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なぜ寒波が何度もやってくるのか 豪雪によるホワイトアウトとブラックアウトに警戒

森田正光気象解説者/気象予報士/ウェザーマップ会長
2021年1月7日21時予想天気図(解析用専門天気図)出典:気象庁(筆者加工)

 日本付近には今シーズン3回目となる強烈な寒波が襲来しつつあり、今夜から強い冬型の気圧配置となります。

 冬型には、高気圧の押しが強く、日本海側の広い範囲で大雪になる「押しの冬型」、そして低気圧の引きが強く、北日本を中心に荒れた天気になる「引きの冬型」があります。年末にあった年越し寒波は、押しの冬型でした。今回は「押し引き混合型」で、日本海側は西日本や九州も含め猛烈な暴風雪の恐れがあります。

 7日9時現在、バイカル湖の南西にある高気圧の中心は、1068hPa(ヘクトパスカル)を示していますが、昨日は1076hPaまで発達していました。年末に寒波をもたらした高気圧が1094hPa(海面更正気圧)の世界記録だったので、ついそれと見比べてしまいますが、高気圧の勢力自体は、年に一回あるかないかの強さです。

 しかも前回と違うのは、日本海に低気圧がある事です。この低気圧がこれから北日本を通過し急激に発達します。年末から年初に襲った寒波は、ある意味、寒気の強さだけで大雪を降らせましたが、今回の大雪は低気圧と寒気の両方で起こる、つまり「押し引き混合型」になるというわけです。

たび重なる寒波の襲来  

500hPaの高度および平年偏差予想図 (2021年1月7日~1月11日の5日間平均図) 出典:ウェザーマップ(スタッフ加工)
500hPaの高度および平年偏差予想図 (2021年1月7日~1月11日の5日間平均図) 出典:ウェザーマップ(スタッフ加工)

 なぜ、今シーズンはたびたび強い寒気が流れ込むのでしょうか。それには北極から放出される寒気の流れに理由があります。上の図は北極から北半球の上空500hPaの高さを示した図で、青色は高度が低く、寒気が流れ込んでいる地域を示しています。

 これを見ると寒気は、ヨーロッパと日本を含む東アジアの二波に分かれている事がわかります。この波の数が多いと寒気が分散されますが、今回のように少ないと、その分、それぞれに強い寒気が流れ込みます。しかも、今回は東アジアに偏り日本列島にまともにやってきています。

 この理由は様々な要因が考えられますが、そのひとつにラニーニャ現象の影響で偏西風が蛇行している事が言えるでしょう。

湿った雪の「ブラックアウト」と乾いた雪の「ホワイトアウト」

ホワイトアウトの様子
ホワイトアウトの様子写真:ロイター/アフロ

 7日(木)夜から8日(金)にかけては低気圧の前面に暖かい空気が入り込みますから、北日本でも水蒸気を含んだ湿った重い雪になります。そして低気圧が抜けた8日(金)から9日(土)にかけては寒気が流れ込んで強い冬型の気圧配置になり、今度は乾いた雪となる見込みです。

 気象的には「雪」という一つの現象ですが、その成因に差があるために、起こりやすい災害にも違いがあると考えられます。

 具体的に言えば、前半は「局地的ブラックアウト」。そして期間全体を通して「ホワイトアウト」に警戒が必要でしょう。

ブラックアウト(連鎖的大停電)とは何か

「ブラックアウト(blackout)」は和製英語で大規模停電を意味しますが、本来、日本語に訳すと「停電」を意味します。

 日本では、2018年9月6日、北海道胆振(いぶり)東部地方を、最大震度7の地震が襲いました。この地震によって、電気の需要と供給のアンバランスが起きて、発電所が次々と停止しました。結果、地震の揺れが弱かった地方も発電所が停止し、北海道全域が停電になってしまいました。こうした連鎖的に起こる大規模な停電をブラックアウトと言うわけです。

 「東京大停電(金田武司著)」によると、東京でも雪が降って太陽光パネルなどに積雪し、それが溶けずに残ったりすると、予定の発電量が得られずに大停電する可能性があるし、過去もそれに近い事があった(2018年1月23日)との事です。また、2005年12月には新潟県で着雪と強風により最大約65万戸で停電が起こりました。

 今回の冬の嵐は、ある意味、想定内なのでブラックアウトのような大規模な停電が起こるような事は無いと思われますが、低気圧による湿った雪は電線にくっ付いて(電線着雪)、電線を切ったり、電柱を倒したりします。また大雪による倒木などで局地的な停電「ブラックアウト」を引き起こしたりする恐れはあるでしょう。

ホワイトアウトは日常的に起こる

 一方、ホワイトアウトは強烈な吹雪や地吹雪などで視界が白一色になり、何も見えなくなってしまう現象です。

 2013年2月26日、青森県酸ヶ湯で5メートル66センチという積雪の日本記録が出ました。この豪雪をカメラに収めるべく、TBSウェザーセンターのディレクターと3月2日(土)に現地に赴きました。5メートルを超える積雪というのは想像を超えるもので、案内の方がいなければ道がどこにあるかも分からないような感じです。そして私にとって初めての経験はそのあとに起こりました。

 取材を終えた夕方頃、TBS報道局から秋田新幹線が脱線したので、その取材も行ってくれないかとの電話を受けました。そこで、とりあえず青森に出ようという事でディレクターと一緒にタクシーに乗り込みました。夕暮れ時、タクシーの運転手の方は近道をしようという事で、田んぼの真ん中を抜ける道を走っていました。すると時間とともに雪がどんどん強くなり視界が悪くなってきました。そのうち、何かの拍子に車が轍(わだち)の中にはまったようで、タイヤがガーガー空回りするだけで、車が止まってしまったのです。

 あたりは薄暗い中、雪の白さだけが際立って、ほとんど数メートル先も何も見えない、まさに「ホワイトアウト」の状況でした。タクシー無線が繋がっていたし平地なので、よもや遭難という事は無いだろうと思っていましたが、後続の車の手伝いによって轍から抜け出すまでは、生きた心地がしませんでした。

 そしてその同じ日、北海道でも暴風雪となり車が各地で立ち往生となって、合計8人の方が一酸化炭素中毒や、車外で凍死したりしました。湧別町では、お父さんが娘さんをかばって凍死するという痛ましい事故もありました。

 この時の経験で言える事は、危険な時には屋外に出ないという事に尽きると思います。

似た天気図には似た現象が現れる

2013年3月2日の天気図 出典:デジタル台風
2013年3月2日の天気図 出典:デジタル台風

 8年前、大きな災害を引き起こした天気図と、今夜の天気図(タイトル画像参照)を比較すると日本海に急激に発達する低気圧があって、よく似ている事がわかります。急激に発達するというのは、あっという間に状況が変わるという事でもあります。今回は風速も強く、沿岸部では最大瞬間風速が40メートル(時速、約140キロ)の予想です。とくに北日本は、7日(木)午後から8日(金)にかけては危険な状況になります。

出典:ウェザーマップ
出典:ウェザーマップ

 また、西日本を含む広い範囲で大雪が予想されています。この週末は暴風雪に厳重な警戒が必要です。

参考

気象庁 暴風雪と高波及び大雪に関する全般気象情報

「東京大停電 電気が使えなくなる日」 著者 金田 武司  出版 幻冬舎

※追記 タイトル画像と警戒情報を差し替えました。

気象解説者/気象予報士/ウェザーマップ会長

1950年名古屋市生まれ。日本気象協会に入り、東海本部、東京本部勤務を経て41歳で独立、フリーのお天気キャスターとなる。1992年、民間気象会社ウェザーマップを設立。テレビやラジオでの気象解説のほか講演活動、執筆などを行っている。天気と社会現象の関わりについて、見聞きしたこと、思うことを述べていきたい。2017年8月『天気のしくみ ―雲のでき方からオーロラの正体まで― 』(共立出版)という本を出版しました。

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