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トランプ氏のハリケーン核爆弾攻撃の発言に「待った」の法案出される

森さやかNHK WORLD 気象アンカー、気象予報士
ハリケーン・ドリアンの衛星画像(提供:STAR GOES-East/NESDIS/NOAA/ロイター/アフロ)

「スクープ!トランプ大統領がアメリカをハリケーンから守るため核爆弾で攻撃、と提案」

この衝撃の記事がアメリカのニュースサイト・アクシオスに掲載されたのは、昨年8月のことでした。記事の中には、実際にあったとされる大統領の発言がこう書かれてあります。

「ハリケーンはアフリカ沖で発達し、大西洋を移動する。海上でハリケーンの目に核爆弾を落として、破壊してしまえばいいではないか。なぜできないんだ。」

この記事が出された後、トランプ大統領は自身のツイッターに「馬鹿げている、またもやフェイクニュースだ」と投稿し、全面的にこの発言を否定しました。しかし当然ながら、このニュースはアメリカ国内で物議を醸すこととなりました。

核爆弾攻撃を阻止する法案

この発言から10カ月が経ち、再びハリケーンシーズンが始まった今年6月1日。ある一人の女性議員が行動を起こしました。

その人とは、シルビア・ガルシア下院議員(テキサス州・民主党)。

「気候変動とハリケーン関連・戦略に関する法律」なる法案を、議会に提出したのです。この法案の中には、大統領や連邦政府による、ハリケーンに対する核爆弾の使用禁止などが明示されています。

この法が成立する可能性は低いようですが、ガルシアさんはこうした経緯に至った理由をワシントン・ポストにこう述べています。

「通常、私たちはそれほど明白なものを立法化する必要があるとは思いません。でも2019年8月に大統領が行った発言をふまえると、その必要があると感じます。このような核爆弾の使用は放射性降下物をもたらし、公衆衛生と環境に対する重大な害を引き起こすことでしょう。」

過去には同じような意見も

ただ、ハリケーンを核爆弾で破壊するという考えを持った人は、トランプ大統領が初めてではありませんでした。それどころか、核爆弾が誕生した時から、こうした考えが議論されてきたともいわれています。

具体的な例を見てみましょう。

1961年、当時のアメリカ気象局長官が、「いつの日か遠く離れた海の上で核爆弾を使って、ハリケーンを破壊する日が来るかもしれない」と発言しています。

また1959年、気象学者ジャック・リード氏が、「潜水艦に核爆弾を載せて水中からハリケーンの目の中に発射すれば、ストームを弱めることができる」という説を論文で紹介しています。

さらに台風研究の世界的権威で「藤原効果」で知られる故・藤原咲平氏は、「核爆弾が台風を破壊することは不可能だとしても、進路に影響を与えることは可能かもしれない」と、1940年代に論文で発表しています。

ハリケーン攻撃は違法ではない?

スタンフォード大学の教授によると、現行の法律では、大統領がハリケーンに核爆弾を落としたとしても、法律違反でないのだそうです。

トランプ大統領といえば、昨年ハリケーン・ドリアンの予報円をサインペンで勝手に書き足して、世論や気象局から非難されたこともあります。

ハリケーンの進路を変え、破壊させるといった「神の域」にまで、大統領権限が及ばないことを祈るばかりです。

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NHK WORLD 気象アンカー、気象予報士

NHK WORLD気象アンカー。南米アルゼンチン・ブエノスアイレスに生まれ、横浜で育つ。2011年より現職。英語で世界の天気を伝える気象予報士。日本気象学会、日本気象予報士会、日本航空機操縦士協会・航空気象委員会会員。著書に新刊『お天気ハンター、異常気象を追う』(文春新書)、『いま、この惑星で起きていること』(岩波ジュニア新書)、『竜巻のふしぎ』『天気のしくみ』(共立出版)がある。

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