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ギグワーカーが輝くためには社会保障・税制の対応が必要

森信茂樹東京財団政策研究所研究主幹 
ウーバーイーツの配達人はギグワーカー(写真:ロイター/アフロ)

日経新聞2月27日の朝刊は、ヤマトホールディングスが、宅配便の事業構造改革の一環として、ネットを介して単発で仕事を請け負う「ギグワーカー」など個人への配送委託に乗り出す考えを示したと伝えている。すでにアマゾンは同様の制度であるアマゾンフレックスとして導入している。

このようなプラットフォームを通じて、単発の契約により労働力を提供するギグワーカーは、ウーバーの運転手、ウーバーイーツの配達人など世界的に広がっており、ギグ・エコノミーを形成している。

問題は、このような新たな経済の動きに、雇用者と自営業者を峻別している現行の法制度がミスマッチを起こしていることだ。とりわけ縦割りに設計されている社会保障制度の下で、ギグワーカーは失業保険や最低賃金制度の適用外となっている。また税制も適切に対応していない。このことはわが国だけでなく、世界的な問題である。

カリフォルニア州では、ギグワーカーも医療保険などを義務付ける法が成立しているが、米国や英国では、ウーバーの運転手を雇用者として、社会保障の提供をウーバーなどのプラットフォーマー企業に義務付ける動きが広がっている。

米国では、ギグワーカーを、雇用契約に基づく雇用者(employee)と、契約に基づく自営業者(independent contractor)という2類型とは別の、独立労働者(independent worker)と位置付けて、プラットフォーマーに社会保険負担などの義務付けや、雇用者と同じく源泉徴収を行うことなどの法案が出て議論が行われている。

源泉徴収制度の導入により、ギグワーカーが申告時にキャッシュが不足するといった事態が回避され、納税の負担が軽減される。

わが国は米国と異なり、雇用者には源泉徴収・年末調整という極めて効率的な制度が導入されているので、雇用者とギグワーカー(自営業者)との税制上の差異・不平等は大きく、ギグワーカーは不利益を被る可能性がある。

雇用者の多くは、会社が年末調整を行ってくれるので申告に行く必要はないが、自営業者は、自ら申告をする必要がある。さらにサラリーマンのような給与所得控除がなく、実額経費なので、経費などの領収証も保存しておく必要がある。源泉徴収はないが、中間申告・予定納税制度が適用になる。

ギグワーカーの中心は、所得より自由時間を優先する20代、30代の人々といわれており、新たな働き方とも評価されている。この動きが真に社会に歓迎され定着するためには、政府が税制や社会保障の手当てを行っていく必要がある。

それに加えて重要なことがある。それは、プラットフォームを提供して利益を得る巨大プラットフォーマー企業は、ギグワーカーのリスクを軽減すべく一定のコストや責任を負うことが必要だということである。すべて政府任せにしてはならない。

東京財団政策研究所研究主幹 

1950年生まれ。法学博士。1973年京都大学卒業後大蔵省入省。主に税制分野を経験。その間ソ連、米国、英国に勤務。大阪大学、東京大学、プリンストン大学で教鞭をとり、財務総合政策研究所長を経て退官。東京財団政策研究所で「税・社会保障調査会」を主宰。(https://www.tkfd.or.jp/search/?freeword=%E4%BA%A4%E5%B7%AE%E7%82%B9)。(一社)ジャパン・タックス・インスティチュートを運営。著書『日本の税制 どこが問題か』(岩波書店)、『税で日本はよみがえる』(日経新聞出版)、『デジタル経済と税』(同)。デジタル庁、経産省等の有識者会議に参加

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