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過去最悪ペースのクマ被害 新世代クマの増加と木の実の凶作、天候が影響か

森田正光気象解説者/気象予報士/ウェザーマップ会長
(写真:Panther Media/アフロイメージマート)

 今年2020年、クマの出没が相次いでおり、新潟県ではクマ出没特別警報が、そのほか秋田県でもクマ出没警報が発令されるなど、各地で警戒が呼びかけられています。

 日本に生息するクマには、北海道に生息するヒグマと本州や四国に分布しているツキノワグマとがいますが、近年は両方の目撃数や被害が増えています。今年に限っても、10月には新潟県関川村で女性がツキノワグマに襲われ死亡(県内でのクマによる死者は2001年以来)、石川県加賀市では男女3人が襲われケガ、そして先日11月27日には北海道積丹町で、体重300キロにもなるヒグマが罠にかかっているのが発見されました。全国で被害にあった人の数は、4月から10月までですでに132人。過去最悪となった157人に迫るペースとなっています。(出典 環境省)  

年々増えるクマの捕獲数

 ではなぜ、近年クマ被害が増えているのでしょうか。

 一言でいえば、人間と野生であるクマとの境界線があいまいになってきているからです。

左:ツキノワグマの捕獲頭数 右:ヒグマの捕獲頭数 出典 環境省
左:ツキノワグマの捕獲頭数 右:ヒグマの捕獲頭数 出典 環境省

 ここ数年、両方とも捕獲数が増加していることがわかります。また、北海道環境科学研究センターが季節ごとのヒグマの捕獲数を研究した結果、特に晩夏から初秋にかけて急増していることもわかりました。この時期の主要なエサは、草や昆虫の他、農作物が含まれていることが食性分析からすでに判明しています。つまりクマが農作物を簡単に手に入る栄養価の高いエサと認識し、人里におりてくる個体が増えているのです。最近はこうした人を恐れないクマを「新世代クマ」とも呼んでいます。

長雨と台風、高温が影響か?

 そしてもうひとつ、クマの出没には天候によるエサ不足も考えられます。

 クマは12月~4月ごろまで(地域によっては11月中旬ごろから)冬眠するため、秋になると栄養価の高いドングリやブナなどの木の実を食べます。したがって、11月~12月は冬眠前の最後の栄養を蓄える時期であり、翌年春、出産するためにもできるだけ多くのエサを採らないといけません。ところが、今年はブナやドングリが各地で凶作。群馬県や北海道では2年連続の凶作になっています。

 これらの木の実は「受粉期に雨が多いと実が付きにくくなるほか、前年の気候も豊凶に影響 する」と言われていますが、今年は7月が全国的に長雨と日照不足になり、さらに昨年は台風19号が東日本に上陸し広い範囲で甚大な被害をもたらしました。また冬眠に入るには気温の低下も関係しており、上野動物園のツキノワグマでは気温6度(室温)の状態が続くと冬眠することがわかっています。

上:2020年7月の降水量偏差 下:2020年11月の平均気温偏差 特に11月後半は平年を2℃以上上回る地域も多かった 出典 気象庁
上:2020年7月の降水量偏差 下:2020年11月の平均気温偏差 特に11月後半は平年を2℃以上上回る地域も多かった 出典 気象庁

「穴持たず」

 人工飼育の場合でもクマは冬眠するので、私たちは普通にクマが冬眠すると考えています。ところが冬眠するための場所が無い場合、逆に言うと体が大きくなりすぎて、適当な穴倉が無い場合など、何等かの理由で冬眠しそびれるクマもおり、そういったクマの事を、”穴持たず”と言うそうです。先日、捕まったヒグマも“穴持たず”だったのかもしれません。

 こうしたクマは真冬でも人里近くに下りてきて、空腹を満たすために人家を襲うこともあります。かつて北海道で、三毛別羆事件と呼ばれる日本最悪の獣被害がありました。これも穴持たずのクマが原因と言われています。

 今年の11月は全国的に気温が高く(上図参照)、さらに最新の一カ月予報によると、12月上旬ごろまでは東日本、西日本を中心に平年より気温の高い状態が続くとされています。新潟県では、すでに発表されていたクマ特別警報が来年1月15日まで延長されるなか、11月30日にも自宅近くでクマに襲われる被害が発生しました。各地とも今後もうしばらくは、クマの出没に警戒が必要でしょう。

注 クマの冬眠とは、活動が鈍くなる「冬ごもり」のことです

冬眠について「注」を追記しました。

参考資料

林業技術情報誌「秋田の森林づくり to the next stage」No740

北海道環境科学教育センター「ヒグマ捕獲数の増加を読み解く」

環境省HP「クマ類の捕獲頭数について」

上野動物園HP

気象解説者/気象予報士/ウェザーマップ会長

1950年名古屋市生まれ。日本気象協会に入り、東海本部、東京本部勤務を経て41歳で独立、フリーのお天気キャスターとなる。1992年、民間気象会社ウェザーマップを設立。テレビやラジオでの気象解説のほか講演活動、執筆などを行っている。天気と社会現象の関わりについて、見聞きしたこと、思うことを述べていきたい。2017年8月『天気のしくみ ―雲のでき方からオーロラの正体まで― 』(共立出版)という本を出版しました。

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