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コロナで拡大が加速するネット通販市場 同時にコロナが配送ドライバーを生み出しているが…

森田富士夫物流ジャーナリスト
コロナで在宅勤務が増えて宅配需要が拡大、同じコロナの影響で配達員になる人も増加(提供:イメージマート)

 最近は街中や住宅街で営業用の貨物軽自動車をよく見かける。黒いナンバープレートに黄色い文字で数字などが書いてある軽自動車だ。

 黒ナンバーの軽自動車が増加している大きな理由の1つは、ネット通販市場が拡大しているからだ。経済産業省の「電子商取引に関する市場調査」によると、2020年度の消費者向け国内電子商取引(BtoC-EC)の市場規模は19兆2779億円で、そのうち物流(宅配)が伴う物販系分野は12兆2333億円である。前年度から21.7%も伸びている。それ以外にフリマアプリやネットオークションなど個人間のネット取引(CtoC-EC)も2020年度は1兆9586億円(推定)で、前年比12.5%の伸び率だった。CtoC-ECもほとんどが宅配を伴う。

 一方、国土交通省の調べによる「宅配便取扱個数(トラック)」は2020年度が47億8500万個で、前年度比では11.5%の伸び率となっている。ネット通販は金額、宅配便は個数集計という違いはあるが、ネット通販の伸び率に対して宅配便は約2分の1と小さい。このギャップを埋めているのが、ネット通販会社などから宅配業務を請けている運送事業者である。この運送事業者が取り扱っている宅配荷物は国交省の宅配便取扱個数には含まれていない。だが、宅配便事業者も、それ以外の事業者も、ラストマイルの配送業務のほとんどを貨物軽自動車運送事業者に業務委託している。

 軽自動車による有償での貨物運送行為は、1人1台でも国交省に届け出て黒ナンバーを取得すればできる(一般貨物自動車運送の事業許可は5台以上)。この軽自動車で宅配業務をしている個人事業主がコロナの影響で急増している。

 コロナ禍でもトラックドライバーは慢性的に不足している。だが、貨物軽自動車の自営業者はなぜ増加しているのか。コロナ禍で失職したり収入が減少した人たちの中には、開業資金が少なくても独立できる貨物軽自動車運送事業を志望する人たちがいるからだ。その結果、在宅勤務などで拡大するネット通販の宅配需要を、コロナ禍で転職した人たちが支えるという構造になっている。

貨物軽自動車運送事業者の個人事業主が法人化して複数車両保有も、コロナ禍の影響を受け個人事業主への転職も急増

 国交省の調べでは、2020年度末の貨物軽自動車運送事業者数(軽霊柩、バイク便含む)は19万7788で、車両数は31万9854台である。前年度末より事業者数は2万929増で増加率は11.8%、車両数は2万5542台の増加で8.7%増になっている。総務省の人口推計では2022年2月1日現在の日本の人口は1億2534万人なので、単純計算では約390人に1台の割合で営業用貨物軽自動車があることになる。黒ナンバーの軽自動車をよく見かけるのは当然だ。

 この貨物軽自動車運送事業者も単純に増加してきたのではない、国交省の資料によると2012年3月末には15万7769だった事業者数が、2021年3月末は19万7788なので、9年間に4万19の増加である。だが、2012年3月末から2015年3月末までは毎年減少し、3年間で3470も事業者が減った。

 2015年度からは増加に転じ、2019年度末までの5年間の増加数は2万2560だった。それに対して2020年度は1年間で2万929も増加している。明らかにコロナ下で急増したことが分かる。

 ネット通販市場は以前からずっと拡大の一途を続けてきた。しかし、2012年度から2014年度の間は黒ナンバーの自営業者がなぜ減少したのだろうか。配下の車両数が30台以上のある事業者は、「10年ぐらい前まではスポットの仕事も多く運賃単価が比較的良かったので事業者が増えていた。だが、事業者の増加で単価が下がり、10年ぐらい前からの4、5年間には撤退する事業者もいた。同時にその時期には個人事業主から法人化して複数の車両を保有するような動きもあった」という。同社が法人化したのは2016年だった。

 そのようなことから事業者数と車両台数の増減は必ずしも一致しない。2013年度には110台減少しているが、それ以外は事業者数が減少している時も黒ナンバーの軽自動車は毎年、増え続けてきた。2011年度末と2020年度末を比較すると、その間に7万5877台も増えている。しかも、そのうちの2万5542台は2020年度の1年間で増加しているのだ。

 ここからもコロナ禍による物販系ネット通販の荷物増加を、コロナ禍で黒ナンバーの自営業者に転職した人たちが支えていることが分かる。貨物軽自動車のドライバー募集をしているある事業者は「コロナの影響を受けた業種、とくに飲食業などからの転職を希望する応募者が増えた」という。

「宅配クライシス」を機に自営業者も車両数も増加したが、運賃単価の変動で翻弄される貨物軽自動車運送業

 コロナ禍で事業者数、車両数とも急増している貨物軽自動車運送だが、5年ぐらい前にも大きな転換期があった。ヤマト運輸がアマゾンなど大口取引先との取引条件の見直しをして大きな話題になったのが2017年。佐川急便や日本郵便も取引条件を見直した。この背景には運送業界全体のドライバー不足がある。前年の2016年ごろからドライバー不足が深刻化し、長時間労働などの過重労働によって荷物が遅滞なく運ばれている、という実態が明らかになってきた。特に宅配便はネット通販の拡大で現場のドライバーへの負担が限界にまで達していた。ドライバーが荷物を地面に投げつける動画がネット上で拡散したのもこのころだ。

 このような中で2016年度には黒ナンバーの軽自動車の増加が4000台を超え、17年度9000台超、18年度1万3000台超、19年度1万台弱と増加してきた。事業者数も2017年度は4000超、18年度6000超、19年度7000超というペースで増加している。ドライバー不足を背景に、宅配便各社の取引条件見直しの波及効果もあって個人事業主の配送単価が上昇したことにもよる。

 また「宅配クライシス」を機に、一部の大手ネット通販会社では宅配便への依存度を下げて、自社独自の宅配網の構築を進めるような動きを加速した。それにより宅配便事業者以外の運送事業者による宅配取扱個数が増加し、個人事業主へのニーズも高まったのである。

 これらに併行して再配達を少なくする取り組みも活発化した。自宅以外でも荷物が受け取れるようにピックアップポイントが多様化し、宅配BOXや「置き配」の普及も進んだ。その後、コロナによる在宅勤務の増加も再配達率低下を促進した。

 再配達率が下がれば配送効率が良くなる。単価が同じなら自営業者の売り上げは増加する。だが、自営業者の売り上げが増えると、単価の引き下げや、歩合制から1日いくら、あるいは時間単位でいくらなどの定額制に取引条件が変更される。その都度、自営業者にとっては実質的な単価の値下げになっている。

昔は長時間労働で売上を稼いでいた自営業者、改善基準告示などの適用で低単価では売り上げ確保が厳しい状況に

 さらに、貨物軽自動車運送の自営業者にとって大きな課題は労働(拘束)時間と収入の関係である。自営業者は雇用契約ではなく業務受託なので、以前は長時間労働が可能と解釈されていた。そのため黒ナンバーの自営業者に仕事を出す側では、長時間労働を前提にした低単価で業務委託することができた。

 だが、2018年4月に出された国交省の通達「貨物自動車運送事業輸送安全規則の解釈及び運用について」によって状況が一変した。自営業者でも改善基準告示などが適用される、とされたからだ。さらに同年12月に成立した「改正貨物自動車運送事業法」では、荷主の配慮義務が新設され、荷主勧告制度が強化された。元請事業者も荷主と規定されている。

 これら一連の法令などにより、黒ナンバーの自営業者も労働(拘束)時間を順守しなければならなくなった。そのため取引先によっては「配達が完了していない荷物があっても拘束時間の13時間以内に仕事を終了するように言われている」という自営業者もいる。「週5日稼働と決められている」という取引先もある。だがその一方で、「配達率が悪いと取引を切られる」といったこともあるようだ。

 同時に重要なのは売上げだ。「置き配などで配送効率は良くなった。また個数が増えているので、従来は1日100個だったが現在は150から180個も配達している。だが1日いくらの定額制にされたので収入は前と同じ」といった声もある。

 そのため自営業者になったものの、より多くの収入が見込める元請事業者を求めて、業界内を一定の期間で絶えず移動しているような自営業者も少なくない。

 コロナ以前からネット通販市場は毎年拡大を続けてきた。さらにコロナ禍が成長を加速している。そしてコロナの収束後もネット通販市場は伸びていくだろう。だが、宅配を担う自営業者も同じように将来有望というわけではない。

物流ジャーナリスト

茨城県常総市(旧水海道市)生まれ 物流分野を専門に取材・執筆・講演などを行う。会員制情報誌『M Report』を1997年から毎月発行。物流業界向け各種媒体(新聞・雑誌・Web)に連載し、著書も多数。日本物流学会会員。

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