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今度は風の全米記録を更新、ミネソタ州は史上初の12月竜巻

森さやかNHK WORLD 気象アンカー、気象予報士
15日アメリカ55か所以上で強風が観測され統計史上最多となった。出典; NWS

15日(水)アメリカ中西部周辺を、低気圧が急速に発達しながら通過していきました。強風が広範に吹き荒れ、一時は5,800万人が住むエリアに、強風注意報や警報が出されました。

この低気圧の影響で、最大瞬間風速33メートルを超す、ハリケーン並みの暴風が55か所以上(※)で観測されました。これは強風の統一的な記録を取り始めた2004年以降で最多であったと気象局は発表しています。これまでの記録は昨年の53件でしたが、それは嵐の起こりやすい暑い8月の記録でした。

具体的には、カンザス州ラッセルで45m/s、同州グランドビューで42m/s、アイオワ州のレノラで40m/sの最大瞬間風速が記録されました。

強風の影響で、カンザス州では砂嵐が発生、雪が降っていたコロラド州では強風で雪が巻き上げられて道路は全く視界が利かなくなり、ドライバーは危険な運転を強いられました。

12月としては史上初めての竜巻、ミネソタ州

強風の他に、20個ちかい竜巻も報告されています。その中の複数はミネソタ州で観測されたもようです。

ミネソタ州と言えば、カナダに国境を接し、その緯度は北海道とほぼ同じほど高緯度にある州です。12月にはマイナス10度以下に下がるような場所ですので、12月に竜巻が起きたことはこれまで一度もありませんでした。ですから今回、観測史上初めて12月にミネソタ州で竜巻が発生してしまったことになります。

アメリカでは10日(金)から11日(土)にかけて70近い竜巻が発生し、これまでのところ88人が死亡、100人以上が行方不明になっています。アメリカ史上最悪クラスの竜巻被害であると共に、12月としては前代未聞の出来事でした。

12月1日から16日の間だけで、米国本土では暫定で116個の竜巻が報告されています。2013年から2020年までの12月の平均竜巻発生数を調べてみると37個だったので、たった2週間で、その3倍もの数が起きてしまったことになります。

左: 竜巻、強風、雹の報告数 (SPC)、右: 15日の天気図 (NWS)
左: 竜巻、強風、雹の報告数 (SPC)、右: 15日の天気図 (NWS)

”西低東高”の気温配置

その背景にあるのが、記録的な高温です。先週、竜巻の大発生が起きたときも数多くの日最高気温記録が更新されました。たとえばテネシー州メンフィスでは10日(金)、103年ぶりにその日の最高気温記録が塗り替えられました。

ところが、今回は、その日限定の記録ではなく、12月全体を通しての最高気温記録が出ています。つまり、一層暖かな空気がアメリカ中部と東部を覆っていました。たとえば15日(水)アイオワ州デモインでは23.3度、ウィスコンシン州ラクロスでは20.6度、ネブラスカ州オマハでは23.3度と、12月としては前例のない暖かさとなりました。

その一方で、アメリカ西部には真冬のような寒気が入り込んでいて、カリフォルニア州、ネバダ州、コロラド州などでは広く大雪注意報や警報が発令されていました。ネバダ州の山では218センチの雪が降ったとのことです。

こうした”西低東高”の気温配置が今回の低気圧を発達させ、広く強風をもたらしたと言えます。

さらに今起きているラニーニャ現象もまた、アメリカ上空でジェット気流を大きく蛇行させ、こうした極端な気温差を生み出す一因ともなっているようです。

16日の最高気温の予報 (出典: NWS)
16日の最高気温の予報 (出典: NWS)

(※暫定値のため、数字は変わる可能性があります)

NHK WORLD 気象アンカー、気象予報士

NHK WORLD気象アンカー。南米アルゼンチン・ブエノスアイレスに生まれ、横浜で育つ。2011年より現職。英語で世界の天気を伝える気象予報士。日本気象学会、日本気象予報士会、日本航空機操縦士協会・航空気象委員会会員。著書に新刊『お天気ハンター、異常気象を追う』(文春新書)、『いま、この惑星で起きていること』(岩波ジュニア新書)、『竜巻のふしぎ』『天気のしくみ』(共立出版)がある。

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