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熱くなる地球 2022年は負の"トリプル記録"の年

森さやかNHK WORLD 気象アンカー、気象予報士
2022年の地球温度の平年差 (濃い赤は観測史上最高。NOAA出典/背景加工)

“地球の健康診断”とでもいいましょうか。毎年この時期になると、昨年の地球の状態の分析結果が、複数の研究機関によって発表されます。

総括すると、どうやら2022年は負の"トリプル記録"を達成してしまったようです。

【① 海水温が過去最高】

まず海水温は、観測史上もっとも高くなりました。

世界16の機関の共同研究によれば、昨年の海面から水深2000メートルまでの平均海水温は統計史上もっとも高く、これで4年連続の記録更新となりました。

昨年1年間で海がため込んだエネルギー量は、世界全体の1年分の発電量の約100倍に相当したといいます。

【② CO2濃度も過去最高】

次にアメリカ航空宇宙局(NASA)によれば、昨年の世界全体のCO2排出量も、観測史上最高値に達したということです。

その背景には、エネルギー危機によって石炭の使用が増えたこと、パンデミックで抑えられていた経済活動が回復したこと、夏の高温や少雨で森林火災が多発したことなどが挙げられます。

【③ 一番暑いラニーニャ年]

昨年の世界の平均気温は、観測史上5番目に高かったNASAと欧州のコペルニクス気候変動サービスがそれぞれ発表しています。

ただ、ラニーニャ現象が起きていた年としては、観測史上もっとも暑い1年となりました。一体どういうことでしょうか。

ラニーニャ現象とは…

11日の海水温の平年差 (NOAA出典/筆者加筆)
11日の海水温の平年差 (NOAA出典/筆者加筆)

ラニーニャ現象とは、東太平洋の赤道域の海水温が低くなる状態をいいます。上図は、最近の海水温の平年差を表していますが、○で囲んだエリアの水温がいつもより低くなっているのが分かります。

ラニーニャの年は、世界気温が下がる傾向にあります。にもかかわらず、2022年は歴代5位の高温となりました。もし昨年ラニーニャが起きていなければ、観測史上2番目に暑い年になっただろうと見られています。

ラニーニャの反対がエルニーニョで、エルニーニョが起きている年は世界気温が上がります。観測史上もっとも高温だった2016年は、「ゴジラ・エルニーニョ」などと名付けられた史上最大級のエルニーニョが起きていました。

ラニーニャからエルニーニョへ

ということは、もし今年ラニーニャが終わり、エルニーニョが始まったりすれば、地球の温度はさらに上がってしまいそうです。

実は、それが起きようとしています。

アメリカの予想では、ラニーニャは春までに終わり、秋までにエルニーニョが始まる可能性が高いようです。そうなれば、2023年は昨年よりも暑い年になってしまう恐れが高まります。

気候変動を加速させる新犯人

そのうえ、こんな興味深い研究も12日(木)発表されました。

昨年1月にトンガで起きた海底火山の大噴火が、気温上昇を加速させてしまったかもしれないというのです。

通常大きな火山噴火が起きると、放出された二酸化硫黄などが太陽光を遮り、地球を冷やす効果があります。ところがオックスフォード大学の論文によると、トンガの噴火では二酸化硫黄ではなく、むしろ水蒸気が大量に放出されたそうです。水蒸気は温室効果ガスの1つですから、放たれた水蒸気が地球をしばらく余分に温めてしまうだろうというのです。

熱くなる地球で、我々は何をすべきでしょうか。

私たちが長期的に生き残る唯一のチャンスは、地球上で内向きにとどまるのではなく、宇宙に出ていくことである

(Our only chance of long-term survival is not to remain inward-looking on planet Earth, but to spread out into space)

故スティーヴン・ホーキング博士が残した言葉が、今後、益々現実味を帯びていくのでしょうか。

昨年の世界各地の高温記録 (筆者作成)
昨年の世界各地の高温記録 (筆者作成)

NHK WORLD 気象アンカー、気象予報士

NHK WORLD気象アンカー。南米アルゼンチン・ブエノスアイレスに生まれ、横浜で育つ。2011年より現職。英語で世界の天気を伝える気象予報士。日本気象学会、日本気象予報士会、日本航空機操縦士協会・航空気象委員会会員。著書に新刊『お天気ハンター、異常気象を追う』(文春新書)、『いま、この惑星で起きていること』(岩波ジュニア新書)、『竜巻のふしぎ』『天気のしくみ』(共立出版)がある。

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