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「MSD」はバルセロニスタの悲観論を覆せるか。理事会への不信を解消する万能薬は結果のみ。

森田泰史スポーツライター
デビュー戦でアシストしたデンベレをメッシとスアレスが祝福(写真:ロイター/アフロ)

過剰な期待を押し付けるべきではない。だが、ピッチ上で結果を示せなければ、バルセロナの現状を好転させることは難しいだろう。

■バルセロニスタの怒り

「史上最悪の理事会だ」

9日に行われたエスパニョールとのダービーマッチで、物騒な横断幕がバルセロナの本拠地カンプ・ノウに掲げられた。ジョゼップ・マリア・バルトメウ会長をトップに据える理事会に対する、バルセロニスタの怒りは爆発寸前である。

今夏、2億2200万ユーロ(約286億円)という大金と引き換えだったとは言え、あっさりとネイマールをパリ・サンジェルマンに放出。それはバルセロニスタを納得させるものではなかった。ネイマールの代役としてウスマン・デンベレを獲得したが、予てから狙っていたリヴァプールのフィリペ・コウチーニョを引き入れる希望は絶たれ、補強への疑念を拭えぬまま移籍市場は閉幕の日を迎えた。

アンドレス・イニエスタとの契約延長に関しても、何とも歯切れが悪い。先日、バルトメウ会長自ら「基本合意に達した」と明言しておきながら、その数日後に選手本人にその事実を否定され、バルセロニスタに届けられたのは単なる混乱であった。

■不信任案提出を検討するソシオ

ネイマールの退団は、ルイス・フィーゴのレアル・マドリーへの電撃移籍に通ずるところがある。

フィーゴは2000年夏に移籍金6000万ユーロ(約77億円)でマドリーに移籍。1999-2000シーズンを無冠で終えていたバルセロナはさらなる弱体化を余儀なくされ、5季連続でタイトルから見離された。

だがバルセロナにパリSGの講じた手段を批判することなど、決してできまい。ホセ・ラモン・アレシャンコ獲得にアスレティック・ビルバオに1億ペセタ(旧スペイン通貨)を支払い、マラドーナ獲得のためボカ・ジュニオルスに10億ペセタ、リバウド獲得の目的でデポルティボ・ラ・コルーニャに4000万ペセタを支払った経緯がある。これはいずれも当時破格の移籍金だった。

つまるところ、理事会の判断が悪かった。ソシオ(会員)がそう考えれば、彼らは理事会の退任を要求できる。バルセロナでは、ソシオに不信任投票を行う権利が与えられている。現在、過去2度会長選に立候補したことがあるアグスティ・ベネディト氏を中心に、不信任動議を求める署名活動が行われているようだ。

■メッシ、スアレス、デンベレの化学反応

フットボールにおいては、「1+1」が2にならない時がある。ただ、バルセロナの新たな3トップであるリオネル・メッシ、ルイス・スアレス、デンベレの「MSD」は、化学反応を起こして3以上の解を導き出すことが常に求められるだろう。

デンベレはデビューしたエスパニョール戦(5-0)で、確かに新たな可能性を示した。バルセロナが失ったカウンター時の物理的なスピードを、このフランス代表FWがいれば補える。そう感じさせた。

エルネスト・バルベルデ監督の戦術解析度は高く、エスパニョール戦では無暗にデンベレを先発起用するのではなく、ジェラール・デウロフェウを3トップに組むという強かさを見せた。メッシとスアレスを前線に置いた変則的な4-4-2、デウロフェウを純粋な右ウィングとする一方でジョルディ・アルバを「偽ウィング」として配置するシステムには、戦術的多様性が存分に盛り込まれていた。

カオスに塗れた騒々しい夏を終え、批判に晒されながらもバルセロナはリーガエスパニョーラ開幕から3連勝を飾っている。レアル・マドリー、アトレティコ・マドリーがつまずく中で、彼らは無傷のまま単独首位に立った。

“常勝”気流に乗り続けることのみが、燻った火種を打ち消す万能薬になり得るのである。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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