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行方不明のアルゼンチン潜水艦 捜索海域は「吠える40度」

森さやかNHK WORLD 気象アンカー、気象予報士
消息不明のアルゼンチン潜水艦 (2014年6月資料・提供写真)(提供:Armada Argentina/ロイター/アフロ)

行方不明になっているアルゼンチン海軍の潜水艦の捜索作業は、難航を極めています。

潜水艦「サンフアン」はアルゼンチンの南端から北部に向け出発した後、15日(水)以降交信が途絶えています。原因は機械的な故障と伝えられています。潜水艦には乗組員44人が乗っており、複数の国々が協力して捜索をしているのですが、未だ発見に至っていません。

海上から空気を供給できない場合、潜水艦内の空気は7日間しかもたないとのことですが、すでに消息を絶ってから5日以上も経過しています。刻一刻とタイムリミットが迫っており、乗組員の安否が心配されます。

低気圧で大荒れ

救出が急がれる中で、捜索を困難にさせているのが悪天です。19日(日)と20日(月)は低気圧の影響で、海は大荒れとなりました。海上では20メートルの風が吹き荒れ、波の高さは10メートルにも及んだようです。22日(水)には一時的に天気も回復する見込みですが、23日(木)そして週末には再び低気圧が近づき、海が荒れる模様です。

(アルゼンチン海軍が公開した捜索の様子)

「吠える40度」

大しけが続くのもそのはず、この海域は「吠える40度」と呼ばれ、船の航行にこの上なく危険な場所なのです。

「吠える40度」とは南緯40°から50°にかけての海域で、英語ではRoaring Fortiesといいます。大航海時代の航海士たちが荒れ狂う海の様から、こう別称をつけて呼んだようです。

ではなぜこの海域は風が強いのでしょうか。

それは南緯40°から50°は北半球同様、偏西風が吹いている場所ですが、それに加え南半球ではほぼ陸がないことから、摩擦が起こらず、風が弱まらないからです。特に季節の変わり目には暖気と寒気が衝突して、温帯低気圧が頻繁に通るようになり、強風が吹き、波もさらに高くなります。

2014年に忽然と姿を消したマレーシア航空機の発見が進まなかったのも、その捜索海域が吠える40度に位置していたためとも言われています。

「狂う50度」と「絶叫する60度」

「吠える40度」よりも風が強いのは、それよりも南の海域です。南緯50°~60と60°~70°はそれぞれ「狂う50度 (Furious Fifties)」「絶叫する60度 (Screaming Sixties)」と、「吠える」と比べ物にならないくらいの恐ろしい別称で呼ばれています。特に南米大陸の南端付近は「航海士の墓場 (Sailors' graveyard)」とも言われるほどに、昔から非常に危険な海域です。

19日の衛星画像(NASA)をもとに筆者作成
19日の衛星画像(NASA)をもとに筆者作成
NHK WORLD 気象アンカー、気象予報士

NHK WORLD気象アンカー。南米アルゼンチン・ブエノスアイレスに生まれ、横浜で育つ。2011年より現職。英語で世界の天気を伝える気象予報士。日本気象学会、日本気象予報士会、日本航空機操縦士協会・航空気象委員会会員。著書に新刊『お天気ハンター、異常気象を追う』(文春新書)、『いま、この惑星で起きていること』(岩波ジュニア新書)、『竜巻のふしぎ』『天気のしくみ』(共立出版)がある。

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