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頂点見えた! 夏の甲子園準決勝

森本栄浩毎日放送アナウンサー
酷暑の今大会。消耗の少ない2回戦から登場の4校が勝ち残った。ここからは気力勝負だ

今夏は暑い。例年、お盆を過ぎると涼風が立ち始めるのだが、その気配は全くない。その影響かどうか、4強に勝ち残ったのは2回戦から登場したチームばかり。抽選では、49校中15校が2回戦からの登場になる。本気で優勝を狙っている監督たちは、「ここに入るかどうかが最大のポイント」と口を揃える。力がありながら敗れたチームには気の毒な話だが、その意味では4強進出校の日程的条件は全く同じ。休養日は1日だけで、さほど選手たちの体調が戻るとは思えないが、波に乗っているチームの勢いがそがれたようなことはあった。波乱続きの今大会。リセットして行われる準決勝はどんなドラマが待ち受けるか。

作新学院(栃木)-明徳義塾(高知)

今大会最速の152キロをマークした作新・今井達也(3年)と、堅守のバックを信じ、丁寧な投球で凡打の山を築く明徳・中野恭聖(3年)という対照的なエースの対決。今井を、試合巧者の明徳がどこまで攻略できるか。

最速エース擁する春夏連覇経験校~作新学院(タイトル写真)

今井は、初戦(2回戦)の尽誠学園(香川)戦で151キロをマークし、注目を浴びた。

作新・今井は3試合全てで150キロ超をマーク。明徳を力で抑え込むか
作新・今井は3試合全てで150キロ超をマーク。明徳を力で抑え込むか

次戦では、変化球も冴え、直球に頼らない投球で能力の高さを見せる。早川隆久(3年)との好投手対決になった木更津総合(千葉)戦では、終回でも150キロ超を記録し、底知れぬスタミナも持ち合わせている。小針崇宏監督(33)は、「(今井も含め)このチームは成長がすごい。普段からの取り組みが良かったから」と評し、「ここからは気持ちの部分が勝負」と言い切る。打線は好投手との対戦が続き、チーム打率は.257にとどまるが、3試合連続本塁打の入江大生(3年)を筆頭に、いいタイミングで今井を援護できている。同校は1962(昭和37)年に高校野球史上初の春夏連覇を成し遂げた高校球界屈指の名門。1973(昭和48)年には怪物・江川卓(巨人)を擁し、甲子園を沸かせた。しばらく低迷したが、小針監督が就任してから栃木では独走状態で、夏は6年連続出場。この6年で4強2回、8強1回と往時の勢いが戻っている。

センバツ完敗バネにしたたかさ健在~明徳

4年ぶりに4強に残った明徳は、センバツで龍谷大平安(京都)にいいところなく初戦完敗。馬淵史郎監督(60)は、「これまでで一番恥ずかしい試合」と落胆した。そこから短期間でここまでのチームに仕上げるとは、さすがと言うほかない。

明徳・中野は直球とスライダーのコンビネーションが冴え、バックの堅守で好投する
明徳・中野は直球とスライダーのコンビネーションが冴え、バックの堅守で好投する

エースの中野は、130キロ中盤の直球とキレのいいスライダーのコンビネーションで、鳴門(徳島)を3安打完封。嘉手納(沖縄)との3回戦では体の開きが早く、シュート回転する抜け球が多かった。「『力が入りすぎや』と(馬淵)監督に怒られました」と苦笑いするが、準々決勝では完全修正。鍛え上げられた守りで相手に流れを渡さず、したたかさを存分に発揮している。ここまでのチーム打率は.392と高いが、鳴門戦では13安打で3点に終わった。今井から大量点は望めないので、いかに好機を得点に結びつけるかがポイントになる。春夏34回の出場で通算56勝。これまでの戦力からすれば、優勝が夏の1回だけというのはやや物足りないが、常に堅実なチームで、初出場校や新鋭校にとって大きな壁になっている。

北海(南北海道)-秀岳館(熊本)

大黒柱・大西健斗(3年=主将)が踏ん張る北海と、力のある投手を巧みに継投する秀岳館。これまた投手起用は対照的だが、打線の力は秀岳館に一日の長がある。大西がどこまで粘れるか。

大黒柱が牽引する北の名門~北海

昨夏、開幕戦で鹿児島実に4-18と大敗。大西も3番手で投げたが、アウトを一つも取れず降板した。「まずは1勝と思っていた」という大西だが、試合を重ねるごとに安定感が増している。

北海・大西はエース、4番、主将の重責。大黒柱の奮闘に北海道のファンも熱狂する
北海・大西はエース、4番、主将の重責。大黒柱の奮闘に北海道のファンも熱狂する

140キロを超える速球とスライダーで、コーナーを丁寧に突く投球が持ち味。捕手が下級生の佐藤大雅(2年)ということもあり、相手の狙い球を見抜いて組み立てを変える冷静さも光る。校歌を歌ったあと、相手ベンチに敬礼していた。「平川先生(敦監督=45)から『相手あってのスポーツ。常に相手を敬う気持ちを忘れないように』と言われています」と話す姿は実にさわやかで好感が持てる。大会中にファンになったという方も多いのでは。平川監督は、「(大西は)気持ちのこもったいい投球ができている」と大黒柱を絶賛する。3回戦、準々決勝で初回に失点したように、立ち上がりがカギで、制球が甘くなるのが欠点だ。打線は大西の負担を減らすため4番を外して8番に下げたが、2年生の4番・佐藤大が3回戦で決勝打。5番・川村友斗(2年)が2試合連続本塁打と下級生が活躍が目立つ。戦前から活躍する北海道の大名門で、北の球児たちが憧れる。37回出場は選手権全国最多で、甲子園での最高成績は1963(昭和38)年のセンバツ準優勝。選手権初の決勝進出なるか。

多彩な投手陣が完璧継投で進撃~秀岳館

センバツでは、高松商(香川)に延長で惜敗し、決勝進出を逃した。多彩な投手陣を巧みに継投する戦い方は変わっていないが、多くの投手が大きく成長している。その投手起用は、初戦が先発・川端健斗(2年=左)3回無失点~2番手・田浦文丸(2年=左)4回1失点~3番手・有村大誠(3年=右)2回無失点で、常葉菊川(静岡)に6-1。

3回戦で先発も準々決勝で登板がなかった田浦。準決勝では登板のチャンスも
3回戦で先発も準々決勝で登板がなかった田浦。準決勝では登板のチャンスも

3回戦は、いなべ総合(三重)相手に、田浦先発で3回1/3を1安打1失点(自責0)。2番手で中井雄亮(3年=左)を初起用し、3回を無失点。最後を川端が締めて、左腕リレーでこれまた6-1と快勝した。2試合とも相手投手陣が互角に渡り合ったが、勝負どころでスパッと交代させる鍛冶舎巧監督(65)の思い切りのよさは、選手たちへの信頼の証しか。難敵相手となった準々決勝の常総学院(茨城)戦は、川端が4回まで無安打投球で、2点をリード。5回に1点を許すと、救援した中井があっという間に6回を三者凡退に切って、流れを渡さなかった。3点リードの9回2死から有村を投げさせ、内容互角ながらスコアは4-1と危なげなかった。当然、この先も継投策になるが、左腕投手の好調さが目立つ。彼らの特長を引き出す、捕手・九鬼隆平(3年=主将)の好リードも大きな要因だ。攻撃陣は、チーム打率.299で、連打こそ少ないものの、本塁打を放っている松尾大河(3年)、天本昂佑(3年)らが当たっている。北海との試合も、序盤で主導権を握れれば、得意の継投策に持ち込めるだろう。同校は、八代商、八代一を経て、2001(平成13)年に秀岳館となった。甲子園での活躍は、実質今回が初めてと言え、古豪・北海との顔合わせは興味深い。

毎日放送アナウンサー

昭和36年10月4日、滋賀県生まれ。関西学院大卒。昭和60年毎日放送入社。昭和61年のセンバツ高校野球「池田-福岡大大濠」戦のラジオで甲子園実況デビュー。初めての決勝実況は平成6年のセンバツ、智弁和歌山の初優勝。野球のほかに、アメフト、バレーボール、ラグビー、駅伝、柔道などを実況。プロレスでは、三沢光晴、橋本真也(いずれも故人)の実況をしたことが自慢。全国ネットの長寿番組「皇室アルバム」のナレーションを2015年3月まで17年半にわたって担当した。

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