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「観測史上初・台風0?」の太平洋と「統計史上・最多ペース」の大西洋

森さやかNHK WORLD 気象アンカー、気象予報士
テキサス州に上陸した、ハリケーン「ハナ」の衛星画像 (25日)

「観測史上もっとも台風の少ない7月」となるまで、残り2日を切りました。台風3号になるかと注目されていたハリケーン「ダグラス」が、日付変更線をまたぐ前に温帯低気圧に変わったこともあって、太平洋西部でその可能性がさらに高まっているのです。

本来なら7月というのは、台風の発生数が一年で3番目に多い月で、平年3.6個発生します。

観測史上最速ペースの大西洋

一方大西洋では、真逆の現象が起きています。

今年はこれまでに、台風と同じ強さにあたるトロピカルストームとハリケーンの発生数が8個に達しています。これは観測史上最速ペースです。特に7月には4個発生し、まもなくもう1つ発生する見込みです。7月の月平均の1個を大きく上回っています。

下の表は、今年発生した嵐と、それらが作った記録を表しています。驚くことに、ほとんどの擾乱が何かしらの記録を塗り替えているのです。

筆者作成
筆者作成

9号イサイアスの行方

先に、新しい嵐がそろそろ発生すると述べましたが、「イサイアス(Isaias)」と名付けられる予定のトロピカルストームもまた、観測史上もっとも早い時期に発生した9号となる見込みです。9号の平均発生日は10月4日ですから、何と2カ月以上も早い発生となるのです。(追記:30日9号イサイアスが発生し、記録を更新しました。)

イサイアスの進路は大変危険なものです。ドミニカ共和国やハイチ、キューバなどに最接近または上陸して、来週明けにはフロリダ州を直撃する予想となっています。

国立ハリケーンセンター発表のイサイアスの予想進路図
国立ハリケーンセンター発表のイサイアスの予想進路図

活発なハリケーンシーズンの原因

なぜ今年は、大西洋で熱帯低気圧の発生が多いのでしょうか。

NOAA出典による大西洋における海水温の平年差 (筆者加筆)
NOAA出典による大西洋における海水温の平年差 (筆者加筆)

それは、風速や風向きの高度差が少ないこと、「西アフリカモンスーン」と呼ばれる季節風が強く、アフリカ西部で嵐が発生しやすいこと、そして海水温が高いこと、などが挙げられます。

右図は28日(火)の海水温の平年差を表していますが、カリブ海周辺では1~2℃高く、アメリカ北東部沖にいたっては4℃近くも高いことが分かります。

アマゾンの火災との関係

大西洋の海水温の上昇は、アマゾンの森林火災を助長させる可能性があるようです。

NASAとカリフォルニア大学の共同研究の結果、以下のようなことが分かっています。

「大西洋の赤道域の海水温が高い⇒アマゾンの水蒸気が北に引っ張り込まれる⇒大西洋上でハリケーンが多発する⇒アマゾンは乾燥し、山火事が起こりやすくなる。」

こうした気象条件に加え、森林伐採や、新型コロナウイルスの影響により消火作業が困難になる等の悪条件が重なり、今年アマゾンでは大規模な森林火災が起きてもおかしくないと考えられているようです。

NHK WORLD 気象アンカー、気象予報士

NHK WORLD気象アンカー。南米アルゼンチン・ブエノスアイレスに生まれ、横浜で育つ。2011年より現職。英語で世界の天気を伝える気象予報士。日本気象学会、日本気象予報士会、日本航空機操縦士協会・航空気象委員会会員。著書に新刊『お天気ハンター、異常気象を追う』(文春新書)、『いま、この惑星で起きていること』(岩波ジュニア新書)、『竜巻のふしぎ』『天気のしくみ』(共立出版)がある。

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