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骨太方針から突然消えた財政目標

森信茂樹東京財団政策研究所研究主幹 
コロナ緊急対策の記者会見(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

2020年度の「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太方針2020)の原案が明らかになったが、これまでの骨太には必ず書き込まれていた、プライマリーバランス(基礎的財政収支)を黒字化するという財政目標が消えた。

理由は、新型コロナ対策で膨らんだ巨額の財政赤字の改善が見通せなくなったことのようだが、これでは、毎年の予算編成のよりどころがなくなった。今後財政赤字は野放図に拡大していく可能性がある。

政府は新型コロナ対策で2度の補正予算を組み、121兆円の財政支出を計上した。追加公債発行額は57兆円で、当初と合わせて90兆円、借り換え債を合わせると250兆円以上に及び、今年度の国の財政収支は対GDP比で10%を超える大幅な赤字となる見通しだ。さらに20年度は景気の落ち込みで税収が4兆円ほど落ちるので、これも公債の追加発行で賄うしか手がない。

これでは財政目標を作っても意味がない、というような議論があったのだろう。しかし、それと財政目標を作らないこととは全く別次元の問題だ。東北大震災の事例を思い返してほしい。

2011年度から15 年度を集中復興期間として、25 兆円程度と見積もられる復興予算を策定した。その際、一般会計と区分し「東日本大震災復興特別会計」を作って別管理にした。その上で復興債を発行し、それを所得税・法人税などの付加税で一定の年月をかけて償還する仕組みを作った。その結果、プライマリーバランスの黒字化目標もまがりなりにも存続させることができたのである。

今回はなぜ同様の仕組みを作らないのだろうか。新型コロナ対策特別会計を設け、予算の出入りを別管理することを考えるべきだ。新型コロナ対策に必要な財源として発行した国債は、新型コロナ債という名目にして特別会計に放り込む。国債の償還については、付加税で年月をかけて償還していく。国民全員が連帯して将来世代への安易な先送りを避けるという意味合いがある。

別管理することにより、財政目標であるプライマリーバランス黒字化が、2025年から多少目標年次が遅れるとしても、規律としての意義を持つ。

なぜ今財政規律が重要なのか。それは国民の命を守るためである。今後も高齢化は急速に進展していく。年金、医療・介護等の社会保障給付を持続可能にする安定的な財源がなければ、それらの制度を維持していくことはできない。さらには異常気象による水害や巨大地震などの災害からわれわれの命を守ってくれるのも、突き詰めると財政資金に行きつく。

第2波、第3波が予想されるコロナ禍だが、それだけが我が国の抱える危機ではない。財政再建はなぜ必要なのか、その意義を改めて考える必要がある。

東京財団政策研究所研究主幹 

1950年生まれ。法学博士。1973年京都大学卒業後大蔵省入省。主に税制分野を経験。その間ソ連、米国、英国に勤務。大阪大学、東京大学、プリンストン大学で教鞭をとり、財務総合政策研究所長を経て退官。東京財団政策研究所で「税・社会保障調査会」を主宰。(https://www.tkfd.or.jp/search/?freeword=%E4%BA%A4%E5%B7%AE%E7%82%B9)。(一社)ジャパン・タックス・インスティチュートを運営。著書『日本の税制 どこが問題か』(岩波書店)、『税で日本はよみがえる』(日経新聞出版)、『デジタル経済と税』(同)。デジタル庁、経産省等の有識者会議に参加

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