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アメリカ南西部に早くも記録的な熱波到来 サケは車で川下る

森さやかNHK WORLD 気象アンカー、気象予報士
アメリカ気象局出典の15日の警報の図に、筆者加筆

アメリカと言えば世界一暑い国。1913年デスバレーで記録された56.7度の記録は、今でも世界最高記録となっています。フロリダ州マイアミでは、今年、世界で初めて「チーフ・ヒート・オフィサー」なる官職が作られました。

そんなアメリカを今、6月にもかかわらず、真夏をしのぐ酷暑が襲っています。すでに高温記録が塗り替えられていますが、ここ数日のうちにさらに気温が上がって、5,000万人に影響が出ると指摘されています。

冬季五輪の地で40度近い高温

どれほど暑いのでしょう。たとえばユタ州ソルトレイクシティーでは、14日(月)最高気温が39.4度まで上がりました。これは、観測史上もっとも早い時期に現れた39度台の記録です。なおこの場所は、2002年に冬季五輪の舞台となったことで有名です。

また、その昔、宮沢りえさんの写真集で話題になったニューメキシコ州サンタフェでは38.9度まで気温が上がり、観測史上最高気温となりました。いずれもこの時期の平年の気温を10度も上回ります。

暑さは収まるどころか、加速していきます。下の表は各地の予想最高気温を表しています。デスバレーは53度まで上がり、コロラド州グランドジャンクションでは40度以上の気温が続き、史上初めて「猛暑警報」も発令されています。

アメリカ気象局の予想最高気温を元に、筆者作成 (写真の出典はNOAA)
アメリカ気象局の予想最高気温を元に、筆者作成 (写真の出典はNOAA)

山火事のリスク

現在広く「猛暑警報」が発令されているアメリカ南西部は、近年、全米でもっとも気温が上昇している地域でもあります。干ばつも深刻化しています。中でも今年は特にひどく、なんと97%で干ばつが起きています。75%は「深刻~並外れて深刻」なレベルです。

干ばつと高温で、すでに記録的な数の山火事が発生しています。山火事シーズンは通常6月頃に始まりますが、今年は4月から始まっていて、例えばカリフォルニア州のこれまでの焼失面積は、昨年の同時期の20倍となっています。

アメリカ西部の干ばつの状況 (出典: U.S. Drought Monitor)
アメリカ西部の干ばつの状況 (出典: U.S. Drought Monitor)

サケは悠々自適に車で移動

こうした気象が原因で、魚の引っ越し作業が行われています。どういうことでしょうか。

カリフォルニア州のチヌークサーモンは、本来なら春頃に川を下り、太平洋へと移動します。しかし今年は川の水位が異常に低く、しかも水温は非常に高いため、わざわざ人がトラックでサーモンを海まで運んでいるというのです。計1,700万匹のサーモンが、温度調節の効いた快適なトラックに乗せられて移動します。

おやおや少しやり過ぎではないか、と思うかもしれません。しかし計算してみると、案外そうでもなさそうです。ガーディアンによれば、カリフォルニア州におけるサーモンの年間経済効果は9億ドル。一方でサケの乗車サービスにかかる費用は80万ドル、さらに23,000もの雇用も生み出せるとのこと。このアイディアは、サケにも人にもメリットがあるようです。

NHK WORLD 気象アンカー、気象予報士

NHK WORLD気象アンカー。南米アルゼンチン・ブエノスアイレスに生まれ、横浜で育つ。2011年より現職。英語で世界の天気を伝える気象予報士。日本気象学会、日本気象予報士会、日本航空機操縦士協会・航空気象委員会会員。著書に新刊『お天気ハンター、異常気象を追う』(文春新書)、『いま、この惑星で起きていること』(岩波ジュニア新書)、『竜巻のふしぎ』『天気のしくみ』(共立出版)がある。

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