近畿大会は大阪桐蔭(大阪1位)が和歌山東(和歌山2位)に10-1で圧勝し、4年ぶり4回目の優勝を果たした。春夏甲子園でわずか1勝に終わった前チームよりもスケールダウンした感はあるが、試合運びははるかに安定している。劇的変化をもたらした要因とは?

1年生左腕・前田の出現

 「前のチームより力はない」と、いつも控えめな西谷浩一監督(52)は今チームを厳しく評価するが、あながち謙遜とも思えない。大阪大会では東大阪大柏原に苦戦を強いられて1点差で振り切ったり、要所でもたつく場面も少なくなかった。しかし、一人の選手の出現で、チームが劇的に変わった。1年生左腕・前田悠伍(タイトル写真)だ。入学当初から西谷監督も期待をかけていて、「夏の甲子園メンバーに入れようか迷った」と言う。

履正社に完投勝ちでエース格に

 前田は柏原戦で窮地を脱する好救援を見せ、西谷監督の信頼を得た。続く大商大堺戦で完投勝利を挙げると、履正社との大一番(準決勝)でも先発を任され3失点の完投勝利。この段階で、新チームのエース格にのし上がった。展望記事で、「(西谷監督が)今大会の大事な試合は、前田に託すことになるかもしれない」と記したのは、最大のライバルとの試合をこの1年生に任せたからである。そして、センバツが懸かる近畿大会でも、大事な場面は前田が全て背負った

塔南相手に完封勝利

 初戦の塔南(京都2位)には、序盤、硬さが出たか、2回に2死球を与えるなど不安定さもあった。「立ち上がりは手投げになっていた。下半身を使うことを意識して修正」(前田)すると三振も増え、三塁すら踏ませない完璧な投球。前田の2安打完封(7回コールド)で、チームはセンバツへ大きく前進した。

東洋大姫路、天理戦でも快投

 続く東洋大姫路(兵庫3位)戦はブルペン待機となり、4点リードの7回からマウンドに上がった。1安打を許しただけで3三振を奪い、4強入りに貢献すると、準決勝は3年連続で対戦となった天理(奈良3位)が相手。ここでも西谷監督は前田を先発に起用した。しかし、2回に3安打を浴び失策で先制される苦しい立ち上がり。それでも辛抱強く投げて味方が逆転すると、6回の好機では自ら3ランを放つ離れ業まで演じ、強敵に9-1のコールド勝ちを収めた。近畿大会3試合で17回を投げて12安打11三振失点1(自責0)。これはもうエースと呼ぶしかない。

投手としての要素を全て兼ね備える

 前田は、3年前の春夏連覇時の大型左腕・横川凱(巨人)の滋賀・湖北ボーイズの後輩に当たる。179センチの細身の体で、しなやかなフォームから、最速145キロの直球に、チェンジアップ、カーブ、スライダー、ツーシームなど、変化球でいつでもストライクが取れる。四球から崩れることはなく、「立ち上がりも悪くない」(前田)と、投手としての要素を全て兼ね備える久々の逸材に、西谷監督もその能力の高さを認める。

「ピッチングができる」と西谷監督絶賛

 「ボールも素晴らしいが、牽制、フィールディング、間合い。とにかくピッチングができる」と、自チームの選手をめったに褒めない西谷監督も賛辞を惜しまない。「今は怖いもの知らずで、伸び伸び投げてくれたらいい」と1年生らしく、当面は前田の勢いを尊重するが、指揮官ももちろん、先を見据えている。「まだ連投もさせていないし、体力もじっくりつけていかないと。変化球もいいが、器用貧乏にだけはなってほしくない。もっともっと、まっすぐを磨いてほしい」とセンバツまでの課題を挙げた。

先輩投手陣奮起で神宮大会へ 

 チームは、前田の活躍に刺激を受けた2年生投手陣が奮起し、決勝では和歌山東に3投手がつないで快勝。20日からの明治神宮大会に出場することになった。「この時期に全国の強豪とやれるのは、いい勉強になる」と、いつもにも増して、西谷監督は意欲的だ。

今チームの課題は打線か?

 長く大阪桐蔭を見てきて、今チームの課題は打線だと感じている。「大もの打ちはいないので、つないでつないで」と西谷監督が言うように、まだ打順も固まっていないし、控え選手が好結果を残す場面もあった。一方の投手陣に関しては前チームよりスケールは劣るかもしれないが、前田の出現で一本芯が通り、安定感は増している。神宮大会ではチームとして、好投手といかに対峙するかを見てみたい。