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サイクロン・フレディ、寿命の世界記録を更新か

森さやかNHK WORLD 気象アンカー、気象予報士
フレディの衛星画像に筆者加筆 (元データの出典は左: NASA、右: NOAA)

人間のご長寿記録は122歳、猫は38歳、熱帯低気圧の場合は31日です。

台風、ハリケーン、サイクロン、これら熱帯の空気の渦巻きは、総じて「熱帯低気圧」と呼ばれますが、これらの寿命は平均で7~10日ほどです。

ところが、いま南インド洋に存在しているサイクロン・フレディは、10日(金)で発生から32日目を迎えました。現在の世界記録は、1994年のハリケーン・ジョンの31日間です。

世界気象機関が検証を行い、正式な記録となれば、フレディは世界一寿命の長い熱帯低気圧として認定されることになります。

↑2月6日にオーストラリアの北で発生、南インド洋を東西に横断し、マダガスカルとモザンビークに上陸。Uターンして海上で再発達したのち、再びUターンしてモザンビークに接近中。

長寿の原因

しかし、なぜこんなに長寿なのでしょう。その一因は、小ぶりであることです。

衛星画像を見ると、雲の直径は380キロほどと、その距離は仙台=東京間ほどしかありません。小さなサイクロンは渦を維持しやすいため、弱まりにくいという特徴があります。

NASA出典のフレディの衛星画像。左下の島はレユニオン島。
NASA出典のフレディの衛星画像。左下の島はレユニオン島。

2つ目は、西に直進しやすい上空の風の流れの存在です。

多くのサイクロンは、やがて南に向かい、冷たい海上で衰弱するものです。ところが南に並ぶ2つの高気圧の影響で、フレディは南に進路を阻まれ西進しました。海上はどこも27度以上で、エネルギーを補給しやすい環境が広がっていたのです。

フレディの他の記録

このご長寿記録のほかに、フレディは別の2つの記録も更新しています。

まずは強さです。

サイクロンが存在している全期間中の強さを表す指標に「ACE(エース)」というものがあります。日本語では「熱帯低気圧積算エネルギー」などと訳され、最大風速の2乗を6時間ごとに足していって計算します。

フレディのACEの値は、これまで1位だった2016年のサイクロンのそれを大きく上回っています。つまり南半球の観測史上、最強のサイクロンといえます。

2つ目の世界記録は、発達回数です。

急速強化」と呼ばれる、24時間で最大風速が15メートル以上増える急激な変化を、6度も経験しています。これは、世界の新記録であるようです。

モザンビーク直撃へ

フレディは、11日(土)にも、アフリカ大陸南東部のモザンビークに、2度目の上陸をする可能性が高まっています。すでに先月の1度目の上陸で多数の死者が出ています。被害が非常に心配されるところです。

そもそもモザンビークに上陸するサイクロンは、南インド洋で発生するサイクロン全体の5%しかありません。それにもかかわらず、2度も上陸しようというのですから、恐ろしいことこの上ありません。

世界広しといえども、これほど奇妙で危険な動きを繰り返すサイクロンは、なかなか現れるものではありません。

NHK WORLD 気象アンカー、気象予報士

NHK WORLD気象アンカー。南米アルゼンチン・ブエノスアイレスに生まれ、横浜で育つ。2011年より現職。英語で世界の天気を伝える気象予報士。日本気象学会、日本気象予報士会、日本航空機操縦士協会・航空気象委員会会員。著書に新刊『お天気ハンター、異常気象を追う』(文春新書)、『いま、この惑星で起きていること』(岩波ジュニア新書)、『竜巻のふしぎ』『天気のしくみ』(共立出版)がある。

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