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2017夏の甲子園 総括

森本栄浩毎日放送アナウンサー
夏の甲子園は花咲徳栄(画面奥)が決勝で広陵を破り、埼玉勢初の夏制覇を果たした

 夏の甲子園が終わった。最後まで打撃優位の流れは変わらず、優勝の花咲徳栄(埼玉)が6試合連続の二桁安打。準優勝の広陵(広島)も6試合すべてで二桁安打を記録。また個人大会通算本塁打記録が32年ぶりに更新されるなど、「超打高投低」の大会だった。

決勝は大差も流れひとつで

 打高投低の象徴が決勝だった(タイトル写真)。スコアは14-4と開いたが、安打は徳栄16に対し、広陵13で、流れひとつで試合内容は変わっていたはずだ。例えば初回。2点を追う広陵が、中村の二塁打で1死2、3塁とした場面で1点でも取れていれば、違った展開になっただろう。5回の徳栄の猛攻は、先頭四球からで、失策も絡んだ。広陵の投手陣の消耗が激しく、二番手の山本雅也(3年)が勢いを止められなかった。交代機は難しかったとは思うが、5、6回で計10失点はいかにも多すぎる。逆に徳栄は大差がついて、救援の清水達也(3年)が楽に投げられた。広陵は清水に対してもしっかり対応できていたから、挽回可能な点差で終盤を迎えたかった。

中村はすさまじい打力

 大会前から好投手の少ない大会という予想にたがわず、乱打戦や終盤の逆転劇が目立った。

通算本塁打の新記録を樹立し、中井監督とハイタッチする広陵の中村(背番号2)
通算本塁打の新記録を樹立し、中井監督とハイタッチする広陵の中村(背番号2)

大会通算の本塁打は68本で、06年の60本を大きく上回った。また個人でも、広陵の中村奨成捕手(3年)が、32年ぶりに大会個人最多本塁打の記録を塗り替えた。中村は、安打数(19)でもタイ記録をマークしたほか、塁打(43)や打点(17)でも歴代トップの記録を打ち立て、通算で28打数19安打の.679というすさまじさ。まさに手がつけられないとはこのことだ。

終盤の逆転目立つ

 終盤の逆転劇もこの大会の特徴だった。

開幕戦は彦根東が逆転サヨナラで制し、劇的な幕切れに。今大会は終盤の逆転が目立った
開幕戦は彦根東が逆転サヨナラで制し、劇的な幕切れに。今大会は終盤の逆転が目立った

開幕試合の彦根東(滋賀)と波佐見(長崎)が彦根東の逆転サヨナラで決着したのを皮切りに、優勝候補の木更津総合(千葉)が9回2死から日本航空石川に逆転を許した1回戦。終盤の逆転ではないが、智弁和歌山は、興南に6点先行されながら、9点を奪って逆転した大味な試合もあった。終盤に本塁打で逆転した劇的な試合もあり、神戸国際大付(兵庫)は、7回に6番谷口嘉紀(2年)の逆転3ランで北海(南北海道)に。明豊(大分)は8回2死から3番浜田太貴(2年)の2ランで坂井(福井)を逆転してそれぞれ初戦を突破した。

終回2死からの暗転も

 大会中盤以降でも打撃優位は変わらなかった。3回戦の神村学園(鹿児島)と明豊は延長にもつれ込み、先攻の神村が12回に3点を挙げて勝利は確実かと思われたが、その裏に2死無走者から4安打と3四球で明豊が逆転サヨナラを演じた。そして、優勝候補筆頭の大阪桐蔭は勝利目前の9回2死無走者から仙台育英(宮城)に逆転サヨナラ負けを喫し、準々決勝を前に姿を消した。敗退した両校とも、マウンドにいた下級生投手が踏ん張れず、泣き崩れたシーンには胸が痛んだ。逆転には至らなかったが、準々決勝で天理(奈良)を猛追した明豊。広陵を追い詰めた準決勝の天理の粘りは、大会を盛り上げた。

ファンの「タオル回し」に一考を

 このような逆転や猛追の要因は、今大会の投手レベルが低かったこともあるが、スタンドの雰囲気がそうさせるのでは、とも感じさせられている。昨年、東邦(愛知)が八戸学院光星(青森)相手に、9回に5点を奪って逆転サヨナラを演じた試合があった。試合後、光星の投手が、「(スタンド)全部相手の応援に感じた」と話し、精神的に追い詰められていた様子で、実に気の毒だった。というのも、この試合でスタンドの多くのファン(どちらかのファンではないフラットな観戦者)が、追い上げる東邦に対し、タオルを回して応援していたのだ。自チーム応援団以外が皆、相手を応援するのは、プロ野球ではよくある。ホームアンドアウェイのプロ野球では、その逆もあるから何ら問題はない。しかし、高校野球でこの光景は異常だ。今大会もよく似たシーンが何度かあった。長く高校野球を見てきたが、ファンのマナーは確実に悪くなっている。「タオル回し」は、フェアプレーを期待しているはずのファンが「悪乗り」して、自らフェアではない行為をしているようなものだ。プレーに魅了されて、いつしかどちらかを応援するようになるのは高校野球の自然な流れである。強豪私学相手に公立が終盤に追い上げて球場全体から手拍子が沸き起こるシーンは何十年も前からあった。しかし、選手の視界に入って精神状態をかき乱す「タオル回し」は、甲子園の高校野球にそぐわない。来春センバツではこの「愚行」が一掃されることを願っている。

節目の来年に期待

 さて、来年はセンバツが90回。夏は100回の節目を迎える。選手も現2年生のレベルが高いと評判で、今大会でも「プラチナ世代」と呼ばれる2年生が主力だった大阪桐蔭を始め、横浜(神奈川)、智弁和歌山などは、確実に今年以上の戦力になる。

今大会、公立で唯一、8強入りした三本松。彦根東とともに大会を盛り上げた
今大会、公立で唯一、8強入りした三本松。彦根東とともに大会を盛り上げた

今夏を逃したチームでも、龍谷大平安(京都)などは、京都準優勝のメンバーが7割方残っていて、近年では最強の呼び声高い。一方で、今夏の公立の出場は戦後最少の8校にとどまった。三本松(香川)が8強に残って気を吐いたが、強豪私学全盛にあって、やはり地元出身者の全員野球は高校野球の原点である。節目の年に、大会を盛り上げる公立校の出現を期待している。

毎日放送アナウンサー

昭和36年10月4日、滋賀県生まれ。関西学院大卒。昭和60年毎日放送入社。昭和61年のセンバツ高校野球「池田-福岡大大濠」戦のラジオで甲子園実況デビュー。初めての決勝実況は平成6年のセンバツ、智弁和歌山の初優勝。野球のほかに、アメフト、バレーボール、ラグビー、駅伝、柔道などを実況。プロレスでは、三沢光晴、橋本真也(いずれも故人)の実況をしたことが自慢。全国ネットの長寿番組「皇室アルバム」のナレーションを2015年3月まで17年半にわたって担当した。

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