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暖冬から一転、厳冬に カナダではマイナス51.9度記録

森さやかNHK WORLD 気象アンカー、気象予報士
北米大陸の衛星画像に筆者加筆 (画像元: NASA)

先週から北米は、強烈な寒波に見舞われています。

7日(日)にはカナダ北西部のウェックウェイティでマイナス51.9度まで気温が下がり、2017年以来の国内最低気温が記録されました。この時期世界でもっとも寒いシベリアでも同じ日の気温はマイナス51.5度だったので、カナダが世界一寒い場所だったといえそうです。

この他に、下記のような気温も観測されています。

【カナダ】

・フォートリライアンス:マイナス50.6度 (7日)

・ウラニアムシティ: マイナス48.9度 (7日)←観測史上1位タイ記録

・キーレイク: マイナス48.7度 (7日) ←2月の1位記録

【アメリカ】

・フォートユーコン: マイナス47.2度 (8日)

・ビートルズ: マイナス40.6度 (8日)

9日(火)朝の時点でも、カナダの広範とアメリカ北部に「低温警報」が発令されています。寒さは当分続き、週末から徐々に緩んでくるということです。

(↑カナダはこんなこともできる寒さ)

安堵と懸念

今でこそ寒くなった北米ですが、1月は記録的に暖かな日が続いていました。

アメリカでは観測史上10番目に暖かい1月となったほか、カナダでも稀にみる暖かな日が続いたのです。そうした中で突然現れた寒波により、ワイン農家は安堵する一方、漁師は気が気ではないようです。

*始まったアイスワインの収穫*

氷点下の気温の到来で、いよいよアイスワインの収穫が始まったようです。

アイスワインとは凍ったブドウを収穫して作られる、甘いデザートワインのこと。一般に気温がマイナス8度以下でないと収穫できないようですが、12月から1月までは気温が下がらず、今冬の収穫を諦める農家もいたほどでした。

しかしようやくやってきた本格的な冬の訪れで、ナイアガラ周辺のワイン農場などで収穫が行えたようです。

*薄い氷で危険が迫る氷下漁*

反対に氷下漁を営む漁師の心は複雑です。

1月末までの五大湖の結氷率は過去50年で最低でしたが、今は湖面の氷が拡大しています。たとえばエリー湖は1月下旬の結氷率が0%だったものの、8日(月)時点で46%に広がりました。

このことは氷下漁を行う漁師にとって朗報ですが、喜んでばかりもいられないようです。というのも、まだ氷が薄いために氷が割れやすく、4日(木)にはミシガン湖で60人以上の漁師が氷の上に取り残されるという事故が起きたのです。

氷が増加しているとはいえ、五大湖全体の氷結率はまだ18%で、例年の平均の27%には到底届いていないようですから、こうした危険はまだまだ続くと言えそうです。

急上昇するエリー湖の結氷率 (出典: NOAA/GLERL)
急上昇するエリー湖の結氷率 (出典: NOAA/GLERL)

こおりみずの妖精

一方で、氷の浮かぶミシガン湖で撮られた、ある画像が話題になっています。なんと水着の女性が湖の中を立ち泳ぎしているのです。しかも笑顔です。

(その動画はこちらのニュースサイトから見られます)

その超人はリトアニア人の3児のママです。この時気温はマイナス10度水温はマイナス1度だったといいますが、彼女はほぼ毎日のようにミシガン湖を泳いで、トレーニングを重ねていたので何でもない様子。それどころか冷水に浸かると、心が落ちつくのだといいます。

反対に心穏やかでないのが、国立冷水セーフティ―センターや屋外水泳協会といった団体で、絶対に彼女のような真似をしないよう冷水の危険性を必死に訴えています。

厳しい寒さの冬には危険がいっぱいですが、それを逆手にとって楽しんでしまう人もいるようです。

NHK WORLD 気象アンカー、気象予報士

NHK WORLD気象アンカー。南米アルゼンチン・ブエノスアイレスに生まれ、横浜で育つ。2011年より現職。英語で世界の天気を伝える気象予報士。日本気象学会、日本気象予報士会、日本航空機操縦士協会・航空気象委員会会員。著書に新刊『お天気ハンター、異常気象を追う』(文春新書)、『いま、この惑星で起きていること』(岩波ジュニア新書)、『竜巻のふしぎ』『天気のしくみ』(共立出版)がある。

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