誇りだからだ。