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"1200年で最悪"の干ばつ続く米西部 干上がる湖から遺体発見

森さやかNHK WORLD 気象アンカー、気象予報士
バスタブリング現象が見えているミード湖 (2021年)(写真:ロイター/アフロ)

干ばつが暴いた殺人、とでもいいましょうか。干上がったアメリカの湖から、樽に入った遺体が発見されました。

遺体の分析

1日(日)、とある夫婦がアメリカ西部のミード湖のほとりでボートを停泊させていると、女性の叫び声が聞こえてきました。夫婦がその女性に駆け寄ると、錆びた樽が水の引いた湖底に転がっており、その中に人骨が入っていたといいます。下がその写真です。

警察によると、この遺体は1970年代中頃から1980年代初頭に、銃で殺害された被害者である可能性が高いようです。この人物が履いていた靴が、1970年代に量販店で売られていたことから、年代が特定されました。

ミード湖に放り込まれた死体は、無念にも誰にも気付かれることなく半世紀もの間、湖底に潜んでいました。ところが、未曾有の干ばつで湖が干上がり、いよいよ真実が暴かれることとなったのです。

ミード湖の干ばつの様子

遺体を丸見えにしてしまうほど、ミード湖の水位の低下は深刻なものです。

ミード湖は、アメリカ西部ネバダ州とアリゾナ州にまたがる、全米でもっとも大きな人造湖です。その面積は640平方キロと、琵琶湖よりもやや小さいサイズです。

完成したのは1936年、この湖の水源は周囲の山雪が大半です。カリフォルニア州やラスベガス、メキシコの一部などに住む2,500万人の水がめとなっています。

ところが、ミード湖は2000年ごろから続く干ばつと、水の過剰利用によって、水位が低下しています。昨夏には1937年に湖が満水となって以来の、最低水位を記録しました。

湖面の低下によって、湖の岸壁に水のミネラル分が固まって白く見える、いわゆる「バスタブリング現象」が見えています。タイトルの写真がその様子です。

そのうえ先月には、湖水を引くために湖底に設置された取水口が史上初めて姿を現しました。この取水口は湖水をネバダ州に運ぶためのものですが、これが湖面から出てしまったことで水を引くことができなくなってしまったのです。

アメリカ西部では、過去1200年で最悪ともされる干ばつ、いわゆる「メガドラウト」が発生していてます。この超ド級の干ばつは、2030年までは続くだろうと予想されています。

干上がった湖から出てきたもの

ところで、このところ干上がったダムから続々と驚くべきものが発見されています。

まず2021年には、カリフォルニア州北部のフォルサム湖から、1986年に墜落した航空機が発見され、今年2月にはスペイン北西部の湖で、ダム開発で沈んだゴーストタウンが姿を現しています。

さらに、2020年には台湾のサンムーン湖からiPhoneが見つかっています。この携帯電話は、男性が1年前にこの湖で落としたものだそうですが、幸いビニール袋に入れていたおかげで、充電後、見事に動いたそうです。

水を湛えた湖は、ただ静かに、落とし物も犯罪も包み込んでいます。しかし水を失った湖は、そうした過去を洗いざらい露わにしてしまうのです。ミード湖からは今後もさらに多くの遺体が発見されるだろうと、警察が戦々恐々としています。

NHK WORLD 気象アンカー、気象予報士

NHK WORLD気象アンカー。南米アルゼンチン・ブエノスアイレスに生まれ、横浜で育つ。2011年より現職。英語で世界の天気を伝える気象予報士。日本気象学会、日本気象予報士会、日本航空機操縦士協会・航空気象委員会会員。著書に新刊『お天気ハンター、異常気象を追う』(文春新書)、『いま、この惑星で起きていること』(岩波ジュニア新書)、『竜巻のふしぎ』『天気のしくみ』(共立出版)がある。

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