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センバツ決勝の予行? 大阪桐蔭-履正社 「大阪2強」早くも激突!

森本栄浩毎日放送アナウンサー
今夏全国制覇の履正社と昨年、春夏連覇の大阪桐蔭が、早くも激突する(筆者撮影)

 現在の高校球界は「大阪2強」、すなわち大阪桐蔭と履正社がリードしている。まずは、この秋の両校の試合結果を見ていただきたい。

大阪桐蔭

24-0渋谷 13-2岸和田 12-0大産大付 9-1近大付 11-0上宮 13-2初芝立命館

履正社

30-0八尾北 13-3明星 11-0阪南大高 9-1清教学園 11-0大商大高 8-0東海大大阪仰星 11-1金光大阪

両校ともすべてコールド勝ちで決勝へ

 現在、ワールドカップで盛り上がっているラグビーのスコアのような数字が並んでいる。大阪桐蔭は6試合中4試合が5回コールド。近年、2強に次ぐ力を持つと言われる近大付ですら7回までしか試合をさせてもらえなかった。一方の履正社も、7試合中5試合が5回コールドの圧勝で、最も「抵抗」したのは、甲子園未経験の清教学園の8回までだった。つまり、両校は今秋の府下公式戦で一度も9回まで戦っていない。それほどまでに、圧倒的な強さを見せているのだ。

センバツ大阪決勝の再現も?

 6日の準決勝を観戦した。新チームを取材するのは両校とも初めてで、高校野球において、筆者は第一印象を大事にしている。特にスタート時は、前のチームと必ず比較する。甲子園常連校といえども、毎年、いい選手がいるわけではない。この時期、早くもセンバツが絶望になり、目標が夏しかなくなったとき、どこに課題があるかはわかりやすい。しかし、レベルの高い大阪にあって、秋の段階でここまで突出した強さを発揮する「2強」は記憶にない。課題が見当たらないのだ。前チームで春夏とも甲子園出場を逃した大阪桐蔭(タイトル写真)は、履正社より1か月早く新チームがスタートし、昨秋から出場している中軸打者と投手が、力強さを増している。履正社は全国制覇を経験した投打の軸が健在で、かなり完成度が高く、夏の勢いも残っている。これが「2強」に対する筆者の第一印象だ。とにかく、欠点が少ない。このあとの近畿大会を経て、センバツで両校揃い踏みとなれば、一昨年の「大阪決勝」の再現も現実味を帯びる。さらに来夏の最終決戦は?考えただけでワクワクする。

大阪桐蔭のエースは経験豊富

 大阪桐蔭は初回、昨秋から4番に座る西野力矢(2年)のバックスクリーンへの2ランで先制すると、2回には5安打を集中して早くも9-0。エース候補として鳴り物入りで入学した6番・仲三河優太(2年)も本塁打を放って初芝立命館投手陣を粉砕した。

名門の背番号1を背負う藤江は、昨秋からマウンドに上がり、投手陣では一番、経験を積んでいる。宮崎県延岡市生まれで、最速は141キロを誇る(筆者撮影)
名門の背番号1を背負う藤江は、昨秋からマウンドに上がり、投手陣では一番、経験を積んでいる。宮崎県延岡市生まれで、最速は141キロを誇る(筆者撮影)

 先発の左腕・藤江星河(2年)は、4回を4安打4四球2失点とピリッとしなかったが、7三振を奪って経験値の高さを発揮すれば、5回には期待の左腕・松浦慶斗(1年)が登板。1安打2三振で抑え、危なげなかった。西谷浩一監督(50)は、「中心選手が打つと大量点になる。藤江は(味方に)点が入ってうまく投げようとしすぎた。現状では、経験もある藤江が投手の軸になる」と投打の柱の活躍を喜んだ。さらに、「松浦にはしっかり勉強してもらいたい」と、これからもチャンスを与える考えだ。同じ1年生には最速146キロの右腕・関戸康介もいて、将来、左右の二本柱として期待される。この日の藤江は変化球が多く、本来の出来ではなかったが、経験があるため、走者を出しても落ち着いている。投手陣はこの3人が順調なら、上積みもかなりありそうだが、西谷監督には、さらに期待する投手がいる。

期待のエース候補は打で貢献

 前チームから中軸を打つ仲三河は、中学時代(栃木・小山ボーイズ)から注目された右腕で、U15日本代表ではエース格だった。

豪快な本塁打を放つ大阪桐蔭の仲三河。肩の不安で投球は封印中だが、将来的にはマウンドを守る覚悟も。体も大きくなり、公式戦でも3本塁打だ(筆者撮影)
豪快な本塁打を放つ大阪桐蔭の仲三河。肩の不安で投球は封印中だが、将来的にはマウンドを守る覚悟も。体も大きくなり、公式戦でも3本塁打だ(筆者撮影)

 入学後すぐに頭角を現し、昨夏の北大阪大会でも投げている。惜しくも春夏連覇のメンバーからは漏れたが、秋にはエースとして期待された。しかし、昨年のこの時期は調子を落とし、投球練習もままならなくなっていた。大きな故障ではないが、春以降は、打者としてチームに貢献できるようになり、4番を打ったこともある。「大阪桐蔭でエースになることを目標にしてきた。今は打撃中心の練習だが、目標は変わらない。目標を落としたら伸びないと思うし、夏までに背番号1を取りたい」と、頼もしい言葉を口にした。西谷監督も、「もちろん、投手としても期待している」とキッパリ。甲子園では、投打「二刀流」での活躍に想いを馳せる。

始動遅れ感じさせない履正社

 夏の全国制覇で大阪桐蔭に一歩近づいた履正社は、始動遅れをまったく感じさせない。公式戦の初戦は大阪桐蔭より一週間早かったが、30得点の大爆発で、夏の甲子園で猛威を振るった強力打線は新チームでも健在だ。

小深田は、1年夏の大阪桐蔭戦でも中軸を打っていた。直接対決に向けては、「負ける相手じゃない。3番の役割に徹したい」と話す(筆者撮影)
小深田は、1年夏の大阪桐蔭戦でも中軸を打っていた。直接対決に向けては、「負ける相手じゃない。3番の役割に徹したい」と話す(筆者撮影)

 優勝メンバーでも主力だった池田凛(2年)が1番で、1年夏から中軸を打つ小深田大地(2年)が3番。さらに元阪神の関本賢太郎氏(41)を父に持つ関本勇輔(2年=主将)が4番を打つ。下位打者まで長打が期待でき、金光大阪との準決勝でも、二回り目に相手左腕をあっさり攻略した。この日も池田ら3選手が本塁打を放ち、岡田龍生監督(58)は、「思い切って振れている。打つ方は順調」と目を細める。

夏の優勝に大きく貢献した岩崎は、安定感で群を抜く。岡田監督は、「大阪桐蔭相手にどこまで踏ん張れるか」と、エースに期待を寄せる(筆者撮影)
夏の優勝に大きく貢献した岩崎は、安定感で群を抜く。岡田監督は、「大阪桐蔭相手にどこまで踏ん張れるか」と、エースに期待を寄せる(筆者撮影)

 エースは、優勝に大きく貢献した岩崎峻典(2年)で、大黒柱としての風格が出てきた。金光戦では、併殺を焦った内野手の失策から失点したが、完投能力もあり、安定感で大阪桐蔭の投手陣を上回る。「岩崎が6月に出てきて、投手陣に厚みが出た。あとは岩崎に続く投手が出てきてほしい」と指揮官は話すが、内野のミスが相次いだのは履正社らしくない。このあたりが始動遅れの影響だろう。

選手たちに自覚と自主性

 全員が寮生活をする大阪桐蔭と違って、履正社には寮がなく、一部の下宿生を除いてほぼ全員が自宅から通っている。岡田監督は、「(夏の優勝で)通学の電車の中で、声を掛けられることが多くなった」と言い、「常に見られているから自覚せんといかんぞ」と釘を刺している。それでも、「甲子園で活躍した選手たちがよく引っ張ってくれていて、何も言わなくても自分たちでやれている」と選手たちの自主性を評価した。今夏の精神と勢いは新チームにも受け継がれ、選手たちには自信がみなぎっている。これまでの手堅い野球からは、完全に脱皮した。

秋の直接対決でアドバンテージを

 秋の大阪大会決勝は、夏までの長い道のりを考えればほんの序章に過ぎないと思われるだろう。しかし、ここまで両校の力が飛びぬけると、数少ない直接対決で勝つアドバンテージもそれだけ大きくなる。「大阪2強」の構図ができ上がって10数年になるが、大抵は、まず、堅実な野球で履正社がリードし、大阪桐蔭が追いかけて、最後に抜き去ってきた。そして昨年は、始動遅れが大阪桐蔭にあり、秋は完敗。その後は同じような軌跡をたどるかと思われたが、結局、雪辱の機会を得ることなく、履正社に逃げ切られた。大阪桐蔭の西谷監督は、「(前チームは)一度も大阪で勝てず、悔しい思いをした。何とか優勝して近畿大会へいきたい」と、例年以上に秋の直接対決へ意欲を見せた。履正社の圧倒的な強さでの全国優勝と、それに続く新チームの力強さを目の当たりにし、昨年の二の舞だけは避けたいとの思いが強く感じられる。注目の一戦は、台風の影響も心配される中、12日に行われる。

大きな可能性秘める「2強」

 大阪以外の近畿各府県は近畿大会予選が終わり、近江(滋賀)、京都翔英、報徳学園(兵庫)、智弁学園(奈良)、智弁和歌山が1位になった。直接対決で負けると、これら1位校と初戦で当たる可能性がある。センバツへの道は、昨年の大阪桐蔭がそうであったように、決して平坦ではない。それでも今年の「2強」に限っては、これまでで最も大きな可能性を秘めている。夏まで夢を見させてくれることは間違いない。

毎日放送アナウンサー

昭和36年10月4日、滋賀県生まれ。関西学院大卒。昭和60年毎日放送入社。昭和61年のセンバツ高校野球「池田-福岡大大濠」戦のラジオで甲子園実況デビュー。初めての決勝実況は平成6年のセンバツ、智弁和歌山の初優勝。野球のほかに、アメフト、バレーボール、ラグビー、駅伝、柔道などを実況。プロレスでは、三沢光晴、橋本真也(いずれも故人)の実況をしたことが自慢。全国ネットの長寿番組「皇室アルバム」のナレーションを2015年3月まで17年半にわたって担当した。

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