台風10号、未曽有の急発達。5日(土)に920hPa。なぜこんなに発達するのか?

台風10号の進路図(9月2日15時発表)気象庁提供(中心気圧と強さ筆者加工)

 9月2日18時現在、大型で非常に強い台風9号が九州の西の海上を北上する一方で、台風10号(HAISHENハイシェン・中国語で「海神」の意味)が、週末にかけて奄美地方から西日本へ接近、あるいは上陸する恐れがでてきました。

 この台風は、9月1日21時に小笠原近海で発生しましたが、様々なデータにより発生前から、急激に発達することや、日本に大きな影響が出ることが予想されていました。実際に、発生時の気圧は1000hPaに対し、きょう(2日)15時は990hPa、明日には965hPa(予想)と1日で20hPaほどのペースで発達。5日(土)15時には920hPaと、この時期としては異例な発達をしそうです。気象庁も「特別警報級の勢力になる」と最大級の警戒を呼びかけています。

台風のエネルギー

 今回、台風の発生前から発達が予想された背景の一つには、熱帯海域の海水温の高さにあります。

 よく知られるように、台風のエネルギー源は海から蒸発した水蒸気です。熱帯地方の海に強い日差しが照り付け、海水温が上昇すると、海水は蒸発しはじめ水蒸気となります。その水蒸気は暖まった空気とともに上昇し、上空で冷やされ、再び水に戻り、雲になります。水蒸気は水より大きなエネルギーを持っているため、水蒸気から水に戻るときに余分な熱を吐き出します(凝結熱(ぎょうけつねつ))。この凝結熱がまわりの大気をさらに暖め、連鎖的に海水の蒸発を盛んにさせて、台風は自力でどんどん強力に発達していきます。

 

 こうして発達した台風は、ひとたび日本に近づくと暴風・大雨・高波など甚大な被害をもたらします。そのエネルギー量は莫大で、一説には一個の台風で4500京ジュール(ジュールとは熱量の単位、1ジュールはおよそ0.24カロリー)に達すると言われています。これは世界で使うエネルギーの約一カ月分に相当するといいます。(参考「台風の正体」朝倉書店刊)

 これだけのエネルギーを陸上の水蒸気から得ることは極めて難しいため、台風は陸地で発生することは無く、海水の蒸発が盛んになる海水温26度以上の海域でしか発生しないと考えられます。

今回の台風発生海域

9月1日の日本近海の表面海水温 気象庁提供(×印が台風10号発生地点 筆者加工)
9月1日の日本近海の表面海水温 気象庁提供(×印が台風10号発生地点 筆者加工)

 台風10号が発生した海域は、もともと海水温の高いところですが、その上に今年は8月の猛暑で、現在でも30度以上もあります。気象庁は台風10号が発生する前の、9月1日の午後、「日本の南を中心に海面水温が過去最高を記録」という報道資料を発表しました。海水温についての、こうした発表は極めて異例ですが、それは逆に言うと海水温上昇が今後の台風の発生・発達に大きな影響を与えるからで、気象庁からの間接的な台風警戒への呼びかけだと言えるでしょう。

関東から東海・四国沖、沖縄の東海上の海面水温の記録 気象庁提供
関東から東海・四国沖、沖縄の東海上の海面水温の記録 気象庁提供

水深50メートル付近の海水温が極めて重要

 台風の発生・発達に海水温が重要であることは間違いありませんが、実は台風がさらに発達するためには、海の表面だけでなく、水深50メートルくらいまでの水温も大きな影響を与えています。台風が出来ると中心付近では強い風が吹きますが、その風によって海の表面がかき混ぜられます。そうすると、その下50メートルくらいまでの冷たい海水が表面に湧き上がってくるのです(専門用語で湧昇)。このことによって、台風は強い風を吹かせれば吹かせるほど、台風自身の熱エネルギーは失われていくことになります。

 ところが、海の下の方まで水温が高いと、台風によってかき混ぜられても下の方から暖水が上がってくることになり、台風は衰えません。

左:水深50mの海水温(9月1日) 右:同平年差(8月下旬) 気象庁提供(筆者加工)
左:水深50mの海水温(9月1日) 右:同平年差(8月下旬) 気象庁提供(筆者加工)

 おどろくべきことに、今回の下層水温図(水深50メートル)を見ると、台風発生海域の海水温は28度から30度近く、台風の進路にあたる西日本の南海上でも30度前後の高温域が広がるなど、平年より2~3度高い状態であることがわかります。このことから、表面がかき混ぜられても、下から暖水が補給され、この10号はすぐに衰えないことがわかるでしょう。

海水温の高い状態が続く

9月6日(日)昼の雨と風の予想 ウェザーマップ提供
9月6日(日)昼の雨と風の予想 ウェザーマップ提供

 今後台風は、勢力を強めながら日本の南を北西に進み、奄美地方や西日本に接近する6日15時には、中心気圧930hPa、最大瞬間風速70m/sの予想となっています。昨年の房総半島台風(2019年15号)や、西日本に甚大な被害をもたらした2018年台風21号などに匹敵あるいは上回る被害をもたらす恐れがあり、厳重な警戒が必要です。

 また、気象庁からは、9月下旬まで関東から四国の南海上、沖縄の東海上での海面水温が平年よりかなり高い見込みであると発表されています。台風10号はもちろんのこと、その後に発生する台風からも目が離せません。

参考

台風の正体 P66~67 朝倉書店刊

図解・台風の科学 P93~94 ブルーバックス刊