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アメリカ気象局が取り組む、"警報のシンプル化"とは

森さやかNHK WORLD 気象アンカー、気象予報士
2011年2月1日にアメリカに発令された警報や注意報 (出典: NWS)

先週、東北から西日本にかけて、前例のない大雨が降りました。「大雨特別警報」をはじめ、「記録的短時間大雨情報」、「顕著な大雨に関する情報」、「線状降水帯発生情報」、「土砂災害警戒情報」などなど、ありとあらゆるアラートが出され、ニュースを駆け巡りました。しかしこれらを聞いて、はて、と思った方も多いことでしょう。

気象庁や政府、自治体は様々な手段で人命を守るための努力を行っています。こうして多くの気象情報が存在するのも、危機を深刻に受け取ってもらい、安全に避難してもらいたいといった思いからのことです。

しかし、多すぎる情報は時として人々を混乱させてしまうのも事実です。アインシュタインはこう言いました。

「物事はできる限りシンプルにすべきだ。 とはいえシンプルすぎてもいけない」。

ちょうどいい加減の、うまい伝達方法はないものでしょうか。

「ハザード情報のシンプル化」とは

実は、日本と同じような課題に直面してきたのがアメリカです。警報システムが細かすぎて、情報を受け取る側が混乱し、何が何だか分からない状況になってしまっていたのです。そこで今、アメリカ気象局が本腰を入れて取り組んでいるのが、ハザード情報のシンプル化(Hazard Simplification)です。

では一体、どういったことが取り組まれ、また話し合われているのでしょうか。

内容は大きく分けて二つです。一つが、警報の種類を減らすこと。もう一つが注意の警戒文をシンプルにすることです。詳しく見ていましょう。

【警報を減らす】

まず、一つ目。細分化しすぎていた警報や注意報などの名前を減らすよう動き出しています。

たとえば、強風と雪で視界が悪くなりそうな時に出されていた「猛吹雪注意報」と、五大湖周辺に大雪が予想される時に出されていた「湖水効果雪注意報」は、「ウィンターストーム注意報」に一本化されました。

今後は、「鉄砲水注意報」が「洪水注意報」に統一されるなど、洪水に関するアラートも減らしていくようです。

たしかに、受け手にとって一番大事なのは、どんな悪天になるかであり、その詳細や、背後にある現象が何であるかは二の次とも言えます。

【「アドバイザリー」をなくす】

アメリカのアラートの種類には大きく分けて「Advisory(勧告)」と「Watch(注意報)」と「Warning(警報)」の3種類あります。

「Watch」は重大な災害が起こる可能性のある時に、「Warning」は重大な災害が起きているか、まもなく起こりそうなときに出されるものです。

一方で「Advisory(勧告)」は、警報級とまではいかないレベルの災害が発生している時や、今にも起こりそうなときに出されるもので、やや意味があいまいです。実際、5年以上に及ぶ一般の人々への聞き取り調査の結果からも、一体何を意味するものかが分からないと言った声が多く聞かれました。そこで気象局は、早ければ2024年にも「Advisory」の使用をやめることを決定しました。

同じように「Special Weather Statement」という、「Advisory」よりもさらに危険性の低い事象が起きているときに出されるアラートがありますが、それもなくすそうです。

【簡単な言葉、かつ箇条書き】

そのうえで、警報などアラートの詳細を書いた警戒文にも工夫が行われています。危機が明確になるように、平たい言葉を使い、要点を箇条書きにすることになりました。

下が、変更になった伝達文の例です。まず、What(何が)、Where(どこで)、When(いつ)が箇条書きに記され、影響と予防策などが分かりやすい言葉で書かれてあります。文章を羅列するだけのものと違って、注意点が一目で分かります。

アメリカ気象局の発表した注意警戒文の例(筆者加筆)
アメリカ気象局の発表した注意警戒文の例(筆者加筆)

気象局の人は、こうしたハザード情報をシンプルにすることの意義をこう話しています。

「よりシンプルで明確なメッセージを送ることで、人々に適切な行動を取ってもらえるよう期待したい」。

日本でも、防災情報が多すぎて分かりにくいという声が実際にあがっており、気象庁が見直しに向けて取り組みを始めているようです。

警報に込められたメッセージ

ところで、アメリカ気象局の伝達文といえば、9年前にアラスカの気象局が出した予報文が大変な反響を呼んだことがありました。下の画像がそれです。

NWS出典の2013年10月4日の予報文に筆者加筆
NWS出典の2013年10月4日の予報文に筆者加筆

これは2013年10月4日のアラスカ州の気圧配置や天気予報を解説したものですが、縦に読むと、「Please pay us(支払ってください)」と読むことができます。

実はそのころアメリカでは、ねじれ国会で暫定予算が成立できず、政府機関が閉鎖、公務員の給与の支払いも滞っていたのです。閉鎖とはいえ、エッセンシャルワーカーである気象局の職員がみな休んでしまうことはできないので、無給で仕事を行った予報官が悲痛な叫びを予報文に託したというわけです。

気象局は頭をひねりひねり、いろいろな工夫をして情報の伝達に努めているようです。

NHK WORLD 気象アンカー、気象予報士

NHK WORLD気象アンカー。南米アルゼンチン・ブエノスアイレスに生まれ、横浜で育つ。2011年より現職。英語で世界の天気を伝える気象予報士。日本気象学会、日本気象予報士会、日本航空機操縦士協会・航空気象委員会会員。著書に新刊『お天気ハンター、異常気象を追う』(文春新書)、『いま、この惑星で起きていること』(岩波ジュニア新書)、『竜巻のふしぎ』『天気のしくみ』(共立出版)がある。

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