Yahoo!ニュース

明石商・来田は藤原以上の逸材か!

森本栄浩毎日放送アナウンサー
センバツは大詰め。初の4強入りを果たした明石商には超逸材・来田がいる(筆者撮影)

 長い間、高校野球の実況をしているが、こんなすごい球児は初めて見た。明石商(兵庫)の来田涼斗(2年=タイトル写真)だ。野手を評価する際、よく「走攻守・三拍子そろった」という表現を使う。昨秋ドラフトで、3球団競合の末、ロッテから1位指名された大阪桐蔭の藤原恭大がその典型と言える。藤原と比較すれば、走と守に関してはまだまだだが、「攻」に関しては、来田の方が上ではないかとさえ思える。

近畿大会再戦は大熱戦に

 智弁和歌山との準々決勝は、秋の近畿大会準決勝の再戦となった。秋は明石商が来田のアーチなどで、12-0の5回コールド勝ち。前哨戦は一方的な試合だったが、この日の「本番」は、両者一歩も譲らぬ熱戦となった。蛇足になるが、近畿大会の準決勝がいかにあてにならないかを証明するようなものだ。将来の選考で、近畿の準決勝が引き合いに出されたら、真っ先にこの対戦を思い出してもらいたい。

来田の先頭弾で追いつく

 明石商は、エースの中森俊介(2年)が制球に苦しみ、立ち上がりに押し出し四球で1点を失う。しかし、来田の一振りで、あっという間に同点となる。智弁先発の左腕・池田泰騎(2年)のスライダーを完ぺきにとらえた。2打席目は、いとも簡単に左中間のフェンス際まで運ぶ犠飛で、3-1とリードを広げた。その後は智弁も食い下がり、同点で迎えた9回。先頭は来田だ。

筆者「一発の予感」を実況

 実況席で筆者は、「一発で終わるかもしれない」という予感がした。前の打席で、智弁の二番手・小林樹斗(2年)の最速147キロの速球とスプリットのコンビネーションに手を焼き、三振を喫していた。この打席も追い込まれたが、スプリットを見切ったタイミングで、筆者は打ちそうな気がした。「来田には長打があります」そう言い終わるやいなや、そのときは訪れた。

「来田に始まり、来田で終わる」

 「カキーン」快音を残して、打球は夜空に舞い上がった。「出たー! サヨナラホームラーン!  来田のホームランに始まって、来田のホームランで試合が終わります!」甲子園史上初の同一試合先頭打者本塁打&サヨナラ本塁打だ。久しぶりに、背筋がゾクッとした。それくらい、すごいものを見た、そして実況した。この男は、ただ者ではない。藤原も長く取材したし、彼のすごさも目の当たりにしてきた。「来田は藤原二世」ということも聞いていたが、それが間違いではないこともはっきりした。いや、それ以上かもしれない。

藤原以上の対応力

 藤原も大阪桐蔭の2年時は1番を打っていた。長打もあった。しかし、当時の藤原は、三振が多かった。打てない投手もあった。この日、来田も三振したが、同じ相手に同じ失敗は繰り返さない。前打席でやられた相手の決め球を見切って、一発で仕留めた。対応力の高さが、来田の一番、素晴らしいところだ。ミートのうまさと飛距離は、当時の藤原を凌ぐ。しかし、脚力と守備はかなり見劣る。守備では昨夏の甲子園で手痛い失策もしているし、この試合でも、危なっかしい捕球があった。脚力に関しては、まだ能力のすべてを試合で出し切っていない。1番を打っているが、来田がチャンスメイクするというより、来田が返す場面がほとんどだからだ。準決勝以降、マークが厳しくなり四球も増えるだろうから、来田を起点に得点できれば、明石商の得点力はさらに増す。

2年で日本代表なら藤原に並ぶ

 そしてこの日、U18高校日本代表一次候補選手が発表され、来田は5日からの研修合宿に参加することになった。2年生で代表に選ばれれば、藤原と肩を並べることになる。当分の間、来田からは目が離せない。

 

毎日放送アナウンサー

昭和36年10月4日、滋賀県生まれ。関西学院大卒。昭和60年毎日放送入社。昭和61年のセンバツ高校野球「池田-福岡大大濠」戦のラジオで甲子園実況デビュー。初めての決勝実況は平成6年のセンバツ、智弁和歌山の初優勝。野球のほかに、アメフト、バレーボール、ラグビー、駅伝、柔道などを実況。プロレスでは、三沢光晴、橋本真也(いずれも故人)の実況をしたことが自慢。全国ネットの長寿番組「皇室アルバム」のナレーションを2015年3月まで17年半にわたって担当した。

森本栄浩の最近の記事