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過去に5例しかない発達ぶり「台風14号」アジアで猛威

森さやかNHK WORLD 気象アンカー、気象予報士
フィリピンの接近している10日の台風14号 (出典: NOAA)

台風14号(国際名:チャンス―)が「猛烈」かつ「スーパー」な勢力でフィリピンに最接近しています。

勢力は次の通りです(日本時間10日18時)。

気象庁の解析:最大風速55m/s、階級「猛烈な台風」

米軍の解析:最大風速67m/s、階級「スーパータイフーン」

(風速が大きく異なるのは、気象庁は世界に足並みをそろえて10分平均の風速を用いている一方で、米国が独自に1分平均で計算していることが一因です)

フィリピンは1週間で2つ目の台風

フィリピンは、6日(月)に台風13号が上陸し、マニラを含め大きな被害が出たばかりです。今回は上陸せずに北をかすめる程度ですが、すでに大雨と強風が報告されています。

今年これまででもっとも強かった台風は、中心気圧が895Paまで低下し、4月としては統計史上最強となった2号(国際名「スリゲ」)でした。14号はこれに続き、今年2番目の強さです。

14号の特徴をまとめてみましょう。

14号の特徴

気象庁出典の10日の衛星画像に筆者加筆
気象庁出典の10日の衛星画像に筆者加筆

衛星画像から2つの特徴が読み取れます。まずコンパクトにぎっしり雲が詰まっていること、次に目が「点」であることです。

【小さい台風】

14号の強風域は半径250キロ弱です。これは昔の分類でいうところの「小さい」タイプに相当します。小さい台風と大きい台風とを比較したとき、その中心気圧が同じであれば、小さいほうが気圧の勾配が急になって強い風が吹きます。14号の最大瞬間風速も75m/sとなっており、竜巻並みの暴風を吹かせています。

【小さい目】

「点」のような台風の目を「ピンホールアイ」と呼びます。これも恐ろしい台風のサインです。一般に台風の目の平均サイズは直径50キロほどですが、14号の目は一時10キロほどでした。「環状台風」という目が大きくても強い台風もありますが、通常目が小さくてくっきりしているほど台風は強いものです。中心気圧が低いほど、掃除機のように台風の雲を中心に吸い込むからです。

【一気に猛発達】

そのうえ、14号は稀に見る急激な発達を遂げました。NOAAの解析によると、14号の最大風速は48時間で14m/sから72m/sと一気に58m/sも強まりました。北西太平洋において、このレベルの急発達を遂げたのは、過去に2002年、2017年、2018年、2019年、2020年の5回しか例がないようですから、相当珍しい台風と言えます。

14号のこれから

共に気象庁出典の画像に筆者加筆 (左: 14号の予想進路、右: 9日の海面水温)
共に気象庁出典の画像に筆者加筆 (左: 14号の予想進路、右: 9日の海面水温)

14号は海水温が30度ほどはある温かい海域を北上する見込みです。気象庁の見立てでは、11日(土)にかけて「猛烈な」勢力を維持し、12日(日)頃に一段階弱い「非常に強い」勢力で台湾に最接近、または上陸する恐れがあります。

台湾当局は「台風休暇」を発令するか否か頭を悩ませているようです。台湾には予想される風速や雨量が一定の基準を上回ると、学校や仕事が休みになるようなのです。なお在宅ワーカーは適用外とのこと。

週末からは沖縄地方に接近し、場合によっては九州などにも影響が出る恐れもあります。今後の進路が大変心配です。

過去30年の平均では、台風の日本上陸がもっとも多いのが9月です。事前の備えをしておきたいものです。

【参考までに】

〇 気象庁の台風情報

〇 米軍のタイフーン情報

NHK WORLD 気象アンカー、気象予報士

NHK WORLD気象アンカー。南米アルゼンチン・ブエノスアイレスに生まれ、横浜で育つ。2011年より現職。英語で世界の天気を伝える気象予報士。日本気象学会、日本気象予報士会、日本航空機操縦士協会・航空気象委員会会員。著書に新刊『お天気ハンター、異常気象を追う』(文春新書)、『いま、この惑星で起きていること』(岩波ジュニア新書)、『竜巻のふしぎ』『天気のしくみ』(共立出版)がある。

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