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冬が始まったばかりなのに…南極で「マイナス81度」記録

森さやかNHK WORLD 気象アンカー、気象予報士
南極大陸の衛星写真(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

映画『南極料理人』の舞台となった、南極内陸部に建つ「ドームふじ基地」。雪原の中に、ぽつんと立った建物内で繰り広げられる人間模様は、笑いと感動を誘いました。

南極では冬が始まったばかりですが、すでに凄まじい低温が観測されたようです。

The Weather Networkの記事によると、ドームふじの14日(月)の最低気温がマイナス81.7度まで下がったとのことです。

私はこの数字を見つけることはできませんでしたが、違う観測記録を見てみると、マイナス81.1度とありました。これはこの基地の最低気温記録であるマイナス82.9度に、あと2度と迫る超低温です。(WMO国際地点番号:89734)

南極がもっとも寒くなるのは7月ごろですから、まだ6月の時点でこうした低温が観測されるのは珍しいことでしょう。

シドニーで37年ぶりの低温

実は先日、オーストラリアにも真冬をしのぐような寒波が襲いました。

10日(木)、同国の最大都市シドニーでは、日最高気温が10.3度に留まり、1984年に9.7度を記録して以来もっとも寒い一日となりました。この時期の最高気温の平均は20度ほどですから、10度近く低かったことになります。スキー場では、70センチの雪が積もりました。

世界の最低気温記録

ところで、世界でもっとも寒いところはどこでしょうか。

これまでの最低気温の記録を見てみます。まず北半球の記録は、1991年にグリーンランドで観測されたマイナス69.6度です。では世界はというと、1983年に南極ボストーク基地で記録されたマイナス89.2度です。やはり南極の寒さは格別です。

世界一寒い、本当のところ

ではボストーク基地が一番寒いかと言えば、そうでもないかもしれません。温度計がない場所では、もしかするともっと寒いかもしれないからです。

その答えを探るべく、ある研究者が気象衛星の力を借りて検証しました。衛星のデータなら、温度計のない場所の様子も捉えることができます。

2018年、米国雪氷データセンターのテッド・スカンボス氏らが2004年から2016年の衛星データを解析した結果、ボストーク基地よりやや南極点に近い場所でマイナス98度まで下がっていたことが分かりました。

ただこれは、雪に覆われた地面付近の温度です。前述のボストーク基地のマイナス89.2度は人の身長くらいの高さの気温です。これと同じ高さの温度に直すと、だいたいマイナス94度くらいだろうということですから、それにしてもボストーク基地よりも寒いところがあるようです。

世界の寒暖差

一方で、つい先日、世界でもっとも暑い場所が判明しました。

気温の世界最高記録はアメリカ・デスバレーの56.7度(1913年)ですが、2002年から2019年までの気象衛星のデータによると、北米の「ソノラ砂漠」とイランの「ルート砂漠」で地表面温度が81度まで上がっていたことが分かったのです。

そうなると世界の温度差は、

81度-(マイナス98度)=179度

地球の温度は、なんと幅が広いことでしょうか。

NHK WORLD 気象アンカー、気象予報士

NHK WORLD気象アンカー。南米アルゼンチン・ブエノスアイレスに生まれ、横浜で育つ。2011年より現職。英語で世界の天気を伝える気象予報士。日本気象学会、日本気象予報士会、日本航空機操縦士協会・航空気象委員会会員。著書に新刊『お天気ハンター、異常気象を追う』(文春新書)、『いま、この惑星で起きていること』(岩波ジュニア新書)、『竜巻のふしぎ』『天気のしくみ』(共立出版)がある。

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