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夏の甲子園に出場する珍しい名字の選手達 東日本編

森岡浩姓氏研究家
甲子園球場(写真:イメージマート)

6日から甲子園球場で全国高校野球選手権大会、いわゆる夏の甲子園が始まる。全国47都道府県から49の高校が参加することから、中には見たことのない珍しい名字の選手がいることも珍しくはない。そこで、今回出場する選手達の中から珍しい名字をみてみよう。

なお、選手名簿は週刊朝日増刊号「甲子園2022」を使用、本記事では漢字の新旧字体は同じとみなしている。

日本人の名字の総数は10万以上。私は名字ランキング1万位以下が珍しい名字と考えている。そして、2万位以下になるとかなり珍しい。今夏の甲子園大会に出場登録されている49校882人の選手の中から、この2万位以下の名字の選手を探してみた。

まずは東日本編。

とくに珍しい「唐倉」と「斉須」

東日本の各校の選手でとくに珍しいのが、能代松陽高(秋田)の唐倉(からくら)選手、日本文理高(新潟)の才須(さいす)選手の2人。

「唐倉」は秋田県と埼玉県に分布する名字で、秋田県では大館市と鹿角市に多い。唐倉選手も大館市の出身。「くら」とは古語で谷間のことで、「水の涸(か)れた谷=からくら」に縁起のいい漢字をあてたものか。

「才須」は新潟市に集中している名字で、才須選手も新潟市の出身。新潟県や福島県には「斎須」「斉須」「西須」など「さいす」と読む名字が多く、これらから漢字が変化したもの。

八戸学院光星高の「洗平」

八戸学院光星高(青森)の洗平選手の名字も珍しい。青森県六戸町にあり、これで「あらいだい」と読む難読名字でもある。

しかし、高校野球に詳しい人だとおなじみの名字でもある。かつて光星学院高に洗平竜也という投手がいた。洗平竜也選手は1年夏にエースとなり3年連続して県大会決勝まで進みながら敗れ、しかもそのうち2回は延長戦で敗れている他、選抜大会にも1度も出場できず、悲運の投手として有名だからだ。のちにプロの中日に入団したことから、プロ選手として覚えている人も多いだろう。

今回甲子園に出場する同校エースの洗平歩人選手は、この洗平竜也の長男。チームには弟の洗平比呂選手もいる。

実は、東日本の学校で最も珍しいのは、愛工大名電高(愛知)の栢工選手になるはずだった。この「栢工」は極めて珍しい名字で「かやく」と読み、三重県熊野市や北海道岩見沢市などにごくわずかだけあるが、同校の栢工選手は「かしわく」とのこと。「栢」と「柏」は似ており、漢字が変化したものだろう。県大会では背番号10でベンチ入りしていたのだが、甲子園のメンバーからは外れてしまった。

この他では、高岡商(富山)の早上選手、旭川大高(北北海道)の一ノ戸(いちのへ)選手、三重高(三重)の輪野(わの)選手、聖光学院高(福島)の山浅(やまあさ)選手などがかなり珍しい。

「一戸」は青森県では普通の名字だが、「一ノ戸」と間に「ノ」が入ると極端に少なくなる。北海道に点在しており、青森県から移住した人が読みやすいように「ノ」を付け加えたものだ。

意外といる超難読名字の「樹神」

逆に珍しそうに見えて意外といるのが、札幌大谷高(南北海道)の樹神選手。これで「こだま」と読む超難読名字。

「こだま」とは木に宿っている精霊のことで、通常漢字では「木霊」と書く。しかし、愛知県豊田市付近では「樹神」と書き、名字ランキングでは1万位を少し下回るあたり。珍しい名字には違いないが、極めて珍しいというわけではない。

※「西日本編」はこちら

姓氏研究家

1961年高知県生まれ。早稲田大学政経学部在学中から独学で名字の研究をはじめる。長い歴史をもち、不明なことも多い名字の世界を、歴史学や地名学、民俗学などさまざまな分野からの多角的なアプローチで追求し、文献だけにとらわれない研究を続けている。著書は「全国名字大辞典」「日本名門・名家大辞典」「47都道府県・名字百科」など多数。2017年から5年間NHK「日本人のおなまえ」にレギュラー出演。

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