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サイクロン「シャヒーン」、観測史上初めてオマーン北部に上陸

森さやかNHK WORLD 気象アンカー、気象予報士
オマーンに上陸する直前のシャヒーン (出典: NASA)

アラビア半島の北東端に位置するオマーンは、全土が砂漠気候に属する乾燥した国です。

現地時間3日(日)夜、このオマーンにサイクロンが上陸しました。名前は「シャヒーン(Shaheen)」、アラビア語で「ハヤブサ」を意味します。

シャヒーンの上陸地は、首都マスカットから100キロほど西に行った北部の地点でした。気象衛星の観測が始まった1960年以来、サイクロンがオマーンに上陸した例は20個ほどありますが、いずれもアラビア湾に面する東部への上陸でした。今回のように北部を直撃した例は、ひとつもありません。

NOAA出典の、オマーンに上陸した風速17メートル以上のサイクロンの経路図に筆者加筆
NOAA出典の、オマーンに上陸した風速17メートル以上のサイクロンの経路図に筆者加筆

2年分の雨も

シャヒーンの上陸時の最大風速は33メートル以上、カテゴリーは「シビア・サイクロン」でした。シビア・サイクロンとは5段階のサイクロンのスケールの中で、上から4番目の強さです。

首都マスカットでは、189ミリの雨が記録されたようです。年間降水量は100ミリ程度なので、およそ2年分の雨が一気に降った計算になります。BBCによれば、少年1人とアジア人2人を含む計3人が亡くなり、海を隔てたイランでも6人が死亡したもようです。

この雨の影響で道路が冠水、車が半分ほどの高さまで水に浸かりました。また「ワジ」と呼ばれる、通常は水が流れていない涸(かれ)谷も、この雨で一気に急流と化しました。

またマスカットにある在オマーン日本国大使館も、4日(月)は臨時休館となっているようです。

もとは違う名前のサイクロン

意外なことに、シャヒーンはもともと別の名前が付いたサイクロンでした。

9月26日にインド東部に上陸し、20人以上の死者を出した「グラーブ(Gulab)」というサイクロンがありましたが、これがそのままインドを西に横断して、アラビア海で再び息を吹き返し、新たに命名されたのがシャヒーンなのです。

シャヒーンのように弱まりながらもインドを横断して、その後再びサイクロンに発達した例はほとんどありません。

サイクロン「グラーブ」と「シャヒーン」の経路図 (作図: Meow)
サイクロン「グラーブ」と「シャヒーン」の経路図 (作図: Meow)

「グレー・スワン・サイクロン」

2015年、米マサチューセッツ工科大学の教授らが、「これまでの統計から見れば極めて異例な強さのサイクロン、名付けて"グレー・スワン・サイクロン"が、今世紀末には今より起こりやすくなるだろう」という旨の論文を発表しました。

事前に全く予測できない事象を「ブラック・スワン」と呼ぶのに対し、今は起こり得なくても、今後起こる可能性がゼロではないために「グレー・スワン」という表現を用いたそうです。そのグレー・スワン・サイクロンが発生すると考えられているのが、サウジアラビアやUAEなどのペルシャ湾沿岸、米フロリダ州タンパ、オーストラリアのケアンズです。

中でもペルシャ湾沿岸にはハリケーン並みの強さのサイクロンが現れて、例えばドバイなどでは7メートルの高潮が発生するかもしれないということです。

残念ながら今後は、異常が常態化するニューノーマル時代に突入していくようです。

※参考リンク※

オマーン気象局のHP

NHK WORLD 気象アンカー、気象予報士

NHK WORLD気象アンカー。南米アルゼンチン・ブエノスアイレスに生まれ、横浜で育つ。2011年より現職。英語で世界の天気を伝える気象予報士。日本気象学会、日本気象予報士会、日本航空機操縦士協会・航空気象委員会会員。著書に新刊『お天気ハンター、異常気象を追う』(文春新書)、『いま、この惑星で起きていること』(岩波ジュニア新書)、『竜巻のふしぎ』『天気のしくみ』(共立出版)がある。

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