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甲子園でまたやろう! 友情で結ばれた昨夏甲子園4強エースが誓いの握手!

森本栄浩毎日放送アナウンサー
京都国際・森下と近江・山田が友情の握手。夏の甲子園での対決があるか?(筆者撮影)

 昨夏の甲子園で4強に進んだ京都国際近江(滋賀)。両校のエースは当時2年生で、今季も甲子園の主役になるだろうと思われていた。近江・山田陽翔(主将)はセンバツ準優勝でさらにステップアップしたが、京都国際の左腕・森下瑠大は、コロナの後遺症に苦しんでいる。両雄は8日、練習試合ながら初めて対決した。

昨秋、履正社を完封していた森下

 両者の明暗が分かれたのは昨秋だった。夏の激闘がたたってヒジを傷め、1か月のノースローだった山田に対し、森下は夏の勢いが残り、近畿大会でも履正社(大阪)から11三振を奪って完封。チームはともに近畿8強で姿を消したが、山田が投げられなかった近江は、控え投手陣が踏ん張り切れず、失点の多さが響いてセンバツは補欠校に甘んじた。京都国際は森下を始め、甲子園経験者も多く、センバツでは優勝候補の一角に挙げられていた。そして開幕前日、思いもよらぬ事態が発生する。

京都国際出場辞退から近江準優勝

 京都国際の選手13人のコロナ感染が判明し、出場辞退。近江が急きょ、補欠1位からの繰り上げ出場となり、京都国際が登場するはずだった大会2日目の試合となった。宿舎の手配も間に合わず、彦根の学校を早朝に出発。山田ら数人が途中のサービスエリアで合流するという強行軍だった。長崎日大との試合は延長タイブレークの熱戦となり13回で振り切ると、その後は波に乗る。一気に滋賀勢初のセンバツ準優勝まで駆け上がった近江。優勝候補に挙げられながら辞退を余儀なくされた京都国際。明暗は、ここで正反対に分かれた。

辞退後、監督が謝罪の電話

 出場辞退で失意の中、京都国際の小牧憲継監督(38)は、近江の多賀章仁監督(62)に、「ご迷惑をおかけします」と謝罪の電話を入れていた。両監督は昨夏甲子園の開会式で席が隣り合わせになり、初めて挨拶を交わしたそうだ。多賀監督は「(こんな状況で)僕にはできない」と胸を打たれ、同時に山田と森下が親しくしていることを知った。「当たり前に野球ができるわけではない。京都国際さんの分までやろうと言ったし、しっかり後押ししてもらった」。京都国際の無念の思いを背負い、近江ナインは力をもらった。多賀監督は、この恩に報いることをずっと考えていた。

森下は4番DHで出場

 そして多賀監督の呼びかけで実現した練習試合。マイネットスタジアム皇子山での平日ナイターは、スタンドも無料開放され、両校関係者を除いても300人を超えるファンがネット裏からハイレベルな試合を観戦した。多賀監督は当初から「山田先発」を明言していたが、森下は春以降、ヒジの状態が思わしくなく、小牧監督の「僕も見たかった」という山田との投げ合いは幻となった。

山田からクリーンヒットを放つ森下。「打ったのはツーシームかスプリット。落ちる球の変化がすごく、真っすぐに見えた」と山田の実力を認めていた(筆者撮影)
山田からクリーンヒットを放つ森下。「打ったのはツーシームかスプリット。落ちる球の変化がすごく、真っすぐに見えた」と山田の実力を認めていた(筆者撮影)

 それでも4番DHで出場したバットでは本来の当たりを見せる。山田との初対決は右前への会心の安打で森下に軍配。好機で回ってきた2打席目はいい当たりの二ゴロとなったが、その後の近江の控え投手からは三塁打を含む2安打で、計4打数3安打とさすがの内容だった。

山田5回無失点、近江の1点差勝ち

 山田は明徳義塾(高知)との練習試合から中3日で、この日の最速は141キロにとどまったが、5回を2安打5三振無失点と文句のつけようがない。特に走者を背負ってからはギアを何段も上げ、相手に自分のスイングをさせていなかった。

山田は当初、3回までの予定だったが「あまり調子が良くなく、5回まで投げさせてもらった」。多賀監督は「イニングを追うごとに乗ってきた」とエースのパフォーマンスに目を細めた(筆者撮影)
山田は当初、3回までの予定だったが「あまり調子が良くなく、5回まで投げさせてもらった」。多賀監督は「イニングを追うごとに乗ってきた」とエースのパフォーマンスに目を細めた(筆者撮影)

 近畿大会の大阪桐蔭戦で負傷した右太ももも問題なく、バットでも4打数2安打だった。試合は初回、京都国際先発の平野順大(3年)から1点を奪った近江が、その後も横田悟(2年)の2ラン、小竹雅斗(2年)のソロで、5回まで4-0とリードを奪う。京都国際も山田降板後の6回、森下の三塁打を足掛かりに反撃開始。近江期待の1年生左腕・河越大輝から3点を返したが、小刻みなリレーの前に4-3で逃げ切られた。近江がDHを採用しない変則試合だったため結果はさほど意味を持たないが、小牧監督が「点差以上の実力差を感じた」と言うように、森下が投げない京都国際は全体に元気がなく、昨秋の近江を見ているようだった。

「(投球は)まだ調整程度」と森下

 山田との対決を振り返った森下は、「いい投手で、打ちたい気持ちがあった。自分のスイングができた。継続していきたい」とバットには合格点を与えたが、『本職』のマウンドに立てる状態ではないと言う。「まだ調整程度。キャッチボールくらいしかできていない」と一気にトーンダウンした。小牧監督によると「コロナ後の関節痛が長引き、ヒジの炎症が引かない」とのこと。6月下旬のブルペン入りが当面の目標になる。夏はぶっつけ本番も覚悟しているようで、小牧監督は「間に合ってくれないと困る」と話しつつも、救援で三振の山を築いた右腕・森田大翔(3年)らの好投に胸をなでおろしていた。

「甲子園で当たりたい」と山田

 一方の山田は「楽しかった。特別なものを感じる相手だったので、負けたくなかった」と正直な気持ちを吐露した。センバツ前に「頑張ってくれ」と激励のメッセージをくれた球友は、ヒジの故障と闘っている。昨秋、自身が泣かされた箇所と同じだ。それでも「あの低めは打ち崩せない」と投手・森下の実力を認め、「次に当たるのが楽しみ」と投げ合いを熱望した。「力があるチームなので勝ち上がってくると思う。次に当たるとすれば甲子園。甲子園で当たりたい」と聖地での再会を誓い、がっちりと握手を交わした(タイトル写真)。

両校の絆はさらに強固に

 「いい試合ができてありがたい」と安どの表情を浮かべていた近江・多賀監督は、「森下君が投げられないのは残念。それでも3安打はさすがだった」と相手の大黒柱を持ち上げた。引き上げる際にもわざわざ呼び止めて「これからも山田と仲良くしてやってほしい」と親心を見せ、ねぎらっていた。情に厚い多賀監督らしい。年下の小牧監督が、大先輩の多賀監督に入れた1本の電話でつながった絆は、これでさらに強固になった。甲子園を懸ける夏の地方大会ももうすぐ始まる。この友情を甲子園へつなげられるか、両校から目が離せない。

毎日放送アナウンサー

昭和36年10月4日、滋賀県生まれ。関西学院大卒。昭和60年毎日放送入社。昭和61年のセンバツ高校野球「池田-福岡大大濠」戦のラジオで甲子園実況デビュー。初めての決勝実況は平成6年のセンバツ、智弁和歌山の初優勝。野球のほかに、アメフト、バレーボール、ラグビー、駅伝、柔道などを実況。プロレスでは、三沢光晴、橋本真也(いずれも故人)の実況をしたことが自慢。全国ネットの長寿番組「皇室アルバム」のナレーションを2015年3月まで17年半にわたって担当した。

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